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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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05 行動開始

「ふぅ……。やっぱりこのルートは逃れられない運命か……」


 王都の公爵邸、その執務室で、俺は机の上につっぷしていた。


 リンとの対談の中で思いがけず、領地を守り世界を救うには王位簒奪(さんだつ)ルート必須と思い知らされ、ガックリときていたところである。


 もっとも、今思うと単に無理矢理見ないふりをしていただけだった気もするが……そもそも王位簒奪は俺自身の破滅ルートだったからこれは仕方ないはずだ。


「少し前までマークスチュアートは王位を奪うつもりで動いていたし、やらなきゃならないならやるしかないが、しかし間違いなく血なまぐさい話になるよなあ」


 俺が完全にもとのマークスチュアートのままだったなら血の粛清しゅくせいとか平気でやるだろうが、日本人の感覚が戻った今となってはキツいことこの上ない。とはいえマークスチュアートとして生きてきた感覚もしっかりあるわけで、やるとなったら切り替えるのは早かった。


「まあしかし、やらないとそれ以上にひどいことになるわけだし、ここは踏ん張るところか。ともかく準備をして王家の出方を待つ……といっても、アラムンドの話だと早々に王家とは決裂しそうだけどな」


 どうやらロークスはフォルシーナとアミュエリザを差し出せと言ってくるつもりらしい。本来なら公爵としてはそれを受け入れて、王家との亀裂を避ける方に動くべきなのかもしれない。だが残念ながら、すでにロークスには王としての資質がないどころか国を滅ぼす可能性があることは明確になっている。特にレギルが『試作機1号』を持ち帰ったら、それでロクでもない考えを起こすはずだ。楽観視は捨てて今はやることをやるとしよう。


「そうなると、まず必要なのは派閥貴族の結束を固めること、それから王都から去った宰相らと連絡を取ること。それから王家との戦への対応か。一番の問題はレギルの『ソウルバーストボム』だな。それとロークスとゲントロノフの背後関係も気をつけないとマズいか。ああくそ、やることが多い」


 ともあれまず必要なのは身内の意思統一だ。俺は公爵領へと『転移』した。




 公爵邸の執務室に転移した俺は、まず家宰ミルダートと将軍ドルトンを呼び出した。


 応接セットに2人を座らせ、フォルシーナも同席させる。『実験体0号』改めツクヨミは自分の席に座ったままだ。


 俺は3人の顔を順に見てから、一呼吸置いてゆっくりと話を始めた。


「急に集まってもらって済まぬな。単刀直入に言う。今後、当ブラウモント家は、ローテローザ家と協調し、王家とゲントロノフ家に王位簒奪の疑いありと糾弾をした上で、現国王の退位を求めることとする」


 俺はそこで言葉をいったん区切る。


 意味を察したフォルシーナは目を輝かせ、ミルダートは深くうなずき、ドルトンは一瞬鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった後、「はぁ~」と声をもらした。


「無論、現国王については、魔族侵攻を知りながら王都の戦力を移動させ、王都民に多大な被害をもたらしたこともあわせて糾弾するつもりだ。当然、これらを行えば王家と我らの間の関係は一気に崩れよう」


「内戦になるということですね、お父様」


 フォルシーナの質問に、俺は重々しくうなずく。


「間違いなくそうなるであろう。無論内戦となれば民たちには負担を強いることになる。しかし様々な情報を総合すると、王家が今のままではこの国に先はないと判断せざるを得ない。そうなったとき、最も被害を受けるのもまた民だ。ゆえに、現王家との対立を選択した」


「結構なことだと思います。して、ローテローザ公以外の貴族はいかがするおつもりでしょうか?」


 ミルダートは微塵も難色を示すことなく聞き返してくる。


「派閥の貴族たちは以前よりつながりを太くしているので問題なかろう。問題は先日王都を離れた宰相らだが、彼らについては私が直接話をして説得をする。彼らはすでに王家とたもとをわかった者たちだ。ローテローザ公とともに話をすれば間違いなくこちらにつくことになろう」


