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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第6章 悪役公爵マークスチュアート、遺跡にて古代兵器と対峙す

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05 大森林探索は続く

 夜はモンスターの襲撃もなく、ゆっくりと休むことができた。


 フォルシーナたちは水浴びができないことをやはり気にしていたようだが、ゲーム通りなら今日のキャンプ地の近くに泉があったはずだ。


 ちなみにテントは4人用を二張りたてたのだが、夜寝るのに俺と同じテントで寝るのを誰にするかという、俺としては少し悲しくなるような話し合いが女性陣で行われていた。


 普通に考えたらフォルシーナ、ミアール、クーラリアでいいはずなんだが、なぜかジャンケンバトルにまで発展していた。おっさんとしてそういうのを見せられるのは涙が出るので、できれば見えないところでやってもらいたかったというのが正直な感想である。まあ一応フォルシーナだけは俺の方のテントで寝るのは確定していたみたいなので、そこだけは色々な意味でホッとしたのだが……。


 さて、大森林の探索だが、ゲームでは3日目の昼過ぎに遺跡を発見するという流れになっていた。なので今日も一日森を歩くことになる。


 2日目の今日もモンスターが多少強くなった以外は特に問題はなく、ひたすら戦いながら森の中を進んでいく。樹木のスケール感がだんだんと大きくなっていくので奥地に近づいている感はあり、飽きないのが多少の癒しである。


 昼に大休止をとって昼食を食べていると、聖女オルティアナが俺の隣に座ってきた。ちなみに全員マジックバッグから折り畳みの椅子を取り出して座っている。


「あの、公爵様、少しよろしいでしょうか?」


「なんであろうか」


「昨日の夜の、獣人族の子たちの話なのですが、クーラリアちゃんが身体を治してもらったと言っていましたよね?」


「うむ、言っていたな」


「昨夜見張りを一緒にしてるときに聞いたのですが、クーラリアちゃんは腕を片方失っていたとか。それに他の子たちも同じようだったと言っていました」


「む……」


「ということは、公爵様が彼女たちを治した際にお使いになったのは『エクストラポーション』ということになると思うのですが」


 あ~、しまったなあ。クーラリアを口止めしなかったのは迂闊うかつすぎたな。まあ口止めしてもしゃべりそうだが。


「そうだ。たしかに彼女らについては『エクストラポーション』を用いて治療をした」


「それと公爵様がおっしゃられた、彼女たちを買った『目的』というのは、その治療のことを指すのですよね。そうなると、もしかして公爵様は『エクストラポーション』を――」


「その質問は教皇猊下のご指示かな?」


「……っ!?」


 瞬間的に顔を赤くして、下を向いてしまうオルティアナ。やっぱり隠し事ができない性分らしい。


「済まぬ、詮なきことを言った。ただわかっていただきたいのは、教会に『エクストラポーション』を寄付したのは、私としても教会とはこの先よい関係でいたいと思ったからだ。そしてオルティアナ、貴女に差し上げたのも同じ理由による」


「は、はい、申し訳ありません。このようなこと……」


「責めているわけではない。貴女にも事情はあろう。私は貴女が聡明な女性であると信じるのみで、それ以上のことは思わぬ」


 う~ん、なんか適当なこと言い過ぎかなこれ。でもまあこう言っておけば上手いようにしてくれるだろう。重要なのはあくまで『エクストラポーション』を作れると肯定していないところだからな。


 と考えていると、オルティアナがなんか尊敬の眼差しっぽい目で見てきているのに気づいた。俺の意味不明適当曖昧発言が上手くいったか? 


「ところで聖女オルティアナよ、例のシャンプーなどは使っていただけているようだな。以前より美しく見えるようだ」


「えっ!? あっ、その節はありがとうございました! あの洗髪剤はとても素晴らしいもので、他のシスターからも是非教えて欲しいとせがまれてしまっています」


「厳しい時こそ貴女は輝いていなければならぬ。それが重責になることもあると思うが、今は耐えてもらいたい」


「はっ、はい、聖女などという役割をいただいている以上はやり通すつもりです」


「その若さで大したものだ。私など、貴女くらいの年齢の時分は冒険者として無責任にふるまっていただけで……むっ、そろそろ出発せねばな」


 おじさんらしく昔の話などをしようとして、ヴァミリオラがまた闘気をまとい始めているのに気付いて話を切り上げた。アミュエリザとオルティアナとは余計な話はしたらだめだな。




 さらに森を奥に進んでいく。


 幹の太さが2メートル近い大木が並び、見上げると、枝葉が何重にも重なって緑の天井を形作っている。そのせいで森は薄暗く、大木の幹にはコケが生え、空気も妙にしっとりと湿っている。


 濃厚な自然を味わえる、非日常感満点なロケーションではあるが、その楽しさは静寂を破るモンスターの叫び声で台無しになる。


「マリアンロッテ、お願い!」


「任せてフォルシーナ」


 マリアンロッテが杖を振るうと、俺たち全員を光のヴェールが包む。防御力アップの魔法『ディフレクションウォール』か。防御力優先なのは堅実で好ましい。


 Dランクモンスターの『オーク』10匹ほどが、目を血走らせ棍棒を振り上げて走ってくる。


「『フリージングサークル』!」


 フォルシーナが範囲型氷魔法を放つ。威力を弱めているらしく、走ってくるオークの足先が凍りついたくらいだったが、あとはアミュエリザ、ミアール、クーラリアの前衛組が止めをさしていくので問題ない。クーラリアが棍棒を食らっていたが、防御力アップのおかげで大けがはしていない。


 戻ってきたクーラリアに、マリアンロッテが治癒魔法『ライトヒール』をかけている。よく考えたら公爵家の令嬢が奴隷の手当をしていることになるのだが、そういったところは誰も気にしていないようだ。もちろん前世の感覚がある俺には別におかしいことでもないが、この世界では身分差を考えず行動するのは普通のことではない。


「マリアンロッテ嬢はクーラリアにも魔法をかけてくれるのだな」


 声をかけてみると、マリアンロッテは不思議そうな顔をした。


「はい。怪我をしていたのでかけたのですけれど……。間違っていたでしょうか?」


「もちろん間違いではない。ただクーラリアは、一応私の奴隷という立場ではあるからな。それを気にせず魔法を使うマリアンロッテ嬢の心持ちが素晴らしいと感じたのだ」


「それは、私としては当然と思っています。父と母の教えもそういうものでしたし」


「素晴らしいご両親なのだな」


 なるほど、そこまで話をしたことはないが、マリアンロッテの両親は貴族としては相当に庶民派というか、選民意識のない人間のようだ。まああのゲントロノフもゲームではそのあたり常識的な人間として描かれてはいたか。


 俺が感心していると、アミュエリザもやってきた。


「公爵様、私も同じで、クーラリアもミアールも身分とは関係なく同じ仲間だと思っています。それが冒険者として正しいと思うのです」


「アミュエリザ嬢の考えも立派だと思う。公の場ではともかく、命を預けあう仲間に身分の差など関係はない」


 なんてカッコつけてるが、マークスチュアートは冒険者時代、意外と身分マウントとってた記憶があるんだよなあ。そのあたりはやはり中ボスである。


「はい! この5人で戦っているとすごく息が合う気がするのです。今とても楽しくて、公爵様には感謝しています!」


「うむ。ならば私としても嬉しく思う」


 とかやっていると結局全員俺の前に集まってきて、5人揃ってまぶしいくらいの美少女フェイスを向けてくるので俺はちょっと後ずさってしまった。


 後頭部を殺気のこもった視線がえぐってくるので、話を切り上げて先に進むよう促した。

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