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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第5章 悪役公爵マークスチュアート、王都で暗躍す

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05 錬金術師の卵

 館に戻るついでに、錬金術棟に顔を出してみた。


 正直上司がふらりと見にくるなんてのは職場の人間にとっては迷惑でしかないと思うのだが、筆頭錬金術師のトリリアナに「お館様のお顔を拝見すると皆やる気がグーンとアップしますから」と言われている。半分以上社交辞令だろうとは思うが、3割くらいは真実が含まれていると思いたい。


「あらあら、お館様、ようこそいらっしゃいましたわ」


 俺が錬金術の作業場に顔を出すと、金髪ポニーテールの泣きぼくろおっとり美人のトリリアナがローブの裾をひるがえしてやってくる。


「錬金術関係は問題ないか? 新たな者も入り、いろいろと変化もあると思うが」


「お館様が錬金術棟を拡張してくださったので問題はございませんわ。材料も足りておりますし、職員の体調も例の薬で万全です」


『例の薬』とは、俺がゲーム知識でつくらせた『お通じの薬』のことである。別のイベント対策で事前に用意させたものなのだが、公爵邸の女性職員の多くを悩みから救ったとかで、俺自身がやたらと感謝されるようになっている。


「それは重畳。それと獣人の娘たちやナリムの様子はどうだ?」


 獣人娘とは、いろいろあって俺が雇うことになった7人の奴隷たちのことである。『エクストラポーション』の副作用によって全員魔力が高くなり、錬金術師の卵として扱うことになっていた。ナリムはAランクパーティ『紅蓮の息吹』リーダー・メザルの妹で、こちらも錬金術師の卵である。


「すでに簡単な錬金術なら問題なくこなせるようになっておりますわ。何度かダンジョンにも連れていって身体の強化もさせております。むしろダンジョンのモンスター退治は私たちより上手なくらいですわ」


「獣人はもともと身体能力は高いからな。しかしすでに錬金術が行使できるとは大したものだ」


「ええ、是非お館様も彼女たちにも顔を見せてあげてくださいませ」


 というわけで、トリリアナに案内されて、新しくできた錬金術棟の方に向かう。元からの職員がこちらを使うのかと思っていたのだが、いままでの建物の方が落ち着くとかで、新人が新しい棟を使っている。


 俺が作業場に入ると、7人の獣人娘とナリムがぱあっと嬉しそうな顔になって集まってきた。全員が11~13歳くらいの少女たちだが、揃ったように可愛らしいのはダークエルフのアラムンドが気を利かせた結果らしい。


「皆元気そうだな。仕事や生活でなにか悩みはないか?」


「大丈夫です!」


「公爵様のおかげで楽しいです!」


「石鹸が作れるようになりました!」


 とやたらとテンション高く答えてくれる。全員の顔を見回すが、なにか言いたそうにしている娘はいなさそうだ。ただ少し陰がある娘がいるのは、故郷がモンスターに襲われ、家族と離れ離れになってしまった境遇ゆえだろう。


 残念ながら獣人娘たちの家族が今どうなっているかは公爵家でも調べることはできそうもない。一応出入りの商人には奴隷でそれらしい人物がいたら報告するようには言ってあるが。


「ふむ。作った石鹸を見せてもらえるか?」


「こ、これです……」


 おずおずと石鹸を差し出してきたのは、茶髪をツインテールにした猫耳の少女だ。たしかニルという名前だったか、一度俺のところにお茶を持ってきた子だな。


 石鹸を手に取る。普通の、現代日本で見たのと変わらない石鹸である。明らかにこの世界にはそぐわない製品なあたりがゲーム世界であることを感じさせるが、ここではこれが常識だ。


「うむ。今までのものとほぼ変わらない品質だな。トリリアナ、この娘たちが作ったものはすでに館で使っているのだな?」


「はい。まずは使用人の方たちに使ってもらっていますが、特になにもなく普通に使っていただいていますわ」


「ならば私もこれを使わせてもらおう。他にはなにが作れるようになったのだ?」


 猫耳娘ニルは、「紙と、布と、粘土と、鉄……です」と、思い出すようにして答えてくれた。


「うむ、いずれも大切なものだ。皆のおかげでこの屋敷の仕事や生活が滞りなく行える。皆励むのだぞ」


「はい!」


 う~ん、なんかいい娘たちばかりだな。


 皆尻尾を揺らしながら各自の持ち場に戻っていく。


「ナリムよ。先の戦いではお前の兄はたいそうな活躍をしたぞ。立派な兄だ、誇るとよい」


 獣人の少女が離れたタイミングで、俺はナリムにそっとそう伝えた。他の娘は家族がいないからな。気遣いは大切である。


「ありがとうございます。兄も公爵様の戦いぶりがすごかったって言っていました。自信がなくなったって悲しそうな顔をしてました」


「彼はまだ若い。今のまま鍛錬を続ければさらに力は伸びよう。それについてはお前も同じだ。期待しているぞ」


「は、はいっ! 失礼いたしますっ!」


 赤い顔になって自分のテーブルに戻るナリム。ちょっと前世の家族を思い出して心が温かくなる。


 なんて思いながら振り返ると、トリリアナがニコニコ顔で「あらあら~」とか言っていた。


「どうした?」


「いえ~、お館様にかかると、女の子は皆元気になってしまうなと思いまして」


「ふむ? よくわからぬが悪いことでなければよい。トリリアナも元気になっているのか?」


「ええ、それはもちろんですわ。毎日来ていただきたいくらいですもの」


「ふっ、社交辞令もすぎると自らの首を絞めるぞ? 毎日私が顔を見せたら仕事が手につかなくなる者もいよう」


 社長が毎日自分の課にやってきたりしたら、プレッシャーでそれだけで仕事が止まるもんなあ。中には精神的に参ってしまう人間も出るかもしれない。何事もほどほどが一番である。


「うふふ~。そうですね~。特にここの娘たちは仕事が手につかなくなってしまうかもしれませんわ」


 えっ、それって地味に傷つくんだけど!?


 トリリアナっておっとり系に見えて実は毒舌家だったりするんだろうか。人は見かけによらないものである。俺なんて見た目通りの糸目裏切りキャラだったんだけどな。

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