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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第3章 悪役公爵マークスチュアート、領地防衛のために奔走す

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03 召喚の魔道具

 翌日、フォルシーナと共に執務に励んでいると、将軍のドルトンがやってきた。


 手に包みを持っているのだが、その包みからは微妙に魔力が発せられているのが感じられる。


 俺はドルトンを応接セットに座らせ、フォルシーナにも同席をさせた。


「公爵閣下のおっしゃる通りのものが森の奥から見つかりましたぜ」


 そう言いながら、ドルトンはテーブルの上に包みを置いて、その包みを開いてみせた。


 中にあるのは、A3版ほどの大きさの金属板だ。魔法陣と呼ばれる文様が描かれ、平べったい水晶球のようなものが複数埋め込まれている。いかにも『魔道具』みたいな見た目のものだ。


「予想通りだな。これはモンスターを呼び寄せる……いや、召喚すると言った方が正しいか。そういったことを目的とした魔道具だ」


「やっぱりそうなんですかい? ウチの魔導師にも見せましたが、なにに使うかはさっぱりという話だったんですがね。公爵閣下は物知りですなあ」


 ただのゲーム知識だけどな、とは言えないので重々しくうなずいておく。


 その横で、いまいち話について来られないフォルシーナが口を出した。


「お父様、先ほどの森というのはどちらの森を指しているのでしょう。もしかして……」


「そうだ。先日モンスターが大発生したあの森だ」


 実はドルトンに命じて森の中を捜索させておいたのだ。あれが魔族の仕業なのはゲーム知識的には明らかなのだが、証拠がなければ他の人間は信じない。俺の部下はそれでも命令なら信じるだろうが、それよりは物的証拠があった方がいいと思ったのだ。


「しかし公爵閣下、これはやっぱり魔族が置いていったもので間違いないんですかね」


「間違いない。この魔法陣は魔族が使うものであるし、もとよりモンスターを召喚する技術は魔族しか持っておらぬ。これで魔族がこの領に仕掛けてくるのは決定的になったな」


「なるほど、先日のアレは威力偵察というわけですかい」


「だろうな。王都の北では街道にすら現れていると聞く。とすれば、これが仕掛けられたということは間違いなくこの領に魔族の本格的な攻撃があるということだ」


「ですな。しかし何から何まで公爵閣下の読み通りとは驚きますわ。公爵閣下は予言者か何かなんですかい」


「事実から論を組み立て推測をしているだけに過ぎぬ」


 ここで前世の記憶があるからとか言えたら気が楽なんだけどな。


 マークスチュアート的にこんな思わせぶりな言い方しかできないから、ドルトンどころかフォルシーナまで尊敬の眼差しで見てくるようになってしまう。


「この魔導具は私が預かる。少し研究をしてみてもよいかもしれん」


「お父様なら魔族の技術も我がものとしてしまうでしょう。楽しみです」


「モンスターを召喚しても操れなければあまり意味はないがな。使いようによっては素材集めが楽になるかもしれん」


「モンスターをわざと呼び寄せて討伐をするのですね。さすがお父様、素晴らしい発想です」


 モンスターにとっては極悪非道この上ないやり口だと思うんだがなあ。まあこの世界でのモンスターなんて害獣以下の扱いだから仕方ないか。


「とにかくこれで兵士たちの尻を叩く理由がさらに増えたんで、ビシバシ行くようにしますわ」


「領の未来は兵士にかかっている。よろしく頼む」


 ドルトンが去った後、俺はテーブルの上に残された『モンスター召喚』の魔道具をじっと見た。


 ゲームではフラグを立てるためのキーアイテムだったが、CGでは魔法陣まではよく描かれていなかった。リアルではもちろんその魔法陣は非常に緻密に描かれていて、よく観察すると、マークスチュアートの記憶の中にそれを解析できる知識があることに気づく。


「こんなところまで中ボスなんだよな……」


 ついつぶやいてしまったのだが、そんな俺を見てフォルシーナが、


「中ボス……? はっ、やはりお父様は中途半端な公爵ボスでは物足りないということ……?」


 なんて言っていた。


 いや『中ボス』ってそんな意味じゃないからね。でも言われてみれば、俺が『中途半端』っていうのは間違ってないのかもしれないな。




 それからさらに2週間が経った。


 公爵邸ではミアールを始め、メイドたちの見た目が色々と美しくなったと評判で、既婚者については彼女たちの旦那もニコニコしているらしい。錬金術で夫婦仲が良くなるとは、ゲーム知識だけではわからないことも多いものである。


 クーラリアもミアールに勧められてシャンプーなどを使ったらしく「一緒に訓練してる騎士が寄ってくるのがうるせえ……です」なんてことになっているらしい。


 ただその後、


「ドルトンのおっさんが『公爵閣下の女に手を出すとはいい度胸だな』って言ってくれたんでなくなったんだけどなです」


 などと嬉しそうに言っていたので、ドルトンとは少し話をしなければならないかもしれない。


 それから金髪がサラサラになった錬金術師のトリリアナがある日執務室に押しかけてきて、


「お館様! この『シャンプー』と『コンディショナー』も是非量産しましょう!!」


 と迫ってきて、側で聞いていたフォルシーナも賛同したので量産の許可を出した。ある程度量ができたら少量市場に出す予定とし、サンプルをミルダートの娘にも渡るようにした。