「先日の裁判ではお館様に恩を受けた方々ですからな。ただちに早馬を向かわることにいたしましょう」


「うむ。それからこれがもっとも重要な点だが、次の王を誰にするかは王国貴族の合議の上で決定することとする。場合によっては先代王妃のお腹の中の子を次の王とすることも視野に入れる」


「お父様、それは、合議の上お父様が指名されれば、お父様が王として立つということでよろしいのですね?」


 フォルシーナは、すでに俺以外が指名されるはずがないと信じ切っている様子である。


 う~ん、彼女は本当に王位についたオレを断罪するはずの人間だったのだろうか。


「指名されれば引き受けるしかなかろうな」


「わかりました。私も全力でお父様の大望をお手伝いいたします!」


 いやそんな大望は持ってないんだけどね。あくまで仕方なくだから、仕方なく。


 俺が微妙に苦い顔をしていると、ドルトンがようやく話に追いついてきたようだ。


「ということは公爵閣下、領軍は今後、攻城戦を視野に準備をしとけばいいんですかね。ゴーレムがいれば城壁は簡単に乗り越えられるとは思うんですが」


「いや、速度を重視した野戦の準備で十分だ。私の『転移魔法』を使えば城壁内に軍を直接転移できる。上手くいけばまともな戦にすらなるまい」


「ははぁ、それはちょっと相手が可哀想ですなあ。というかもしかして、軍勢自体も『転移魔法』で飛ばせたりするんですかい?」


「今の魔力では人数が100を超えると難しい。そこは少し考えがあるので待て。それと王家も魔族から『転移の魔道具』なるものを手に入れており、軍勢を遠くまで転移できるようだ。ただこちらは、転移先にも魔道具の設置が必要になるので、私の『転移魔法』ほどの脅威はない」


「いやそれは十分脅威だと思いますぜ」


「本来ならな。ツクヨミ、少しよいか?」


「はいマスター」


 椅子に座っていたツクヨミが、立ち上がって俺の方に歩いてくる。


「お前は『転移の魔道具』というものを感知できるか?」


「はいマスター、可能です」


「現在どこに設置されているかわかるか?」


「研究所のある森の北部外縁に一か所、そのさらに北にある王都の内部に一か所感知できます」


「今後増設された場合は報告せよ。他に気になる反応はあるか?」


「研究所内に侵入した者たちが第二研究室に到着しました。『試作機1号』と接触を試みています」


「ああ、それがあったな。そのまま監視を続けておけ。さて、そういういわけでドルトン、今後『転移の魔道具』が設置されればすぐにわかる。そこまでの脅威にはなるまい」


「はぁ~、なるほど、そのお嬢ちゃんはそんなことまでできるんですかい。こりゃますます相手が気の毒ですなぁ。しかし公爵閣下といると、今までの戦術が簡単にひっくり返っちまいますぜ」


「ドルトンには後ほど私の力でできることを示そう。それを元に戦術を考えておいて欲しい」


「わかりやした。ない知恵絞って考えますわ」


「さて、私からの話はまずは以上だが、なにか質問などはあるか?」


「お父様、ゲントロノフ公も糾弾するとおっしゃっていましたが、マリアンロッテはどうなるのでしょうか?」


「ゲントロノフ家については、かの家がどこまではかりごとや魔族などと関わっているのかを調べたのち処断は決まろう。もちろんその時にはマリアンロッテ嬢までは罪が及ばぬようにする。そもそもマリアンロッテ嬢は、我らに国王の不義を伝えに来た人間だ。賞することはあっても罰することはありえん」


「それなら安心いたしました。それとお父様は今後どうなさるのですか?」


「まずはローテローザ公と話を詰める。そののち貴族家をいくつか回って協力を取り付けたのち、私自身についても戦の準備をするつもりだ」


「私はどうすればいいでしょうか?」


「フォルシーナはクーラリアやマリアンロッテ嬢たちとともに戦いの経験を積んでおくといい。この先、この大陸はしばらく戦乱のちまたとなろう。力ある者が一人でも多く必要になる」


「承知しました」


 と一段落したところで執務室の扉がノックされ、使用人が入ってきた。


「お館様、王家より使いの方がいらっしゃっております」


 その連絡に、フォルシーナが鋭く反応して俺の顔を見てくる。


 どうやら事態は待ったなしで動き始めたようだ。

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