14 報告
その後は、さらに1週間は領地関係の執務をしたり、フォルシーナたちとダンジョンに潜ったりして過ごした。
もちろんその間、兵士や騎士たちの強化、装備の拡充、情報の収集や派閥貴族への魔族への警戒をする旨の連絡は随時行っている。
王都陥落前後でのその他の領地での動きはゲームでは描かれていなかったので、魔族がこの領にまで攻めてくるかは微妙な線であるが、準備をしておくことにこしたことはない。
当然ながら、国王にも「魔族の動きに注意されたし」という手紙を何通も出している。しかし『立太子の儀』の時の様子をかんがみるに、俺の手紙を重視して対応する可能性は低いと思われた。宰相は元ゲームの通りならマトモなキャラクターだったので、彼は目を通しているかもしれないが。
もちろんゲーム知識がある今となっては、その王都陥落を阻止したいなどという考えも思い浮かばなくはない。しかし公爵である俺が未確認の情報を元に、軍を率いて王都にのぼることなどできるはずもない。むしろそれをやったら叛意を疑われ、内戦からの中ボスルート一直線である。
そもそも王都にはこちらとは比較にならないくらいの戦力が揃っているのだ。自分の領地を放っておいて王都を守る理由はまったくない。被災する王都民は可哀想とは思うが、俺ができるのは王家から援軍の指示があった時に軍を出すことと、避難してきた王都民を受け入れるくらいのものだ。
なおミアールの運上昇系スキル所持の検証だが、恐らくありそうだという結論にいたった。あの後『石舞台ダンジョン』の最下層に何度が行きゴーレムは3体倒したが、そのうち2回『ゴーレム核』がドロップした。正直これはかなりの朗報であるとともに、フォルシーナとミアール主従は俺にとって重要度がさらに高まってしまった。
さてそんな中、王都へ情報収集に行かせたアラムンドが帰ってくる頃合いになった。
執務室で仕事をしていると、扉がノックされてそのアラムンドが姿を現した。いつものちょいエロ忍者コスチュームで執務机の前に膝をつく。
「お館様、任務完了してございます」
「ご苦労だった。休ませてやりたいが、まずは報告を聞かせてもらおう」
「は」
彼女から伝えられた情報は以下の通りだった。
・今回の大森林開拓の発案者はロークス王子自らとされている。ただしそれを助言したのはゲントロノフ公の配下。
・ロークス王子による大森林開拓は、ゲームヒロインの一人マリアンロッテの他、王国騎士団の女団長、宮廷魔導師団の団長が参加する。
・率いる軍勢は2万、3分の1は補給隊。
・期間はまずは1年、3年まで延長できるよう準備はしている。
・当面の目標は奥地に存在だけ確認されている古代遺跡の確保。
「ほぼ予想通りだな。あの森をある程度伐採、開拓しながら進むとなると、これくらいはやはり必要か」
「奥地の大型モンスター出現まで想定しての規模だそうです」
「この開拓計画だけなら手堅い印象は受けるな。そのあたりはさすがゲントロノフ公といったところか。問題は時期が悪すぎるということだけだ。反対意見はなかったのか?」
「宰相や一部の大臣、それと騎士団長は猛反対したようです」
「反対した大臣たちの名はわかるか?」
「はい、こちらに」
アラムンドは報告書の束を机の上に置く。彼女は本当に優秀な人材である。裏切りキャラなのが非常に残念なくらいだ。
俺は大臣たちの名前に目を通した。宰相と騎士団長以外、マークスチュアートの記憶にはあるがゲーム知識にはない名ばかりだ。王都陥落時に亡くなったか、ただの脇役として扱われなかっただけなのか。ともあれ顔も見知っていて、能力の高い良識派であることも知っている貴族たちである。生き残っていたら仲良くしておこう。
「王子たちの出発は2週間後、やはり前か」
わかっていたことだが、これでロークス王子たちが『王都襲撃』『王都陥落』前に王都を出ることは確定した。
そうすると、彼らは大森林に手を付け始めたところで王都陥落の報せを聞くことになるだろう。急いで引き返して王都奪還に向かうとして、2万の兵で取り返すのは難しいだろう。
当然俺たち3大公を含め貴族たちに援軍の要請が来るはずだが、正直あの主人公王子の下で戦うのは不安でならない。完全な偏見だが、あの王子なら自分の直属以外の兵など平気で使い潰す気がする。
「お館様、なにか気になることが?」
おっと、眉間に皺でも寄っていたか。
「いや、かかるコストを考えると、果たして十分な見返りが得られるのかと思ってな。これで古代遺跡がただのガラクタの山であったら笑い話にもならん」
「これは未確認の情報ですが、森にある古代文明の遺跡には、かなり価値のあるものが収められていると噂されているようです。それと今回の開拓については、お館様のなさったことが強行の理由の一つにあるのかと」
「どういうことだ?」
「先のカオスデーモン撃退の噂が王都中に広まっているのです。それも一部では、王子がなにもせずに守られていたという話も共に語られているようです。ですので――」
「王子の人気取りか。元からその側面は強かったであろうが」
「はい。それがさらに重要になったのかと」
「ふむ……」
なるほど皮肉なものだ。まああれに関しては完全に自業自得であるし、俺が知ったことではない。
ここで気になるのは、俺に関する噂が想像以上に広まっていることだ。冒険者ギルドのギルマス・ブルランも知っていたのだから当然他領にも広まっているだろう。
「む……?」
その時、ブルランから聞いた話が俺の脳裏に浮かんだ。
「魔族は魔王を倒せる個人を恐れている」
確かそう言っていた。そして今の話だと、魔族が俺を「魔王を倒せる個人」だと認定する可能性が高いのではないだろうか。
「……もう少し警戒レベルを上げておくか」
俺はアラムンドを休むよう言って下がらせ、家宰のミルダートと将軍のドルトンを執務室に呼んだ。




