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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第8章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルートを完遂す

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13 聖剣に選ばれし者

 俺はミスリルの剣を鞘に納め、地面に落ちた『シグルドの聖剣』を拾い上げた。ゲーム中でもさんざん世話になった剣であり、さすがにその柄を握ると多少の感動もあった。


「……む?」


 柄を握ると、魔力が吸われるような感触がある。


 どうも魔力を消費するタイプの剣のようだ。ロークスが疲れていたのもそのせいだったのかもしれない。


 俺は思い付きで聖剣に自分の魔力を流し込んでみた。『魔の源泉』込みの莫大な俺の魔力を『シグルドの聖剣』はすべて飲み込んだ。これもしかして『聖剣』じゃなくてとんでもない『魔剣』なんじゃないだろうか。


 しかしその甲斐あってか、『シグルドの聖剣』の刀身がまばゆいばかりの青白い光を発し始めた。それを見た瞬間、俺の腹黒公爵面が瞬時に覚醒する。


 俺は王家軍の兵たちに向かうと、地上の太陽と言わんばかりに輝く『シグルドの聖剣』を天に突き上げた。


「見よ皆の者、この聖剣の輝きを! これこそこの『シグルドの聖剣』、すなわち『勇者王の剣』が私をその持ち主として認めた証にほかならぬ! 古の勇者王は、そして天の神は、誰が正しく、誰が悪たるのかをご存じなのだ! 王家の兵よ! 民を守る戦士たちよ! 諸君が真に国を守り、愛する者を守りたいと願うなら、今すぐに我らに下るがよい! 諸君らもすでに知っていよう。国王ロークスに王たるの資格がないことを! かの王は魔族の襲撃に際し、策を弄して父王を(しい)し、己の欲望を満たすために王位を(さん)したのだ!」


 莫大な魔力を乗せた声と、『シグルドの聖剣』の輝きと、腹黒公爵の口上の相乗効果による呼びかけはあまりに強力だった。


 だめ押しに『シグルドの聖剣』から『シャイニングレイ』を放つと、それは『シャイニングレイ』ではく、上位魔法『ライトオブジエンド』のさらに強力版『ライトオブドゥーム』に変化していた。宇宙戦艦から撃ちだされそうな極太レーザーが天を衝いて雲に穴を開ける。いやこれやりすぎでしょ。


 その瞬間、その場にいた王家軍の兵は一斉にその場に膝をつき、武器を捨てて両手を上げた。その動きが波のように広まると、その場にいた兵ほとんどが投降の体勢をとった。


 精鋭兵と見える百人ほどの一団が、ロークスを乗せた馬を引いて慌てて逃げていくのが見えた。王都では見たことのない兵装なので、恐らくはゲントロノフの精鋭兵たちだろう。


 こうなることを見越していたわけでもなかろうが、さすがの用意周到さである。まあロークスについてはわざと逃がした面もあるのだが。


 ともかく計算外のあったローテローザ領防衛戦だが、どうやら俺の腹黒公爵ムーブでなんとかいいように収まったようだ。


 後は投降した王家軍の扱いだが、こっちの方が少し面倒かもしれない。申し訳ないがそちらはヴァミリオラに投げてしまおう。




 戦の後始末は、ヴァミリオラが中心となって淡々と進んでいったようだ。


 俺はその間一度自領に戻ってフォルシーナたちに事情を話したりして、その後夕方ごろに再びローテローザ領へとやってきた。


 ヴァミリオラ、アミュエリザ、そしてロヴァリエの3姉妹と共に、俺はローテローザ公爵邸の応接の間にいた。


 ヴァミリオラは赤髪ロングの妖艶美女、アミュエリザは赤髪ぱっつん姫カットポニーテールの14歳メインヒロイン、そしてロヴァリエは赤髪ツインテールの11歳少女だ。3人並ぶとゲームイベントの一枚絵みたいな強烈な絵面で、ロークスが先の戦いで下品なことを言っていたのも理解……はまったくできないな、さすがに。


 俺はそんな思考をよそに紅茶を飲んでいると、ずっと興奮していたような顔のアミュエリザが身を少し乗り出してきた。


「ブラウモント公爵様、朝の戦い、本当にお見事でした。あの戦いは王国史に残るものだったと思います。それに『シグルドの聖剣』に選ばれたこともきっと歴史に残るでしょう。あの場にいたことを私は神に感謝いたします!」


「う、うむ。まあ『シグルドの聖剣』については、実は単に魔力を注いだだけなのだがな。選ばれたなどと言ったのも今後やりやすくするための方便にすぎぬ」


「ですがその腰の聖剣、とてもお似合いだと思います」


 そう、せっかくなので『シグルドの聖剣』は俺が使うことにしたのだ。というよりあそこまで大勢の前で格好をつけた以上、使わないわけにはいかなかったというのが正しいが。


 俺が苦い顔をしていると、末妹のロヴァリエが輝かんばかりに赤い瞳を向けてくる。


「公爵様、ご活躍は姉から今日一日よくお聞きいたしました」


「そうか。耳汚しでなければいいのだがな」


「そんな! 私もその場にいたかったとすごく後悔いたしましたわ」


 と言ってから、ロヴァリエは急に上目遣いになった。


「それで、その……」


「なんであろうか」


「その、『シグルドの聖剣』というものを、私もぜひ拝見したのですが……」


「ふむ、そういうことか。存分に見るとよい」


 俺は腰から鞘ごと剣を外し、テーブルの上に置いた。


 ロヴァリエだけでなくアミュエリザも目を輝かせ、俺に許可を取って剣を抜くと、その青白く輝く刀身を眺め始める。


 それまでつまらなそうな顔をしていたヴァミリオラも身体を寄せて見入っている。


「これは確かに神具とも言っていいほどの剣ね。この剣に選ばれたとなれば、もはや誰も貴方が王になることに疑問を持たないでしょう。あの色ボケ王には多少やられたけれど、こうなるとただの道化師だったわね」


