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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第4章 悪役公爵マークスチュアート、戦場で奮戦す

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03 魔族軍との戦い 1

 翌日も俺たちは朝から作戦室で待機である。


 午前10時ごろだろうか。伝令の兵が「魔族軍が姿を現しました!」と息を切らせて飛んできた。


 屋の窓から遠くの平原を眺めると、確かに山脈と山脈の間から、事前情報通りの軍勢が進撃してくるのが見えた。緑の平原をべったりと塗りつぶすように、モンスターの大軍が広がりながら進んでくる。


 ゴブリンやオークといった下位のモンスターが多いとはいえ、数が揃えばその迫力は圧倒的だ。3万でこれなのだがら、7万の軍勢が向かっているはずの王都の守備隊など、絶望的な心境に陥っているのではないだろうか。


「じゃあ始めますかい。お前ら、配置につけ!」


「はっ!」


 ドルトンの号令で将校たちが部屋を出ていく。


 こちらの兵もすでに砦の前面に配置済みだ。もちろん最前列には13体のゴーレムが立ち、その脇には巨大な石をいくつも載せた馬車が並んでいる。


「我らも向かうか。フォルシーナ、ミアーナ、クーラリア、覚悟はよいな?」


「はいお父様。お父様と一緒なら私はどちらへでも向かいます」


「はいお館様、まったく問題ありません」


「おうご主人様、俺の刀が魔族の血を吸いたくてうずうずしているぜです」


 少女たちの表情はいつも通りに見える。


 初めての戦を前にした女の子とは思えない肝の据わりようだが、まあ戦い自体はすっかり慣れてしまっているからこんなものかもしれない。ただ装備がダンジョンに入る時と同じ、制服っぽい魔導師服、メイド服、巫女服(すべてミニスカート仕様)なので、兵士たちの中に入ると非常に浮いている。まあゲームのメインキャラだからそんなものだろう。『紅蓮の息吹』の女性陣も似たような感じなので、冒険者スタイルということでセーフとしよう。


 その『紅蓮の息吹』の4人は緊張感がありつつも余裕を保っているようで、さすがに若くしてAランクにまで到達した腕利きパーティという雰囲気だ。


 俺は彼ら7人を従えて、戦場へと向かった。




 公爵軍1万1千だが、前線に出るのは7000ほどである。それぞれ1000ずつ7部隊に分かれて、平原に布陣をしている。ゴーレムは各部隊の前面に並び、他に魔導カタパルトも20台ほどが並んでいる。なお魔導カタパルトというのは、見た目大砲のような大型の魔道具で、魔石をエネルギー源にして爆発的な空気膨張を引き起こし、その圧力で砲弾を飛ばすという、見たままの大砲のような兵器である。ただし砲弾はただの鉄球で、爆発をしたりすることはない。基本は城壁破壊用の攻城兵器である。


 俺たち8人は中央に陣取る将軍ドルトンの部隊の先頭へと移動をする。そこには当然のようにドルトン本人の姿もあった。


「公爵閣下、本気で突っ込むつもりなんですかい?」


「そういうお前こそ先頭に立つつもりではないか」


「閣下が言うようにこれがいちばん損害が減らせますからねえ。それに後ろでふんぞり返ってるってのは性に合わないんでさ」


「それは私も同じだな」


 この世界の戦は、前世のそれとはかなり趣が異なる。


 なにしろ『集団を圧倒する個』が存在する世界である。その強力な『個』を前面に立てるのが戦場の定石となる。


 公爵軍では将軍ドルトンを始め、各部隊の部隊長がその強力な『個』にあたり、彼らは最前列で戦うことになる。もちろん彼らが傷つき倒れた時のために、後方には部隊を指揮する副部隊長が別にいる。


 さらに言えば、相手が魔族軍となるとその戦法も様々だ。今回はゴブリンやオーク、オーガといった『歩兵』がメインの軍なのである意味やり易いが、これが足の速い4足獣型など『騎兵』にあたるモンスターが混じると面倒になる。


 と偉そうに言っているが、インテクルース王国自体ここ50年戦争とは無縁の国だ。マークスチュアートも戦といえばせいぜい盗賊団を討伐したくらいしか経験はない。俺がもつ戦の知識はすべてマークスチュアートとしての本の知識と、俺としてのゲーム知識を総合した結果のものでしかない。


 とはいえ結局は個の武力で押し切れるというなら、チート持ち中ボスである俺が有利なのに変わりはない。


 問題は、その定石を相手も理解しているかどうかである。


 ゲームだと魔族軍は、兵を先に立て将は後ろで指揮する前世ではオーソドックスな戦い方をしていたはずだ。しかも戦場では特に策を弄することなく、数で圧倒するスタイルで戦っていた。だがリアルなこの世界ではどう出るのか、それも気にしないといけないところである。


