08 亜竜のねぐら 1
対談を終えた俺は、ヴァミリオラの案内で練兵場へ向かった。
多くの兵が訓練を行っている片隅で、美少女4人が仲良く鍛錬を行っていた。もちろんフォルシーナ、ミアール、クーラリア、そしてアミュエリザの4人である。
今はちょうどクーラリアが木刀、アミュエリザが木の槍を手に模擬戦闘を行っているところだった。見た感じはクーラリアがやや優勢だが、アミュエリザの槍さばきも堂に入っている。冒険者でいえばCランクは超えていそうだ。
俺たちが近づいていくと、4人は揃ってこちらに歩いてきた。フォルシーナが俺の方に寄ってきて、なぜかヴァミリオラとの間に入ってくる。
「お父様、お話は終わったのですか?」
「うむ。その話の中で、この領にあるダンジョンのボスを倒すことになった。すぐに出るから用意しなさい。ミアール、クーラリアもだ」
「ダンジョンですか? わかりました」
「はいお館様」
「はいよご主人様」
各自近くに置いてあったマジックバッグから装備を取り出し、手慣れた様子で準備を始める3人。
その様子を見て、ヴァミリオラが俺をじろりと睨む。
「昨日は気付かなかったけれど、フォルシーナだけでなく、そちらのメイドもお付きの護衛もどちらも素晴らしく美しい少女ね。貴方の趣味かしら?」
「そういう訳ではない。ただ彼女たちは非常に有能でな。私も重宝しているところだ」
「ふぅん。彼女たちをダンジョンに連れていくようだけれど大丈夫なのでしょうね。Bランク冒険者推奨の場所よ?」
「問題ない。いつも同程度のダンジョンに入らせている」
そんなことを話していると、アミュエリザが口を開いた。
「お姉様、フォルシーナたちがダンジョンに行くというのはどういうことでしょうか?」
「『亜竜のねぐら』ダンジョンのボスドロップアイテムを入手したいのだそうよ。なのでこれから取りに行くというの」
「それでは私も共に参ります。あのダンジョンならば慣れておりますので」
「その必要はないわ。『蒼月の魔剣士』様が一緒なのだから」
ヴァミリオラの言葉に、アミュエリザは姉に迫るように前に出た。
「それならなおさらご一緒したいと思います。王国を代表する剣士の技、間近で見られる機会などそうはないでしょう」
「アミュエリザ……確かにそうね。わかったわ、そういうことなら私も一緒に行くことにしましょう」
「はい! 急いで準備をします」
館の方に去っていくアミュエリザを見送りながら、ヴァミリオラは溜息をついた。
「そういうわけで、私たちもご一緒させてもらうわ。よろしいわよね?」
「構わぬ。『真紅の麗炎』の魔法が見られるというならフォルシーナにも勉強になる」
「確かに彼女はかなりの使い手ね。それにあの杖は……信じられないわ、国宝級の武具でしょう、あれは」
「さすがに目が高いな。『精霊樹の杖』という希少な武具だ」
俺が答えると、ヴァミリオラはかぶりを振って館の方に足を向けた。
「貴方は私が知っている以上に秘密が多い男のようね。もし今回の件が達成されたのなら、少しだけ今までのことを水に流してもいいわ。では、私も準備をしてくる。玄関に集合にしましょう」
そう言って、ヴァミリオラは妹の後を追って歩き出した。
ダンジョン『亜竜のねぐら』は、領都ロザリンデの城門をくぐってさらに馬車で30分ほどのところにあった。
荒れ地の中に巨大なテーブル状の岩山があり、その岩壁に大型の馬車が余裕で入れそうな大きな洞窟がある。
俺たちはその手前で馬車を下りて、6人で洞窟へと向かって歩いて行く。入口付近には食べ物や冒険者用アイテムの屋台が出ていて、100人ほどの冒険者がたむろしていた。
こちらは美女美少女5人+1のパーティなので嫌でも注目される。
「おいあれ領主さまじゃないか?」
「公爵閣下がこのダンジョンに来るのは珍しいな。しかも今日は随分と可愛い子をいっぱい連れてんな」
