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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第5章 悪役公爵マークスチュアート、王都で暗躍す

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20 次なる知識チート

 騎士団団長のリンは、眉をひそめたままの顔で再び口を開いた。


「ところで公爵閣下の領も魔族に攻められたと聞きましたが?」


「うむ、3万ほどの軍であった。幸い有力な冒険者のパーティを臨時で雇うことができて事なきを得た。こちらにも上級幹部が一人いたが、四至しし将なる者はいなかったゆえ、王都よりは条件が良かったこともあろう」


「公爵領の軍で3万を押し返すのはさすが『蒼月の魔剣士』ブラウモント公閣下でいらっしゃいますね。しかし問題はこれからでしょう。魔族がこれで諦めるとは思えません」


「まったく同じ意見だ。遠からず第二波が来るであろうな。国軍の再編は進んでいるかね?」


 と聞くと、リンは俺を探るような目で見てきた。


 彼女は俺がまだ王位簒奪を狙っていると怪しんでいるはずなので、この質問に正直に答えていいかどうか迷うところだろう。だが彼女に直接聞かずとも、王都の様子をみれば想像はつくものだ。ここで適当に答えても仕方ないと考えたようで、彼女は溜息をつきながら口を開いた。


「率直に申しますと、王都陥落の際に壊滅的な打撃を受けていて、再編どころか王都を守れるだけの兵すら揃えられるか不安な状況です。特に将軍が戦死されたのと、大隊長、中隊長クラスが半数以上犠牲になってしまっているのが大きいのです。ただゲントロノフ公が領軍を駐留させるそうなので、ある程度は対応できるでしょう」


「ふうむ……。後は実際に再襲撃を受けた時、諸領から援軍を呼ぶ形か。だがそれも難しくなったのではないか?」


 俺の指摘はリンにとっても苦いものだったようだ。リンは目をつぶり、わずかの間をおいて首を縦に振った。 


「公爵閣下のご存知の通り、例の冤罪騒ぎで有力な貴族がいくつも離れたのが痛いのです。それでも援軍を出さないことはないでしょうが、果たしてどこまで本気で当たってくれるかは心もとないところです。ですのでやはりブラウモント公とローテローザ公にも頼ることになると思います」


「済まぬがブラウモント領は矢面に立っている以上、王都に援軍を出すのは難しい。だがポーションを多く融通しよう。教会で聞いたが、市井にも回せぬほど数が減っているのだろう?」


「おっしゃる通りです。ポーションをいただけるのは軍としても騎士団としても大変助かります」


 まあこっちに送るのは『精霊水』を使ってないバージョンだけど。俺の方としては在庫処分みたいなものだ。


 とはいえリンにとっては助かる話ではあるはずだ。心なしか彼女の表情がいささか緩んでいる気もする。


「ところで大森林の開拓についてまだ国王陛下は執心なさっているように聞いているが、団長殿はなにか聞いているか?」


「む……いや、それが……」


 俺自身大森林に向かう予定なので情報収集のつもりで聞いてみたのだが、リンが急に不審な態度を取るのでピンときた。


「もしや団長殿自ら調査に向かえなどと言われたか?」


「ん……まあ、そういうことです……。非常時なので一度は断ったのですが、重要な任務だからと押し切られました」


「団長殿の心労は察するに余りあるな。大森林は危険な場所ゆえ、くれぐれも気を付けられよ」


 といたわりつつ、俺は心の中で舌打ちをした。


 団長のリンが大森林に向かうとなると少し面倒なことになりそうだ。こちらも急ぎことを進めなくてはならなくなった。


 しかしロークスがそこまで大森林に執着しているということは、これで古代兵器狙いなのは確定的だな。


「うむ、ではこれ以上団長殿の仕事の邪魔もできぬな。そろそろ失礼させてもらおう。貴重な時間をいただき感謝する」


「私もブラウモント公が健在で安心いたしました。ポーションの件、よろしくお願いいたします」


「それは必ず送ろう。それとこちらを個人的に渡しておこうか」


 俺はマジックバッグから『エクストラポーション』を一本取り出し、リンに手渡す。


「公爵閣下、これはもしや……!?」


「貴殿は王都の守りの要、なにかあっては困るからな。これは純粋に貴殿への厚意で渡すもので、他意はないゆえ安心されよ。ただし国王陛下やゲントロノフ公には知られぬ方がよいかも知れぬ。私から受け取ったと知られれば邪推もされよう」


