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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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04 避けられぬ運命

『転移の魔道具』。


 それはゲームでも登場した、魔族だけが使える便利アイテムである。


 その魔道具を設置した拠点間を一瞬で移動できるというもので、俺の使う『転移魔法』に比べると色々と制限があるものの、ゲーム世界でもパラダイムシフトを促すものとして扱われていた。


 その有用性はもちろんリアルなこの世界でも同じであるはずで、先にあった魔族の王都襲撃の際にも、魔族領奥地から大勢の魔族を国境線近くに運ぶために使用されていたはずである。


 問題はそれを王家が使っていたということだが、魔族とつながりがある以上考えておくべきだったかもしれない。大森林でもリンたち騎士団が異常に早く遺跡に到着していたが、それも当然だったわけだ。


 しかしここにきてちょっと急展開気味になってきた。このあたりで状況を整理しておかないとゲーム知識だけでは対応できそうもない――


 と俺が少しだけ思索にふけっていると、リンが姿勢を正して口を開いた。


「ところで公爵閣下、私からも閣下にお伺いしたいことがあります」


「なにかね?」


「あの遺跡ですが、閣下はあの中になにがあるのか正確にご存じなのではありませんか?」


「む……」


 さすが『燐光りんこうの姫騎士』リン、やはりそこは勘付いてしまうか。


「多少は知っている。書物から得た知識ではあるが」


「お教え願えませんか?」


「ふむ、まあよかろう。あの遺跡には古代文明の強力な兵器が隠されているのだそうだ。私としてはその真偽を知りたくて遺跡を調べに行ったのだが、結果は貴殿も知っての通りだ」


「なぜ王家に秘密で行かれたのでしょうか?」


 おっと、これはなかなかにクリティカルな質問だ。


 先にも言ったが、リンは俺に王家への叛意はんいありと考えている人間の一人である。実際過去の記憶を手繰って見ても、彼女はそのような態度を隠してはいなかった。


「貴殿はそのような危険な兵器をロークス国王陛下が手に入れたらどうなると思うかね?」


「閣下、それは質問の答えには――」


「それが答えだよラシュアル団長。そしてその答えは貴殿の中にもあろう」


 ともっともらしく言うと、リンは言葉に詰まって考え込み始めた。


 うむ、即答すると詰みになる質問にはいつもの曖昧発言に限るな。


 なにしろこっちは見た目インテリな丸眼鏡糸目公爵、適当に言っておけば向こうがいい方に解釈してくれるというチート持ちである。


 それを証するように、リンはいったんは納得したという顔でうなずいた。


「なるほど、それは理解いたしました。するともしレギルが遺跡からその兵器を持ち帰ることがあるなら、事態が動く可能性が大きいということですね」


「うむ。魔族のこともあるが、この国はそれ以外にも、周辺国との間に少なくない軋轢がある。そして王家は先の裁判騒ぎで求心力を失っている。これは危険な兆候だ」


「たしかに。しかしだからこそ、三大公が王家を支えねばならないのではありませんか?」


 ここで再びクリティカルな質問をしてくるリン。


 たしかにそれは正論ではある。正論ではあるのだが、ロークスが『破滅ルート主人公』であり、すでに相応の行動をしている以上、俺としてはとれない行動である。


 と考えてみて、ようやく俺は理解した。『立太子の儀』でロークスがあの発言をした時点で最初から俺の簒奪さんだつルートは避けられなかったのだ。なぜならロークスが力を持つことは即ち、この国だけでなくこの世界の終焉しゅうえんを意味するのだから。


 しかしそれをリンの正論から再確認することになるとは思わなかったな。やはり反対意見を聞くことも人間にとっては重要ということか。


 俺が溜息をついていると、リンが訝しげな顔をする。


「公爵閣下……?」


「ああ済まぬ。ラシュアル団長の言葉を聞いて、ようやく自らのすべきことが理解できたのだ」


「それは良かったと申し上げたいところですが……」


「恐らく私の結論は、団長の想像とは異なったものになろう。ただこれだけは言っておきたい。私が最優先するのは我が領民たちの身、そしてこの国の民の命だ。その命を軽んずる者は看過できぬし、そのような者にくみするつもりもない」


「それは……!?」


「貴殿は遺跡で行き会った時、私の連れていた者たちの中にマリアンロッテ嬢がいることに気づいたであろう?」


 その問いにリンは目を見張り、そしてうなずいた。


「はい、彼女のことはよく知っておりますので」


「なぜそのことを国王陛下に伝えなかったのかね?」


「それは……そのことが陛下に知れれば、ブラウモント公爵閣下との間に亀裂が生じるから、ひいては国が割れるから……」


「それだけではあるまい。マリアンロッテ嬢が陛下の元に戻されることを避けたかった。違うかな?」


 この上なく苦しそうな顔をするリン。腹黒公爵と違って真面目な性格だから、こういうやりとりは辛いだろうな。


「……それは、理由としてなくはありませんでした」


「私も同じ考えなのだよ団長。これはローテローザ公も同じだ。そしてさらに言えば、私もローテローザ公も、マリアンロッテ嬢から恐ろしい話を聞いているのだ」


「それは……?」


「ロークス国王が、魔族が王都を襲撃するのを知りながら、南部森林開拓部隊をわざとサウラントにとどめていたという話だ。魔族に落とされた王都を奪還することで、自らが王となるためにな。貴殿も心当たりがあるのではないか?」


 俺の問いにリンは今日一番に苦しそうな表情で下を向き……そして、微かにうなずいたのであった。

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