 魔族軍の先頭までの距離が目測で1キロを切った。ある程度近づくと、兵であるモンスターたちは本能に任せて突っ込んでくるはずだ。


「ゴーレムは投石の準備をしろッ!」


 ドルトンの指示で、各部隊の前面に立つゴーレムたちが、近くに置いてある石を手にする。石は直径が70~80センチはあるもので、直撃すればトロールですら大ダメージは免れない。


 彼我の距離が500メートルを切った。


「魔導カタパルト射撃開始! ゴーレムは石を放てっ!」


 ドルトンの号令が飛び、20基の魔導カタパルトが砲弾を射出し、13体のゴーレムが一斉に石を投げる。


 砲弾と石は緩やかな放物線を描いて、密集した魔族軍の中に落ちていく。直撃したゴブリンやオーク、オーガはそれだけで即死、もしくは戦闘不能に陥る。魔導カタパルトは次の射撃の準備を始める。一方でゴーレムはスムーズな動きで石を次々と投げ続け、見事な命中精度でオーガを中心にモンスターを倒していく。ゴーレム投石は戦場の常識が覆るレベルの兵器かもしれない。


 ダメージを受けた魔族軍が耐えられずに唸りを上げて走り出した。これはラッキーだな。こちらに走りつくころにはかなり体力を消耗しているだろう。


 敵との距離が200メートルを切った。今度はこちらの弓兵が一斉に弓を放つ。矢を浴びせた後は、さらに魔導師兵が魔法の槍を水平射撃する。魔導師兵は一撃放ったあとは後ろに下がった。彼らはこの後、空を飛んでくるであろうデーモン兵を相手にすることになる。


「フォルシーナ、いけるな?」


「はいお父様」


 俺とフォルシーナが、それぞれ氷魔法『フリージングサークル』を放つ。


 直径50メートルほどの円二つ分の範囲の地面に霜が降り、その範囲にいたモンスターがまとめて凍り付いて砕け散った。


『紅蓮の息吹』の魔導師サーシアは火魔法の『フレアサークル』を放ったようだ。同じく直径50メートルくらいの円形に炎が吹き上がり、その中にいたモンスターを焼き尽くした。


 魔族軍が目前に迫る。


 ゴーレムが、金属の輪がついた丸太を抱えて前に出る。その丸太をバットのように振り回すと、ゴブリンやオークが20体ほどまとめて吹き飛んでいく。凄まじい攻撃力だが、それ以上に見た目の派手さに兵士から歓声があがる。ドルトンの言う通り、戦場のありようを変えるポテンシャルがありそうだ。


「よし、突入する。付いてこい」


「はいお父様!」


「はいお館様」


「ご主人様にどこまでもついていくぜです!」


「お任せください公爵様」


 3人娘と『紅蓮の息吹』リーダー・メザルが答える。


 俺たちが前に出ると同時に、公爵軍の前衛と魔族軍がぶつかった。公爵軍の兵は槍を装備し、ハリネズミのように前に突き出して攻撃する。全員が『レベルアップ』をある程度こなしている強兵なので、『貫通』や『三連突き』などのスキルを繰り出している者も多い。数で圧倒されなければ、オークまでなら余裕で対処できるだろう。


 俺たちは濁流のように押し寄せるゴブリンやオークを、片端から切り伏せて前に進んでいった。俺とミアール、クーラリア、そして『紅蓮の息吹』のメザルとカズンの前衛組が、フォルシーナとサーシア、ライアを守りながら戦う。ライアは斥候だが、ここでは後方支援に回っている。


 フォルシーナとサーシアは、隙を見て魔法を放ち魔族軍をまとめて凍らせ、灰にしている。二人にはマジックポーションを多く持たせているので魔力切れの心配はないだろう。


 先頭の俺は、時には範囲攻撃魔法、時には範囲攻撃必殺技『無尽むじん冥王剣めいおうけん』を放って、目の前の雑兵を数百体まとめて光の粒子に変える。特に一般兵には強敵になるオーガに関しては、見つけ次第風魔法『ウインドパイル』で確実に仕留めておく。


「さっすがご主人様だぜっ!」


 クーラリアも範囲攻撃スキル『烈波』や、遠距離攻撃スキル『斬月』で衝撃波を飛ばしてまとめてオークを両断している。こちらも元は名もなき中ボス、雑兵では相手にならないようだ。


「スキルが……欲しいですねっ」


 ミアールはまだスキル獲得には至っていないが、高まっているレベルのおかげで危なげなく目の前の敵をショートソードで倒している。ついこの間までただのメイドだったとは思えない戦いぶりだ。


「お父様、私の魔法をご覧ください!」


 フォルシーナはすでに『氷の令嬢』としての実力を身につけつつあり、範囲氷魔法『フリージングサークル』はもとより、単体強攻撃魔法『アイスパイル』でオーガも一撃で倒し始めている。末恐ろしいメインヒロインである。


 無論『紅蓮の息吹』の4人も獅子奮迅の戦いぶりで、ゴブリンやオークが相手では無人の野を行くがごとしだ。

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