07 娘と行くダンジョン 1
『ダンジョン』というのは、この世界に散在する『迷宮』のことである。
『迷宮』といっても形はさまざまで、一般的な洞窟みたいなものから人工的な迷路に見えるもの、外見も遺跡風のものや城のようなものまで存在する。中にはモンスターが多数徘徊していて、奥に行けば宝箱もあり、最奥部にはボスもいて、倒すことができれば高価な秘宝や強力な武具を得ることもできる。まあゲーム的におなじみのアレである。
当然その宝を求めて大勢の人間がダンジョンに挑戦するわけだが、そういった人間たちは俗に『冒険者』と呼ばれている。なお『冒険者』はモンスター退治のスペシャリストでもあり、領主としては彼らを雇って地上のモンスター退治などをやらせることも稀にある。
もちろんお約束とも言える『冒険者ギルド』も存在しているが、この世界のギルドはそこまで強い組織ではなく、領主とのつながりも強いため独立機関という趣はそれほどない。
さて、ダンジョンに入るためには領主の家族や部下と言っても冒険者登録が必要となるので、まずはフォルシーナとクーラリアを連れてギルドへ向かおうとした、のだが、
「お父様、ミアールも是非同行させてください」
と、フォルシーナが赤髪ボブカットの美少女メイド・ミアールを熱烈プッシュしてきた。
「なぜだ?」
「ミアールも私の使用人として、共に戦えるようになりたいのだそうです」
「お館様、どうか御許可ください。よろしくお願いいたします」
ミアールが真面目な顔で頭を下げる。ちなみに以前と違って、彼女の俺に対する態度は普通の使用人のそれになっている。俺が陰で褒めたのと、フォルシーナとの仲が修復されたことが理由だろう。
「しかしミアール、お前は戦うための訓練を積んでいないだろう? それでは連れていけぬ」
「その……実はミルダート様やドルトン様に無理を言って、少し訓練を積ませていただいています」
「なに?」
いきなり驚きの話だが、確かに今ミアールは腰にショートソードを帯びていて、左手には円形の盾を持っている。見覚えがあるので領軍兵士用の装備品だろう。
もしかしたら、俺がフォルシーナに冷たくしていたから、フォルシーナの付き人であるミアールにあの2人が肩入れしたという感じなのかもしれない。彼女に関してはゲームでもほとんど語られていないのでわからないんだよな。
とはいえここで断ると断罪ルート復活の恐れもあるからなあ。
「お父様、ミアールは私のために陰で努力をしているのです。どうかお願いします」
「ふむ……まあいいだろう。ただしやるなら半端なところでは済まさぬぞ。フォルシーナは高位の魔導師になる素質がある。それについて行くには相当の覚悟が必要だ。いいな?」
「はい、ありがとうございますお館様! このミアール、粉骨砕身努力をいたします!」
急にキラキラした感じになるミアール。あれこの娘、ちょっと見た目が進化したような……。美少女といっても今まではサブキャラっぽい感じだったのが、メインキャラに片足突っ込んだくらいには可愛さがアップしている気がする。
「公爵様の周りには可愛い娘がいっぱいだな……いっぱいですね」
狐獣人娘クーラリアの少しからかうような笑みに眉をひそめて見せつつ、俺は馬車に乗り込んだ。
冒険者ギルドは街の中心街の端にある3階建ての建物だ。マークスチュアートとしては、領主になる前は何度となく訪れた場所である。
フォルシーナたち3人を連れてギルドに入る。公爵領の領都のギルドなので一階ロビーは非常に広い。右のカウンターには職員が常時5人おり、左奥のダンジョン情報が掲示された掲示板には多くの冒険者が群がっている。机と椅子も10か所以上設置され、そこで話をしている冒険者たちも大勢いる。彼らはこの後、各自ダンジョンや依頼へと散っていくはずだ。
カウンターに向かって歩いていくと、近くの冒険者がこちらを見て目を丸くしたり、下卑た笑みを浮かべたりする。
まあ、どことなく学校の制服っぽい魔導師服(ミニスカート仕様)、メイド服(ミニスカート仕様)、巫女服(ミニスカート仕様)の超絶美少女3人が入ってきたら普通そうなるよなあ。
といっても、
「おいおい、あのパーティ可愛い子たちばっかりだな。声かけてみるか?」
「アホ、一緒にいるのは公爵様だぞ。『蒼月の魔剣士』に喧嘩売るなら一人でやれよ」
「げ!? ホントかよ。噂じゃカオスデーモン100匹瞬殺したって話だが……」
「そりゃ盛り過ぎだ。飛んでいったのは10体くらいだって話だ。ただあの人なら100体でも楽勝だろうけどな」
「おっかねえ……」
という感じで、絡まれることはありえない。公爵である俺に絡もうものなら即処刑まであるから身分制社会は恐ろしい。
俺はカウンターの受付嬢に声をかける。こちらも普通に美人なのはゲーム世界ならではだ。
「Aランクのブラウモントだ。こちらの3人の冒険者登録を頼みたい」
「は、はい。ただいま!」
実はマークスチュアート自身はすでに冒険者登録は済ませてあり、ダンジョンも一通り入っていて、20歳前にはAランク冒険者という最上位についている。やはり中ボス、存在自体がチートである。
3人は受付嬢の案内に従って登録を済ませた。クーラリアは元Cランク冒険者だったらしいのだが、奴隷になった際に一度リセットされてしまったようで、Fランクからのやり直しになった。
「お父様はAランクでいらっしゃるのですね。冒険者として活動をなさっていたのは知りませんでした」
「お前が生まれる前の話だからな。今までもランクを失効しないように定期的に活動はしていたが、言うほどのものでもなかったのだ」
「私はお父様について知らないことが多いようです。これからは色々と教えてください」
「機会に触れて話はしてやろう」
受付嬢から冒険者の身分を表す金属製のカードを受け取り、俺たちはギルドを後にした。




