18 王都攻略戦1
翌朝、公爵軍、元王家軍4万は隊列を整え、王都城壁への侵攻を開始した。
先頭には巨大な盾を持ち、投石用の石を乗せた荷車を牽くゴーレムが20体並び、城壁の上に備え付けられた大型弩弓や魔導カタパルトに対抗する構えである。
城壁までの距離が500メートルを切ったあたりでいったん停止する。
城壁の上には多数の兵士の姿が見える。すでにこちらの姿は確認しており、大型弩弓などはすでに発射準備が整っているようだ。
将軍のドルトンが大声を張り上げた。
「一発目は城壁にぶち当てろ! ゴーレム、投石開始!」
ゴーレムが自ら運んできた石をつかむと、オリンピック選手の砲丸投げのようなフォームで石を投げ始めた。
石は放物線を描くと、狙いを過たず、城壁の上部に直撃し、凄まじい轟音を上げた。
慌てて逃げ出す兵士たち。それはそうだ、向こうの攻撃が届かない距離からの攻撃である。
「次はバリスタと魔導カタパルトを狙え! 投石続け!」
二投目は城壁の上に設置された大型弩弓や魔導カタパルトに命中した。一投目で示威を行ったので巻き込まれた兵士は少ないだろう。こちらは基本的に陽動だからな。被害は双方に少ないことに越したことはない。
ゴーレムの投石で10以上の大型弩弓や魔導カタパルトが破壊され、明らかに守備隊は混乱状態に陥り始めている。
しかしその動きがピタッと止まった。同時に城壁の上に一人の男が出てくる。遠目にもわかるほど研ぎ澄まされたオーラをまとう長身の剣士である。
ゴーレムが第3投を行うと、彼は城壁の上で剣を振るい始めた。10以上の三日月の光の刃が射出され、飛んでいる石を切り裂いて落とす。
「ふむ、あれがリープゲン侯爵か。確かに相当な使い手だな」
俺の言葉に、轡を並べているドルトンが唸った。
「ですな。あれほどの使い手がいるとは、さすがゲントロノフ公は侮れませんな」
「お前ならいい勝負ができるであろう。ただ万一は許されぬ。もし相手が出てきたら、ラシュアル将軍と共闘せよ」
「へい。まだまだこんなところでくたばるつもりはねえんで、勝つためならなんでもやりますわ」
「それこそ将の器というものだ。頼もしいぞ」
「褒めてもなにも出ませんぜ」
と言いつつ頬を掻くドルトン。ふむ、好感度アップは確かに男性キャラにもあったな。
「よし、こちらは任せた。守備隊の注意が完全にこちらに向いたタイミングで私は出る」
「ご武運をお祈りしますぜ」
俺は馬の首を巡らし、後方へと下がる。
向かった先にはフォルシーナとマリアンロッテとミアールとクーラリアとツクヨミがいる。
さらのその後ろには500の歩兵。黒を基調とした軽装鎧を着て、ミスリルの穂先を持つ短槍を構えた、見るからに精鋭という雰囲気の兵士たちだ。その隊長として先頭に立つのは、以前俺の供をしていた青年兵ローランだ。
「よし、では全員準備はよいな」
「はいお父様」「はい公爵様」「はい御館様」「おうご主人様」「はいマスター」
「はっ!」
ヒロインたちのキラキラした声と野太い兵の声の対比がなかなかに緊張感を削ぐが、そこは我慢だ。
「作戦行動は変更なし。王城内転移後は各自所定の目標を制圧せよ。王の元には私が向かう。向かってくるものは斬り捨ててよいが、投降するものは捕縛するのみにとどめよ」
「はっ!」
「我らは王都と王都民を暗愚の王より解放する正義の戦士である。そのことを胸に刻み、義に違わぬ行動を心掛けよ」
「はっ!」
「ではゆくぞ。全員構えよ」
俺は『魔の源泉』スキルによる大魔力ゴリ押し『転移魔法』で、500人オーバーの集団を一斉に転移させた。
転移先は王城の前庭である。
王城内にも転移は可能だが、500人となるとさすがに無理がある。とはいえ城の制圧には数が必要なのでこの形をとらざるを得なかった。
「行動開始せよ!」
「はっ!」
事前の作戦通り、王城制圧部隊は20人から30人の隊ごとにわかれ四方に散っていく
王城は当然周囲を守備兵で固めていたが、当然ながら前庭にいきなり500の兵が出現するなどということは想定していない。
守備兵は精鋭兵ではあったようだが、こちらの制圧部隊も高レベル者を揃えた精鋭部隊だ。しかも機先を制し、王城内の構造をよく知っている俺が、ミルラエルザからの情報を元に立てた作戦に従う軍団である。守備兵たちは一瞬の混乱のうちに槍で突き倒され、あっという間に駆逐されていく。
「城内突入っ!」
ローランが率いる200人の城内制圧部隊が正面玄関から突入を開始する。
彼らは王城内の各場所に散らばり、それぞれ大臣や有力な役人、そして宝物庫などを確保していくことになる。
そして前庭には、俺とフォルシーナたち5人が残された。
「お父様、いよいよあの男を捕らえるのですね」
「うむ、これより執務室に転移し一気に制圧する。ツクヨミ、王の居場所に変化はないな?」
「はいマスター。ランクD個体が複数、この城の3階中央に集まっています。さらに……南にいたランクB個体もこちらにいるようです」
「む、まさか魔導師バヌアルか? 朝は南門にいたはずだが、こちらに移動していたとはな」
南はヴァミリオラが圧力をかけているはずだが、そちらから魔導師バヌアルを外して王城の守りにつかせるとは、もしや作戦が読まれていたのだろうか。
という考えは、フォルシーナが中断させた。
「あの男のことですからどうせ自分の身を優先したのでしょう。お父様なら恐るるに足りないと思います」
「なるほど、その可能性は高そうだな」
「公爵様、もしバヌアルさんなら私に話をさせてください。彼女なら聞いてくれると思います」
「うむ、任せよう」
マリアンロッテの進言にうなずいて返し、俺は王城を見上げた。
「では転移するぞ」
「はいっ!」
全員の返事を確認し、俺は『転移魔法』を発動した。




