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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第8章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルートを完遂す

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15 王都前

 翌日の午後、俺は公爵軍の陣中にいた。


 公爵軍と元王家軍4万はすでに王都の城壁の手前1キロ弱の場所に陣を張っている。


 前面にはゴーレム20体を並べ、示威の面でも抜かりはない。王都守備隊もゴーレムを見れば、戦意を大幅に削がれるだろう。


 本陣天幕内には、俺の他に、将軍ドルトン、将軍リン、フォルシーナ、マリアンロッテ、ミアール、クーラリア、そしてツクヨミにエメリウノまでいる。もちろん大隊長クラスの将官も20名近くいて、先ほどまで明日朝一からの作戦行動の打ち合わせをしていたところである。


「質問がなければここまでだ。各自部隊への指示は明日作戦前に行えよ。では全員部隊に戻ってよし!」


「はっ!」


 一通りの話が終わり、ドルトンの指示で将官たちが各自の部隊へと戻っていくと、天幕内は主要メンバーだけになった。


 俺は、一仕事終えて頭を掻いているドルトンに話かけた。


「ドルトン、例の部隊は問題ないな?」


「へい。精鋭兵を五百、別に待機させてます。公爵閣下の命令に従うように言い聞かせてありますんで使ってやってください」


「うむ、ご苦労。後は明日、リープゲン侯爵と魔導師バヌアルがどう動くかだな。南からのローテローザ公爵軍の圧に負けて一人そちらに回ってくれるといいのだが」


「普通に考えれば間違いなく回すでしょうな。『真紅の麗炎』を無視するのはさすがに無理だと思いますぜ」


「そうあって欲しいものだ」


 リープゲン侯爵と魔導師バヌアルはどちらもランクBの高レベル者なので、ツクヨミの能力で居場所は特定できる。今のところどちらもこちらの西側城壁にいるようだが、これからローテローザ軍が圧をかけ始めれば動かざるを得ないはずだ。


 その後俺は自分用の天幕にフォルシーナたちとともに移動をした。


 ミアールがいれてくれた茶で一服をすると、フォルシーナが期待に満ちたまなざしを向けてくる。


「お父様、いよいよお父様が王になられる日が来るのですね。私はとても嬉しく思います」


「そうなるとお前は姫ということになるな。それも嬉しかろう」


「そういえば、そうなるのでしょうか? ですが私はあまり姫というものには心が動かないのです。私にはすでになりたいものが決まっておりますので」


「む? それは……」


 フォルシーナの目つきが微妙に怪しい。


 まさかいったん父親オレに王位を取らせておいて、後で追放して自分が女王になるとか考えていたりは――


「ところで公爵様! もし王位につかれたら、やはりおきさきを新たに迎えられますか?」


 俺が恐ろしい考えに辿り着きそうになると、それをさえぎるようにマリアンロッテが身体をこちらに寄せてきた。


 というかちょっとこの娘も聖女オルティアナに似て距離感がバグり始めてないだろうか。これが聖女の条件だったりしないよな。


 それはともかく、王位についたあとの妃か。


 まったく考えてなかったが、さすがに王となれば考えなければならないことかもしれない。といっても俺のマークスチュアートとしての部分には、亡き妻への思いもまだ残っているのは確かなのだが。


「妃などについては後々考えることもあろうが、それも時期尚早であろう。王位についたとして、やらねばならぬことがあまりに多いゆえな」


「それはお妃についてはお迎えになるつもりがあるということですね!?」


「ま、まあ、王としては迎えぬというわけにもいかぬかもしれんな」


 さらに距離を詰めてくるマリアンロッテに、俺は適当なことを言ってしまう。


 しかし何が彼女をそこまで駆り立てるのか。もしかして彼女自身がその妃の位を狙っているなどということがあるのだろうか……?


 いやいや、彼女は夢見る乙女なキャラだったし、王妃の位欲しさに父親と同年代の腹黒おじさんと結婚とか考えるはずもない。とはいえ貴族的にはありえる話だからなあ。彼女はもともとロークスと結婚して王妃になるはずだったわけだし。


 と色々と背筋が寒くなってきたところで、アンドロイド少女のツクヨミが俺の袖を引っ張ってきた。


「む、どうしたツクヨミ?」


「マスター、王都内のランクB反応の一体が南へと移動を開始しました」


「そうか。ローテローザ軍が近づいてきたのだな。城に動きはないか?」


「ランクA反応に動きなし。ランクC反応2体、ランクD反応5体にも変化なし」


「うむ。助かるぞツクヨミ」


 なぜか俺の服の袖をつかんだままのツクヨミの黒髪を撫でる。


 なお城内のランクA反応は秘書官ラエルザ、つまり魔族軍四至将ミルラエルザだ。


 ランクC以下はロークスの護衛だが、ランクDの一人はロークス自身らしい。さすが主人公、あんな風でも意外と強かったようだ。


「クーラリア、将軍のドルトンに魔導師バヌアルが南の城壁に移動したと伝えてくれ」


「はいよご主人様」


 クーラリアが天幕を出ていくと、ツクヨミが再度裾を引っ張ってきた。


「マスター、ランクAに動きあり。高速でこちらに向かってきています」


「ほう……?」


「こちらの陣の正面手前にて減速。そこで停止しています」


 ここでミルラエルザが動くのは想定外……ではないんだよな。


 むしろ彼女のバックボーンが設定通りなら、この動きはあって当然なものである。


 俺が立ち上がると、合わせてフォルシーナも椅子から立ち上がった。


「お父様、もしや敵襲でしょうか? ならば私も参ります」


「いや、恐らくそうではあるまい。私と交渉をしに来たのだろう」


「交渉、ですか? お父様にはなにがお見えになっていらっしゃるのでしょう?」


「ランクAは前に話した王城に入り込んだ魔族の将なのだが、彼らにも色々と事情があるのだ。恐らくは私に内密の話を持ってくるに違いない」


「それはどのような……」


 とフォルシーナが言いかけたところでクーラリアが戻ってきた。走ってきたようだが、その理由は明らかだった。


「ご主人様、ラエルザって女がご主人様に会いに来てるらしいぜです。できれば2人だけで話をしたいと言ってるみたいだですよ」


「そうか。すぐ行く」


 天幕を出ようとする俺の耳に、「また女性……」「フォルシーナ、これが公爵様のなさりようだから……」「お嬢様、ここは耐えるところです」「さすがご主人様だぜ」という声が聞こえてきた。


 そういえばミルラエルザが女だってことはフォルシーナたちにはきちんと伝えていなかったかもしれない。


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