04 戦力確認
領地防衛のために雇った『紅蓮の息吹』だが、平常時はダンジョンで素材の回収を頼むことになった。
今トリリアナを筆頭に錬金術師たちが大回転で錬金をしまくっているのだが、その素材はいくらあっても困らない。特に上位の素材は冒険者ギルドに依頼をしてもそうそう集まらないので、Aランクパーティ―を雇っているうちにやってもらおうというわけだ。
メザルたちも、
「毎日身体は動かしてないと鈍ってしまいますからね!」
と、やたらとさわやかな笑顔で了承してくれた。もとの契約にはない話なのだが、やはりゲーム通りの人のいいパーティである。もちろん素材は買取りなのでただ働きにはしていない。
翌日俺は練兵場に視察に向かった。
公爵邸の練兵場はサッカーグラウンドほどの広さがあるのだが、今その一角には、13体の、身長5メートルほどの大型ゴーレムが並んでいる。基本は泥でできているが、胸にある『ゴーレム核』の周りと、手足の先端だけは岩を付着させていて防御力、攻撃力を高めていたりする。
「お、公爵閣下、どうしたんですかい?」
やはり兵士の訓練の様子を見ていた将軍ドルトンが、俺の姿を認めてやってくる。
「ゴーレムがどの程度使えそうかを見ておきたくてな」
「そういうことならゴーレムを動かしますわ。ローダン! ゴーレムを1号から3号まで起動しろ!」
「はっ!」
兵士長のローダンが数名の兵士と共にゴーレムの元に走っていきゴーレムに指示をする。すると3体のゴーレムはブルッと震えたかと思うと、極めてスムーズな動きで歩きはじめた。
「動きがずいぶんと滑らかだな。まるで人間のようだ」
「へい。動かせば動かすほど成長するみたいでさ。岩も投げさせましたが、大型の魔導カタパルトと同等の射程で、比較にならないほどの命中精度が出ますぜ」
「ほう、頼もしいな」
魔導カタパルトの射程は大体500メートルくらいだ。その距離になると矢も魔法も届かないので、非常に強力な攻撃手段になる。古今東西、戦場の主兵器は飛び道具である。
今動いているゴーレムのうち2体は、近くに置いてあった、丸太の先に金属の輪を複数巻きつけた武器を手に取った。『不帰の森』の木材に、ドワーフのボアル親方が工夫をしたのだろう。そういえばそんな武器を造るという報告があった。長さはゴーレムの身長の倍、10メートル近くはありそうだ。
素手の一体は練兵場の真ん中までくると、空手の突きや蹴りのような動作をした。その動作速度はまさに空手家のそれで、およそ巨大ゴーレムの動きとは思えない。もちろん命中時は、手足の先についた岩が破壊力を高めるのは言うまでもないだろう。
丸太を持った二体は、互いに向き合って丸太での演武のようなものを始めた。見た感じきちんとした型があるようで、シンクロして見事な動きを見せている。
「素晴らしい動きだな。しかしあれは棍術か? 誰が教えたのだ?」
「昔少し俺がやってましてね。ゴーレムには合っていたみたいでさ。あれで殴ればドラゴンだって悲鳴を上げますぜ」
「確かにな。この間のトロルも一撃で倒せそうだ。あれが戦場にいれば兵士の士気も上がろう」
「単純な戦力としても強烈ですが、その効果も高いでしょうなあ。魔族はデカいモンスターを連れてくる時もありますから、それに負けないデカさの味方がいるとなりゃあ戦場の様相はまったく違うものになります。公爵閣下、コイツは想像以上にヤバいブツですぜ」
「そうだな。王家に知られると面倒なことになるのは間違いない。だからといって領民を守る道具を揃えぬという法はないがな」
「おっしゃる通りで。まあこれで魔族どもがやってきても徹底的に叩きのめしてやれますわ。二度と公爵領に攻めようなんて気を起こさせないようにしましょうや」
「ふっ、まったくだ。それと昨日『紅蓮の息吹』が正式に私の雇用下に入った。平時は素材回収を頼んでいるが、戦闘時にはフリーの戦力として使える。主に魔族の幹部や高ランクモンスターを相手にしてもらうよう言ってあるので、そちらもアテにしておいてくれ」
「有名なAランク冒険者パーティーじゃねえですか。よく雇えましたな」
「タイミングが良かった。これで戦力としては十分以上に揃ったであろう。あとはドルトン、お前の指揮にかかっている。期待しているぞ」
「公爵閣下の期待に応えられるようにしますわ」
といい感じで戦力の確認をして館へ戻ろうとすると、「お~い」と遠くから声が聞こえた。
見ると兵舎の方から狐獣人娘が金髪をたなびかせながら走ってくる。そういえばクーラリアには数日会ってなかった気がするな。
「公爵様っ、こっち来てんなら一言言ってくれよです」
「忙しいのではないかと思ってな。今日も『不帰の森』に行っていたのだろう?」
「もうマナビーストごとき一発だぜです。お嬢とダンジョン潜ってた方がよっぽど面白いんだです」
ドルトンを見ると、「この嬢ちゃんは確かにもうマナビーストは一刀で倒しますぜ」と肩をすくめた。どうやらクーラリアは想像以上に成長しているようだ。
「それは大したものだ。そろそろ私の護衛として少しは役に立ちそうになってきたか」
「今なら公爵様相手でも前よりずっと戦えると思うぜです。なんなら今立ち会ってくれてもいいぜっですよ」
「ふむ、たまには力を確認することも必要か」
ということで急遽木剣での模擬試合をすることになった。ちなみにクーラリアは木剣ではなく木刀だ。自分で作ったらしい。
領内でも1、2位を争う剣士二人の立ち合いなので兵士たちも集まってきたのだが……。
「ぐえっ!」
木剣を脇腹に打ち込まれて悶絶する狐耳美少女。
兵士たちが「公爵様自分の女にも容赦ねえな」とか言っているのが聞こえてくる。そういえばその件についてドルトンと『お話』するのを忘れていた。
「く、くそッ! 公爵様、もう一手頼むぜ!」
「いいだろう」
何合か打ち合ってみるが、確かに剣の腕は格段に上がっているようだ。ただ『神速』持ち中ボスの壁を破るのはさすがに無理である。
「あべっ!?」
胸を突かれて吹き飛ぶクーラリア。美少女感ゼロのやられ声がいかにも痛そうだ。
「くぅ~、やっぱり手も足もでねえ。さすが俺のご主人様だぜ」
怪しげなことを言いながら立ち上がって、俺のところに来るクーラリア。コンディショナーでふわふわになっている尻尾が左右に揺れまくっているのだが、狐って尻尾振るんだろうか。
「私に勝てぬのは仕方ない。だが強くなったな。頼もしいぞ」
と褒めておくと、「うひっ!?」と奇声を上げた後、「うへへへへ」と妙な笑い声を上げ、顔を赤くしながら兵舎の方へ去っていった。
「ふむ。年頃の娘はよくわからんな」
「いや、公爵閣下はよくわかっていらっしゃると思いますぜ」
「私でも理解できぬことはある。ところでドルトンよ、お前には少し話がある」
ということで執務室でゆっくりと『お話』をしたのだが、なぜか逆に真剣な顔で「え、公爵閣下の女じゃないんですかい?」と聞き返されてしまった。
いったい俺はどういう目で見られているのだろうか。記憶が戻る前から、マークスチュアートは異性に関しては潔癖に近かったはずなんだが。