「領主さまがいなけりゃ声かけてんだけどなあ」
「燃やされたくなけりゃやめとけ」
などというヒソヒソ話を聞き流しながら中に入る。
「ローテローザ公、フォルシーナたちに経験を積ませたい。手出しは最小限にして欲しい」
「わかったわ。アミュエリザ、せっかくだから貴方も前に出してもらいなさい」
ふむ、妹を溺愛しているが、こういうときは過保護にはしないようだ。さすがにそのあたりの分別はあるか。
『亜竜のねぐら』は岩の洞窟がそのまま迷宮になったようなダンジョンだ。通路は広いがその分出現するモンスターは大型のものが多い。『亜竜のねぐら』の名の通り、ドラゴンの下位種が多く出現する。
しばらく進むとさっそく全長10メートルを超す大型のトカゲ型モンスターが1体現れる。身体はトカゲだが、頭部はゴツゴツしておりツノや牙が生えていて、ドラゴンであることがわかる。『レッサーアースドラゴン』というモンスターだ。
「ブレスと尻尾には注意しろ」
とだけ指示をして、あとはフォルシーナたちに任せる。
ミアールとクーラリア、そしてアミュエリザが前に出る。その間にフォルシーナが氷の槍を3本放つと、『レッサーアースドラゴン』がブレスを吐くために開いた口の中に突き刺さった。
『レッサーアースドラゴン』が激しくもだえている隙に、クーラリアが『縮地』で一気に接近して前足を切断、ミアールとアミュエリザが左右から脇腹を滅多刺しにする。
「『アイスパイル』!」
フォルシーナが新しく覚えた魔法を使う。『レッサーアースドラゴン』の頭上から丸太のような氷の杭が落ちてきて、背中に深々と突き刺さった。尻尾を振り回そうとしていた『レッサーアースドラゴン』はその一撃で完全に動きが止まり、前衛の3人に集中攻撃されてやがて光の粒子に変わっていった。
「全員アミュエリザに負けないくらい強いわね。フォルシーナの魔法も素晴らしいし、本当に素敵な娘たち。全員欲しくなってしまうわ」
ヴァミリオラの瞳が妖しく光る。その顔もとろけそうな感じで、元が妖艶な美女だけにその落差が酷い。なんでこんなキャラ付けされてるのに中ボスに挑んで最期を迎えるなんて扱いだったのだろう。
まあともかく、推奨レベル35~45のこのダンジョンでも3人とアミュエリザは十分戦えるようだ。ザコ敵は俺やヴァミリオラを含めて交代で相手をしながら深部へと進む。
このダンジョンは3階層しかない代わりに1階層が広く、さらにすべての階層にボスがいる。
1、2階層のフロアボスは『ドラゴレックス』という、二足歩行の恐竜ティラノサウルスの頭部がドラゴンになった感じのモンスターだ。
炎のブレスと噛みつき、尻尾の打撃が主な武器だが、フォルシーナの氷魔法が相性がよく、危ないところでは俺とヴァミリオラのフォローが入るので問題なく少女4人メインで討伐できた。
「ナイスお嬢、ブレス潰しが完璧だったぜです」
「ふふ、ありがとうクーラリア。前衛が厚いから余裕で狙えるのが大きいわ。なにかあってもミアールが守ってくれるものね」
「はい、もちろんですお嬢様」
「3人で連携がとれているのが羨ましい。私もきちんとしたパーティを組みたいのだけど……」
「今日はアミュエリザもパーティメンバーよ。この4人ならもっと戦えると思うわ」
「そうね。今日はすごく楽しいしやりやすい。能力も一度にこんなに上がるのは初めてかもしれない」
少女たちはそんな会話をしているが、2日間ですっかり仲がよくなったようだ。まあもともとフォルシーナとアミュエリザはメインヒロイン仲間であるし、当然なのかもしれない。
そんなキャッキャウフフしている4人を見て、ヴァミリオラの目つきがますます妖しさを増していく。
「ふふふふっ。いい、とてもいいわ……」
舌なめずりまで始めたりして、間違っても領民には見せられない姿である。
う~ん、ゲーム設定的にもこの世界でも、彼女は公爵としてはかなり優秀なはずなんだがなあ。