「これほどのもの、ただ受け取るわけには……っ」


「貴殿は私に対して思うところがあるかもしれぬが、私は己の領地を守るのが手一杯の小人に過ぎぬ。それに比べ、貴殿の双肩には王都100万の民の命がかかっている。貴殿の命は、貴殿が思うよりはるかに重い。なにもできぬが、せめてそのくらいのものは贈らせてもらいたい」


 そう言って、俺はまだ驚いた顔のままのリンを置いて、執務室を出た。


 これでリンの俺に対する心証が少しでも良くなってくれるといいんだがなあ。『エクストラポーション』の好感度アップ効果に期待しよう。




 王都の公爵邸に戻った俺は、アラムンドに命じて、暗殺者ジラルナたち4人を公爵領まで送る手はずを整えさせた。といっても公爵家の馬車を用意して、そこに乗せて王都から脱出させるだけだ。三大公の馬車に検閲が入ることはないので、このあたりは簡単にできる。


 それに加えて俺がしばらく単独行動をとることを伝えると、アラムンドは当然質問をしてきた。


「お館様はなにをなさるおつもりなのですか?」


「王都のそばのダンジョンに行き、錬金術に必要な材料を採取してくるだけだ。お前達が我が領に着くより早く戻っているはずだ。心配する必要はない」


「しかしお館様がお一人で行動なさるのは危険です」


「私が本気で動けば誰もついてこられぬ。一人で行くのが最適なのだ。お前はジラルナらを領に移送することに手を尽くせ」


 多少強引に話を打ち切って、俺はそのまま公爵邸を出た。


『隠密』スキルを使って王都内を駆け抜け、西の城門から外に出る。そのまましばらく石畳の街道を西に走っていき、途中から北に延びる、消えかけた古い道をひたすら北上する。


 目的地は、ゲントロノフ公爵領にほど近い山のふもとにある、大規模な遺跡である。俺がその入口、巨大な石の門の残骸の前に立ったのは、そろそろ夕刻になろうかという時間帯だった。


 草やコケが生えた石畳の通りの左右に折れた石の柱や、崩れた石造りの建物などが並ぶ、観光地にしてもいいくらいの遺跡である。以前は盛んに調査や発掘がなされていたが、特に成果なしとして今ではほぼ手つかずで放置されている。そのせいでモンスターの住処になっていて、結果としてゲーム的なフィールドとなってしまっていたりする。 


「さて、設定通りであってくれるといいんだが……」


 今回俺がここに来た理由は、ゲーム内でも特に重要だった、とある魔法を得るためだ。これは隠し要素ではなく、普通にストーリーを進めていくと手に入る魔法で、本来なら主人公ロークス一行も中盤以降でやってくることになっていた。


 遺跡に足を踏み入れると、早速モンスターが現れる。


 高レベルの武具を身に着けたオークの戦士『アームドオーク』だ。石の建造物の陰から次々と現れ、剣や斧を振りかざし、叫び声を上げながら襲いかかってくる。


「我が剣の露と散れ」


 つい出てしまう中ボスセリフを口にしながら、俺はそいつらを斬り捨てていった。『アームドオーク』の集団も、チート中ボスパワーの前ではなにもできずに光の粒子となって消えていく。


 遺跡の最奥部、神殿跡までは20分ほどで着いた。半壊して柱と壁しか残っていないその神殿に入っていく。


「え~と……ああ、ここだ」


 神殿の奥に、大きな神像が立っていた。神像といっても長い年月によって風化し、すでに下半身と台座しか残っていない。


 俺はその神像に近づき、台座の前の部分、恐らく名前が掘られていたであろうプレート状の部分に手を当てた。


『大精霊イヴリシア』から受けとった『精霊の祝福』の力が俺の心臓から手へと流れ、そして台座へと注がれていく。そう、このイベントは『精霊の祝福』が必要なイベントで、普通ゲームならこの段階で来られる場所ではない。イヴリシアのイベントが前倒しになったおかげで来られるようになったのはラッキーだった。


『精霊の祝福』の力が十分に満ちたのか、神像の後ろからゴゴゴ、という重いものが動く音が響いた。


「ここまではゲーム通りか。さて……」


 俺は神像の後ろへ回り込み、床に現れた地下への階段を下りていった。

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― 新着の感想 ―
今更ですけど、先生の書く作品で原作知識有りって初めてですね。 どんな話になるのか楽しみです。 (現時点でとても面白い)
またお父様(略
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