 それとダークエルフ忍者のアラムンドも一度使ってみたらしいのだが、「香りが残るので任務には不適です」とのことだった。厳しい世界である。


 ちなみに見た目に気を遣う男の役人や使用人も使っているようだ。無論俺自身も使うようになった。


 そんなある日、ようやく『紅蓮の息吹』が王都から戻ってきた。


 館の応接の間に入れようとしたら数が多く、会議室に入ってもらうことになった。


 来たのは『紅蓮の息吹』のリーダーメザル以下パーティの4人と、メザルの妹と母親、それから猫獣人斥候ライアの両親と祖母だ。特にライアの家族は王都で料理屋を営んでいたということで、引っ越しを渋るかと思っていたのだが意外だった。


 挨拶を済ませた後、まずはそこを聞いてみた。


「ライア殿のご家族は料理屋を営んでいたという話だが、そちらは問題なかったのだろうか?」


 答えたのはライアの父親だ。俺と同年代のやはり猫獣人である。


「はい。実は最近王都は税金が高く、材料費も高騰しておりまして、店を営むのもかなり切り詰めてなんとか、という状態だったのです。さらに公爵様に雇っていただけるということで、一も二もなくこちらにお世話になることになりました」


「ということは、永年で雇われてもらえるということでよいのかな?」


「はい、是非そうしていただきたく思います」


「うむ、それはこちらとしてもありがたい話だ。館の料理人は住み込みとなるがそれもよいかな?」


「はい。むしろ願ったりかなったりでございます」


「ならばよろしく頼む。詳しいことは家宰のミルダートという者が取り仕切っている。後ほど会わせよう」


 なるほど、王都の大森林開拓関係での不景気が後押しをしていたのか。こちらにとってはラッキーだが、王都民は大変そうだな。


 次は茶髪イケメンリーダー・メザルの家族だ。妹は十代前半で、例の保護した獣人娘たちと同年代だ。茶髪を三つ編みにした可愛らしい少女である。病み上がりのはずだが血色はいいように見える。母親はやはり俺と同年代の茶髪の美人だった。


「さて、メザル殿の母堂ぼどう妹御いもうとごはどのような待遇を望むのか聞かせてほしい」


 答えたのは母だ。マリネさんというらしい。


「は、はい。私はもともと王都のホテルの従業員として働いておりまして、職場が退職者を募っておりましたので退職をしてこちらに参りました。ですのでそれに近い職をいただければと思います。娘はここのところずっと体調を崩していたので、特に手に職はもっておりません。何かできればと思いますが……」


「ふむ……」


 王都のホテルの従業員なら貴重な人材だ。この世界、しっかりとした敬語を話せるだけでも大したスキルなのだ。


 それと妹のナリムは『エクストラポーション』で回復をしたはずだから魔力が上がっているだろう。事実俺から見てもすでに同年代よりは高いように見える。


「そうだな。まずは母堂だが、読み書きと計算はできるだろうか?」


「はい、ホテルの事務方にもいましたので」


「それは結構。今、当家の錬金術部門で事務を必要としているのだが、そちらで働いてもらえるとありがたい。ただし守秘義務の発生する職場なので、多少身の回りが窮屈になるかもしれぬ。その代わり給金は悪くないはずなのだが、いかがだろうか」


「公爵様のお館で働かせていただけるなら是非お願いいたします!」


「うむ、ではそうしていただこう。それと妹御だが、私から見ても魔力が高いようだ。実は今、館で錬金術師の卵を育てていてな、それらと共に学び、当家の錬金術師となる道も用意できる。いかがかな?」


「……っ!? こ、公爵様、妹は魔力は……」


 その話に反応したのはメザルだ。Aランク冒険者なら自分の家族の魔力くらいは把握しているだろうな。だが……


「今の妹御を見てみるがいい。魔力は高いと思うが?」


「え……っ!?」


 戸惑うメザルの後ろで、『紅蓮の息吹』の魔導師の美人・サーシアがナリムの手を取った。


「メザル、公爵様のおっしゃる通りだわ。ナリムちゃん魔力が前よりずっと上がってる。これ普通に魔導師とか目指せるレベルよ」


「ほ、本当か……?」


 メザルも母・マリネも、そして本人のナリムも目を丸くして驚いている。まあ『エクストラポーション』の副作用なんて分からないよなあ。


 マリネさんがナリムの頭をなでながら語り掛ける。


「ナリム、どうかしら。私は願ってもないお話だと思うの。錬金術師は平民出身の女としてはとてもいい仕事だし、それに公爵様のお抱えとなればそれこそ普通では絶対になれないわ」


「うん……。公爵様にはお薬もいただいたから、お役に立てるならなりたい」


「うむ、歓迎しよう。それと薬については兄上が冒険者として活躍をしているから渡したということもある。感謝は兄にするとよい」


「公爵様……」


 なぜかその場にいた全員の視線がこちらに集まってくる。公爵とはいえさすがにそういう態度は困るのだが……まあ好意的な感じなので全体好感度アップといったところだろうか。


 とにかくこれでゲーム中でも屈指の実力者パーティを雇うことに成功した。その分金はかかるが、彼らならそれに見合う働きをしてくれるだろう。


 下手に魔族幹部に暴れられたら兵士たちが大勢死ぬまであるからな。それを考えればこれほど高コストパフォーマンスな人材はないのである。

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