「それでもこちらの領が危険にさらされたのは間違いない。私もこの剣の存在までは感知できなかった」


「それは私も同じよ。しかしこのような剣、あの色ボケ王はどこから手に入れたのかしら」


「恐らくは魔族からであろう。この剣は伝承によれば古の魔王を討ち取った剣。それを魔族が奪い、城の奥に封印したといわれている」


「なぜ封印を? 溶かしてしまえばいいでしょうに」


「そこは聖剣ということだろうな。魔族にも封印する以外の手だてがなかったのであろう」


「触れるだけで害を為すとかそのような感じかしら。ではなぜ魔族はこれをあの色ボケ王に渡したのかしら。自分たちを危険にさらす行為だと思うのだけれど」


 そう、実はそれは俺も考えた。なにしろこの剣が名のある剣士にでも渡れば、その人物は魔族の天敵となりうるのだ。だが逆にそのことが、ミルラエルザがロークスに聖剣を渡した理由にもなる。


「恐らくはあの国王だから渡したのであろう。聖剣を使いこなせぬが、絶対に人には扱わせぬ、そういう人間だと見極めてな」


「ああ、なるほど。あの色ボケ王ならこの聖剣を持っていても問題ないということね。自分に対立する魔族を倒させて、そして用済みになればあの色ボケ王を処分する。四至将ミルラエルザの考えはそんなところかしら」


「その可能性は高いであろうな」


「しかしそうなると、魔族からしたら最悪の人間に聖剣が渡ってしまったことになるわね」


 そこで皮肉っぽく、妖艶に笑うヴァミリオラ。う~ん、こうしてるといかにも切れ者公爵なんだがなあ。


「あっ、公爵様、剣を見せていただきありがとうございました!」


 ロヴァリエは剣を差し出してくるが、どうもまだなにか言いたそうだ。


「なにか気になることがあったかな?」


「あ、その……できれば公爵様がこの剣を輝かせているところを見たいのですわ」


「そういうことか」


 見た目通りの子どもっぽさに、俺としてはほっこりしてしまう。


 まあ子どものお願いであるし、アミュエリザまですごく期待の目で見てくるので、俺は剣を抜き、そして魔力を込めた。


 ファンという音を発して、刀身に青白い光が宿る。かっこいいギミックではあるが、正直これをおっさんが振り回す絵面はかなり痛々しい気がする。


 しかしロヴァリエとアミュエリザは眩しそうに刀身を見つめながら半ばうっとりした顔になった。まあ伝説の剣だしなあ。フォルシーナたちも全く同じ反応だった。


「美しい、月のような輝きですわ! まさに『蒼月の魔剣士』様にふさわしい剣なのですね」


「ロヴァリエの言う通りです! この剣はブラウモント公爵様のための剣なのだと思います」


「いやまあ……そう評されるのは嬉しいのだが……な」


 草葉の陰でシグルドさんが泣いている気がするな。


 もっとも現実として目の前にいるのは、熱線がほとばしりそうな目で睨んでくる、切れ者公爵様なんですがね。


「そのあたりにしておきなさい2人とも。それでブラウモント公、私たちはここからどう動けばいいのかしら?」


「うむ。我が軍は今、投降した王家軍含め4万で王都に向かっている。一週間ほどで着くと思うが、そちらで王都の攻略は行う。ローテローザ公はこちらで投降した王家軍をまとめて、同時に王都に着くように移動をさせてもらいたい。そして王都の南側城壁近くに陣を張り、王都守備隊の一部を引きつけて欲しい」


「戦力を分散させるわけね。こちらの軍も同時に攻撃をすればいいのかしら?」


「いや、その必要はない。示威のみ行い、守備隊の注意を引くだけでよい。王都はゲントロノフ公の軍1万が守っているとのことだが、策を弄すれば速やかに攻略はできる」


「その策というのもこの目で見てみたいものだけれど、貴方の能力を考えれば大体予想はできるかしら」


「恐らくは貴殿の考えている通りに近いであろうな。ただ今回のこの『シグルドの聖剣』のように不測の事態が生じる可能性もある。特に魔族の動きだ」


「この機に再び攻めてくるかもしれないということ?」


「可能性はある。王都へ戻す王家軍の将兵にはそのことをよく言い聞かせておいてもらいたい。遅かれ早かれ魔族の再襲来はあり、さらに周辺国の動きもあるとな」


「ええ、それは伝えておきましょう。もっとも今日話をした感じでは、上位将校はわかっているみたいだったけれど」


「彼らは全員今回の投降に納得している様子なのだろうか?」


「問題ないわ。というより国王の評判は最悪に近いわね。露骨に王都を暴君から解放しようなんて口にしている人間もいるくらい」


「ふぅむ……」


 リン率いる軍の様子からも予想はできたことだが、ロークスの不人気ぶりはこちらも同じであったようだ。ただやはり、それを見過ごしているゲントロノフの動きは不自然ではある。


 もっともレギルの件を考えると、ゲントロノフの背後もうっすら見えてきたところではあるが……なにしろゲームの設定と全然違うからなあ。ソシャゲ版のシナリオが反映されている可能性もあるのだろうか。

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