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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第5章 悪役公爵マークスチュアート、王都で暗躍す

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07 再び王都へ

 翌日、俺は馬上にあった。


 足の速い5騎を供に連れ、急ぎ王都へと向かったのである。


 目的は、一部大臣や役人たちの処刑を止めるためだ。どうやら王太子ロークスとその背後にいるゲントロノフ公は、王家に『反抗的』な人間を魔族との内通という罪によって処分しようとしているようだ。


 王国法では敵勢力との内通罪は一族全員処刑だ。無論罪が事実であれば仕方ないが、今回はどう考えても冤罪、というより罪のでっち上げしか見えない。無論そんなことを行えば国は荒れる。ゲームシナリオとは関係なく、三大公としてはそのような事態を避けるため王の乱心を止めるのが筋である。


 馬車で7日かかるところを、馬を乗り継ぎ3日で王都までたどりついた。


 こういう時は前世の自動車や列車があればと思ってしまう。公爵パワーで技術者を集めて魔道具を研究させれば自動車くらいは作れそうだが、道路まで考えるとさすがに大事業になりすぎるので難しい。


 さて、数か月ぶりの王都だが、やはり魔族襲撃の爪痕は痛々しく、城壁は所々崩れ、城門もまだ完全に修復はされていなかった。


 呼び止めてきた衛兵に「公爵のブラウモントだ」と名乗ると、すごく驚いた顔、というより幽霊でも見るような顔をされた。


「なぜそのように驚く?」


「は、いえ、その……ブラウモント公爵様は魔族の襲撃によりお亡くなりになったと噂が流れておりまして……」


「ほう……?」


 公爵領が魔族の軍に攻められたことすら正式にはまだ報告していない、というか今回俺が伝えることになるはずなのだが、それに先行してすでに噂が来ているということだろうか?


 だがもしそうだとしても伝達速度が不自然に早い。しかも戦は大勝であったのだから、俺が死んだなどという話になるはずがない。妙な不一致感があるが、今はとりあえず王城へ急がねばならない。


「……まあよい。通してもらうぞ」


「はっ、どうぞお通りください!」


 王都の中も酷い有様だった。建物で破壊を逃れたものはほぼなく、全壊してはいないまでも、魔法などで壁が崩された跡があちこちに見られる。道行く王都民も一様に疲れた表情をしており、王太子によって王都が奪還されて前向きになっているという雰囲気もない。


 王城に近づくと、城を囲う第二の城壁の門は固く閉ざされていた。その前には、50人ほどの貴族がつめかけていて、衛兵と問答をしているようだった。


「とにかく一目会わせてもらいたい! 一方的に罪を宣言されるなど、王国の法にもとる行為であるぞ!」


「新王はなにを考えておられるのか! 今回のやり方はあまりに横暴が過ぎる!」


「せめて正当な裁判が行われねば得心がゆかぬ!」


 そんなことを叫んでいるのはもちろん貴族側の人間である。


 とすれば、魔族との内通罪に問われている大臣や役人の身内たちだろう。もし有罪となれば彼らも処刑されるのだから必死である。


 だがこのままだと王城に入れないので、俺は仕方なく護衛騎士に目配せをする。


「道を開けられよ! ブラウモント公爵様がお通りになる!」


 騎士が声を張り上げると、つめかけていた貴族たちが一斉に振り返った。そして俺の姿を見て、やはり全員が驚いた顔をする。


「ブラウモント公爵様……!? なんと、御存命であらせられたか!」


「おお! ブラウモント公爵様なら新王陛下の横暴を止めてくださるのではないか……!?」


「公爵閣下、お願いがございます……!」


 なるほどそうなるか。まあもとからそのつもりで来たのだから問題はない。


諸卿しょけいらの身の上については聞いている。この度の魔族内通の件については、私も疑義ぎぎがあり王城へと参った。そなたらの身内の扱いについて、陛下に再考を促すつもりである。新たな沙汰があるまでそれぞれの屋敷で待たれるがいい」


「さすがブラウモント公爵閣下、これぞ正しき三大公のお姿!」


「なにとぞよろしくお願いいたします。我が兄は魔族と内通など決してやってはおりません!」


「私の父もです。そもそも開拓にすら反対をしていたのです。このような話、誰も信じておりませぬ!」


 そう口々に言いながら、何度も礼をしつつ彼らは去っていった。


 こういうのを見ると、やはりこの世界はリアルなのだと痛感するな。そもそもこの事態そのものがすでにゲームシナリオとはまるで違うのだが。


 貴族たちが去ったのを見送って、城門の衛兵に向き直る。


 衛兵は緊張したような、それでいてかなり困惑したような表情になっている。


「公爵様のお通りである。門を開けよ」


 護衛騎士が言うと、衛兵は苦い顔をした。


「も、申し訳ありません! 城門は誰も通すなとの国王陛下のご命令なのです!」


 なるほど、それは衛兵にとってはツラい状況だな。


「王国法によって、三大公本人については、国王であっても登城を妨げられぬことになっている。これは国王陛下自身の命令にも優先する最高の法規だ。したがって、諸君らが私を足止めする正当な根拠はない」


「そ、それは……」


「これに反するのであれば、私はこの国を護持する者として、諸君らを賊とみなし討たねばならぬ。わかるな?」


「は、はっ! ただいま門を開けます!」


「うむ。諸君らは法にしたがったまでのこと。その点は陛下にも強く伝えておこう」


「よ、よろしくお願いいたします!」


 これきちんとロークスに言っておかないと危ないパターンだからなあ。俺が無理矢理開けさせたことで、衛兵が王の勘気かんきに触れたとかになったら嫌だし。


 俺は護衛騎士たちを待機所に残し、一人王城へと入っていった。

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