09 実験体1号 1
その後操作盤をいじって調べてみたが、それ以上の有益な情報は得られなかった。
ただこの二体の『実験体』について、『1号』は魔族と戦うため、そして『0号』はそれより強大な敵と戦うために作られた、ということがわかっただけだった。
いや、ますます『0号』が危険な存在である可能性が高まったわけで、非常に重要な情報ではある。そして鼻をつくようなフラグ臭。もう『0号』起動は確定である。
ともかく再び廊下を進んでいく。先ほどの警報で遺跡の防衛システムが起動したのか、ところどころで『ガードゴーレム』が出現する。とはいえすでにフォルシーナたちの相手ではない。できるだけメイドのミアールに止めをささせて『ゴーレム核』を回収していく。ミアールのレアドロップ率はだいたい7割を少し超えるくらい、これはきっと運系スキル最上位の『神運』だな。とんでもない人材がいたものだ。おかげでヴァミリオラのミアールを見る目が妖しさを増している。
しばらく進むと、ザコに上位の『ガードリーダー』が現れるようになる。赤い色の、両腕が剣になっている接近戦特化のゴーレムだ。Aランク相当のモンスターなのでさすがにフォルシーナたちも最初は多少苦戦していたが、すぐに慣れて簡単に倒すようになってしまった。特のアミュエリザとクーラリアの攻撃特化前衛組が強い。さすがメインヒロインと名もなき中ボス、成長率も恐ろしいほどだ。
いくつかの部屋でアイテムなどを回収しながら奥へと向かう。
「なあご主人様、ここってこんなに広かったですか?」
通路を歩いている途中でクーラリアが耳をピクピクと動かしながらそんなことを言ってくる。
たしかに巨大な建築物ではあったが、俺たちが歩いてきた距離を考えると、明らかにその広さを超えているのだ。当然の感想ではある。
「この遺跡はダンジョン化しているのだろうな」
「ダンジョン化……ってなんだですか?」
「特定の空間に魔力が集まってよどみができると、その空間に歪みが生じ、こういった迷宮のようなものを形作るのだ。それを一般にダンジョン化と言っている」
「へえ……。ということは他にもあるんだよなです」
「普通のダンジョンももとはすべて同じだ。ダンジョン化はその場所の特性を強く引き継ぐ。といっても完全に元の場所そのものでもない。例えばここが元のままの遺跡であればゴーレムの数に限りがあるはずだが、ダンジョン化した今、あのゴーレムは無限に出てくるだろう」
「なるほどなあ……。ということは『ゴーレム核』も取り放題だですね」
「そうなるかもしれんな」
残念ながらこの遺跡には『転移魔法』で直接来られないし、そんなに簡単に取りに来られるものでもないが。今回すでに20個以上手に入ったし、しばらくは要らない気もする。
さらに『ゴーレム核』を回収しながら進むこと1時間ほど、俺たちはようやく最奥部らしいところにたどり着いた。
目の前にそびえるのは、縦横10メートルはある巨大な両開きの重厚な扉だ。『注意!』とか『危険!』とか『関係者以外立入禁止』とかいった表示がうるさいほどに並んでいる。
その文字を見てごくりと唾を飲んだのは少女騎士アミュエリザだ。少し心配そうな顔で赤い瞳を向けてくる。
「公爵様、この先に『実験体1号』がいるのでしょうか?」
「間違いなくそうだろうな。戦う準備はよいか?」
「それは大丈夫です。ですが戦う前に、私とフォルシーナ、マリアンロッテがなにをしなければならないのかを教えていただきたいのです」
「む、たしかにその通りなのだが……」
3人にはまだ古代兵器を止めるために3人の力が必要なんだとしか伝えていない。といっても詳細にゲーム知識を話すのも難しい。本で読んだという言い訳にも限界があるからな。
「実は具体的な方法は書いてはいなかったのだ。ただ、『実験体』を一旦行動不能にすればやり方はわかるようだ」
「では、まずは確実に戦いに勝つことですね」
「うむ。我ら8人がいれば問題はあるまい」
元は4人で戦う相手だしな。
俺が手を触れるとやはり『精霊の祝福』の力が流れていき、大きな扉がゆっくりと左右に開いた。
その先は、まさにロボットアニメの格納庫みたいな部屋になっていた。縦横50メートル、高さ30メートルはありそうな広大な空間。壁際には操作盤やモニターや円筒形の魔道具が並び、管やケーブルがそういった機器の間をつないでいる。
そして部屋の中央に、天井から伸びる6本の支持アームにつながれた、巨大な物体『実験体1号』が鎮座している。
「これは……想像以上のものね。さすがに驚いたわ」
「そうね。まさかこのようなものが大森林の奥にあったなんて……」
ヴァミリオラと聖女オルティアナが息を飲む。
フォルシーナたち5人の少女も驚いている……と思ったが、アミュエリザ以外は俺が作ったゴーレムを見ているからか、あまり反応はしていなかった。
さて肝心の『実験体1号』だが、一言で言えば六本足のロボットである。
本体は平べったい円形で、足が3本ずつMの字になるように左右に突き出している。ボディ前面には水晶玉みたいな目が横一列に4つ並び、その下あたりから先が銃器になったアームが2本、それから先端が鞭のようになったアームが2本、計4本ぶら下がっている。本体上部にはミサイルランチャーみたいなものが二基、斜め上を向いてマウントされている。全体は黒っぽく、いかにもSF映画とかの軍用ロボットといった趣だ。
ちなみに全高は5メートルほど、本体の円盤は直径7メートルくらいだろうか。少なくとも生身の人間が相手をするようなものではない。
俺たちが少し近づくと、お約束の警報が鳴り響いた。
『侵入者ヲ感知、実験体1号ヲ起動シマス』
固定していたアームが『実験体1号』から離れていく。
『実験体1号』は自重で一瞬沈み込み、本体を再び元の高さまで戻すと、6本の脚でこちらに歩き始めた。緩慢な動きに見えるが、巨体なので見た目より動きは速い。
「あの下の二本の腕と、背中の魔道具から飛び道具を撃ってくるはずだ。『アースウォール』で身を守りつつ、前衛は接近して足を切断。マリアンロッテは『ディフレクションウォール』を、聖女オルティアナは『ホーリーエッジ』を頼む。ローテローザ公とフォルシーナは、槍系の魔法をできるだけ多く撃ち込んで欲しい」
「はい、わかりました!」
「わかったわ」
「はいお父様」
俺は『アースウォール』を発動して目の前に分厚い壁を作る。飛び道具はこれでしばらくは防げるだろう。
すぐにマリアンロッテの『ディフレクションウォール』、オルティアナの『ホーリーエッジ』が全員にかけられる。防御力アップと攻撃力アップ。これで前衛も簡単には倒れないで済む。




