07 遺跡到着
さらに数回Aランクモンスターと戦いながら奥へと進むと、道は森が開けた場所に出た。
目の前に現れたのは、巨大な台形の建造物。大きさは東京ドームを6個並べ、さらにその上に4個載せたくらいはありそうだ。
白っぽい表面を見るとコンクリートのようなもので作られているように思えるが、これが古代文明の遺産なら恐らく未知のマテリアルだろう。経年劣化や浸食で表面は相応に崩れているが、それでも往時の威容は保ったままである。
俺たちは遺跡を見上げながら、しばし感動したようにたたずんでいた。現代日本の記憶がある俺でも、さすがにこのレベルの巨大建造物には圧倒される。
「お父様、これが古代文明の遺跡なのですね。これほどの建造物は王都でも見たことがありません。いったいどれくらい文明が発達すれば、これほどの建造物を作れるようになるのでしょう」
「気が遠くなるようではあるな。もっともこの大きさの建築物は金と人を使えば今でも作れなくはない」
「そうなのですか?」
「相応の財と権力が必要だろうがな。この遺跡の価値は建物の巨大さではなく、その中身にある。今回の探索はここからが本当の探索となろう」
「古代文明の兵器、ですね。気を引き締めてかかります」
「うむ」
まあゲーム通りなら半ダンジョン化しててモンスターがでてくるだけだけどね。最後の古代兵器が問題になるだけだ。
ちょうど昼頃なので遺跡の前で昼食を取り、装備を整えてから、正面の入口へと向かった。
遺跡の入口は、両開きのスライド式の扉だった。縦横5メートルほどか。表面には特に派手な飾りや彫刻などはないが、ここは結局のところ兵器をつくる研究所だからな。実用本位の見た目である。
近づいても反応はない。基本的に動力が死んでいるので開かないはずだ。たしかマークスチュアートはこの扉を破壊して侵入していた。
いきなり破壊するのもフォルシーナたちの手前どうかと思ったので、一応扉の周囲を調べてみた。扉の表面に手を触れると、俺の心臓あたりから『精霊の祝福』の力が流れ出す。一瞬だけ金属音がして、扉はスウッと左右に開いた。おっと、ここも『精霊の祝福』によって開くタイプだったか。
それを見ていたマリアンロッテが、俺のところにやってきた。
「あの公爵様、今一瞬、公爵様の身体から遺跡の扉になにかが流れていったように感じたのですが……」
「ほう、さすがマリアンロッテ嬢だ、『精霊の祝福』の力が見えるか」
「『精霊の祝福』ですか? それはあのイヴリシア様の?」
「うむ、かの存在より授かった力だ。古代の遺跡・遺物の中には、精霊の力によって起動するものがあるのだ」
「そのようなお話が……。本当に公爵様はさまざまなことをご存知なのですね。まるで神の使徒様のようです」
「ふっ、滅多なことは言わぬほうがよいぞ? 聖女オルティアナの前ゆえな」
半分冗談のつもりで笑いながら言ったのだが、マリアンロッテは顔を赤くしつつ慌てて口を押さえた。ちょっと天然キャラだったなそういえば。
「お父様、今の『精霊の祝福』というのは初めてお聞きすると思うのですが」
フォルシーナが言うと、ヴァミリオラやオルティアナも知りたそうな顔をする。特に反応が大きかったのはオルティアナだ。
ぶつかるほどの勢いで近づいてきたかと思うと……実際柔らかいものが少し当たったのだが……真剣な表情で見上げてくる。
「公爵様、『精霊様』というのはどのようなお話なのでしょうか!?」
「う、うむ、それはな……」
『大精霊』イヴリシアについて、出会いから公爵邸で保護していること、そして『精霊の祝福』をもらったことまで一通り話をする。
初耳である聖女オルティアナやヴァミリオラ、アミュエリザ姉妹は相当に驚いたらしく、しばしフリーズしていた。そういえばマリアンロッテもイヴリシアに会わせた時は同じ反応だったな。
「その『大精霊』様にも後で会わせてもらえるのよね?」
さすがのヴァミリオラもまだ狐につままれたような顔だ。
「希望があるなら館の泉まで案内しよう」
「あ、あの、そのようなお話を聞いてしまってよかったのでしょうか?」
こちらは聖女オルティアナだ。ちょっと膝に力が入っていない感じだな。
「無論だ。この場にいる人間とはそれなりに秘密は共有できると考えている。この話をした私の気持ちを汲んでもらえるとありがたい」
まあヴァミリオラもオルティアナを含めた教会も、俺に簒奪ムーブを勧めてきた時点で同じ穴の貉である。いや、俺に基本的に王位簒奪する気は微塵もないのだが。
俺の適当曖昧発言で納得をしてくれたのか、ヴァミリオラもオルティアナもうなずいてくれた。なおアミュエリザはまぶしいくらいキラキラした目で俺を見ている。好感度アップ(大)だなこれ。
横でフォルシーナたちが、
「なるほど、お父様が神の使徒様であるというのはいい気付きねマリアンロッテ」
「そうよね! 精霊様から祝福をいただくなんてそれ以外ありえないもの」
「ご主人様はますます位が上がってくなあ。これじゃ最後嫁さんが何人になるか見当もつかないぜ」
「クーラリア、そのような失礼な事を言ってはいけません」
「でもさミアール、そうじゃないとオレたちも困るだろ?」
「いえ別に……私は困りませんけど……」
とか聞き捨てならない……聞き捨てたほうがよさそうだから聞き捨てよう。年頃女子の冗談に反応するおじさんになるのは避けなければならない。
「はあ、これから遺跡に入るってところで重要な情報をさらっと口にしないで欲しいものね。こちらにも準備というものがあるのよ」
というヴァミリオラの注意に「今後気を付けよう」と答えながら、俺は遺跡へと入っていくのだった。




