2章 → 3章
―― ブラウモント公爵邸 フォルシーナ私室
「お父様のあの見事な剣技、そして魔法、素晴らしいとは思わないミアール」
「はい、とても素晴らしいと思います。私もこの目で見ることができて幸運でした」
「そうよね。ミアールもクーラリアもうっとりしていたものね」
「そ、そうでしょうか? ですがあのお姿を見れば誰もが同じになるかと思います」
「ふふっ、その通りよ。でもミアール、憧れるのはいいけれど、お父様の寵愛を得ようなどとしてはいけないわよ」
「も、もちろんでございます。そのような大それたこと考えたこともございません」
「ミアールはそうよね。でもクーラリアはその辺りまだ弁えがない気がするから心配かもしれないわ」
「獣人は強い異性に惹かれると聞きます。私の方からそれとなく注意をしておきましょう」
「お願いをしておこうかしら。それと最近、他のメイドたちもお父様に対する態度が変わってきたような気もするのよ。ミアールはどう思う?」
「それは……お嬢様のお考えになっているようなお話ではないかもしれません」
「どういうこと?」
「実はお館様が錬金術で新しいお薬をお作りになったそうなのですが、それを皆使っていて助けられているのだそうです」
「薬? どのようなお薬なの?」
「ええと、少し品のないお話になりますが……お通じをよくする薬だそうです」
「お通じ……? ああ、そう言えばメイドたちがそんな話をしているのを聞いたことがあるわ。かなりの悩みだそうだけれど、なるほどさすがお父様、女性たちの悩みを解決してしまわれたのね」
「ええ、それで感謝をしている者が多いのだとか」
「そう、そういうことなら良いのだけれど。ゴーレムの時の錬金術師たちの目つきも怪しかったから油断はできないわ」
「……そうかもしれません」
「ところでミアール、私最近思うの。お父様は果たして、公爵などという地位に安んじていらっしゃってよいのかと」
「どのような意味でしょうか?」
「お父様はこの公爵領だけで収まる器ではないと思うの。剣士としても魔導師としても、そして錬金術師としても領主としても、お父さまは完璧すぎるわ。公爵などという肩書では、お父様の器を満たすには足りなすぎる」
「……!? お嬢様、それ以上は……!」
「大丈夫、わかっている。まだそれ以上のことは言わないようにする。でも恐らくミアールも、あの親子を見て、そしてお父様の有りようと比べた時、私に心から賛同してくれるはずよ。それは覚えておいて」
「……わかりました。私はお嬢様にお仕えする身。そのお言葉を胸にとどめおきます」




