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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第8章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルートを完遂す

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12 ロークスの実力

『シグルドの聖剣』、それがロークスの切り札だったようだ。


 まあしかし、切り札の中身さえわかってしまえばなんということもない。対処はあまりに簡単である。


 俺は城壁から飛び降りると、まず高速移動必殺技『無明むみょう冥王めいおう剣』を放ち、すれ違いざまに『試作機1号』の片側の足すべてを切断する。


 バランスを失い横倒しになった『試作機1号』の本体を、飛ぶ斬撃必殺技『破星はせい冥王剣』の連発でズタズタにすれば、それだけでまず『試作機1号』の破壊は完了である。


「ブラウモント公爵様!」


 アミュエリザが嬉しそうに叫ぶ。その後ろで、ヴァミリオラが『エクストラポーション』を飲んでいるのが見えた。やはり使いどころを探っていただけだったようだ。


「すまぬ。少し遅れた」


「いえそんな! もしかして公爵様の方の戦いは?」


「すでに終了した。レギル将軍は倒れ、ラシュアル団長はわれらと共に歩むことになった。我が軍と、将軍となったラシュアル団長が率いる元王家軍は今ともに王都へと向かっている」


「さすが『蒼月の魔剣士』様! やはりラシュアル団長をお味方に引き入れなさったのですね!」


「……うむ」


 アミュエリザの評価はともかく、「やはり」という言葉に微妙に深い意味を感じてしまうのは俺の勘違いだろうか。


 まあ今はそれを詮索している時でもない。


 崩れ落ちる『試作機1号』から主人公っぽい動きで飛び降りていたロークスが、俺たちの方に向かってきていたからだ。


「おいブラウモント、てめえなんでここにいるんだよ!」


 ロークスの顔は、鬼気迫る、というより癇癪かんしゃくを破裂させたような感じであった。切り札の一つが一瞬で破壊されればそんな顔にもなるか。


「今のが聞こえませんでしたかな? 我が領での戦闘は一日で終わったのですよ。レギル将軍は倒れ、ラシュアル団長は王家軍3万とともに我が方へと下りました。国王陛下におかれましては直ちに投降するか、速やかに退却するかのどちらかをお勧めいたします」


「なんだと!? クソッ、まさかあの女、どうも俺になびかねえと思ってたらブラウモントの女だったのかよ! ふざけやがって!」


「彼女の名誉のために申し上げますが、彼女は国の民のためを思って私に同調したのです。彼女もまた、国王陛下に王たるの資格なしと判断したということですな」


「うるせえよっ! この剣を持っていることが王の資格だろうが! 伝説の勇者王シグルドの聖剣だぞこいつは!」


 シグルドの聖剣を見せびらかすように構えるロークス。その構えだけを見れば、確かにゲームで主人公をしていたあのロークスそのものであった。


「剣など所詮道具にすぎませぬ。資格なき者が持つ聖剣など、強者の持つ数打ちの剣にも劣りましょう。それをここで証明いたしましょうかな」


「このスカし野郎がッ!」


 ロークスがその場で聖剣を振り下ろし、切っ先を俺に向ける。ほとばしるのは太めのレーザー光『シャイニングレイ』だ。


「『ディスペルオール』」


 しかしゴーレムをたやすく破壊する威力を秘めた光属性魔法も、すべてを無効化する闇の波動の前には無力だ。それが道具から出るだけの魔法ではなおさらである。


「はぁっ!? 何が起きた!?」


「玩具の魔法など私に届くことはありませぬ」


「一発だけじゃねえぞ!」


 ロークスは何度も聖剣を振って『シャイニングレイ』を連射するが、すべて黒い波にかき消される。いや便利すぎでしょ『ディスペルオール』。


「てめえ……てめえも何か持ってやがんな!」


「残念ながらそのような事実はありませぬ。ところでその聖剣とやらは、光をチカチカさせるだけが芸の剣なのですかな?」


「抜かせっ!」


 今度はまっとうに斬りかかってくるロークス。


 一応『縮地』は使えるらしい……というのはさすがに失礼か。腐っているかもしれないが、その能力はあくまで主人公ベースなのだろう。


『シグルドの聖剣』と俺のミスリルの剣が打ち合わさり、派手な金属音をかなで始める。


 実はこの世界では、上位の武器は持つ者自身の能力を高める力がある。ゲームでは初期の『鉄の剣』は『攻撃力+10』で、『シグルドの聖剣』は『攻撃力+350』なのだが、ただ剣の切れ味が良くなったくらいで攻撃力が35倍になるはずがない。つまり持つ者自身の剣技を自然と高めるからこその攻撃力アップだったというわけだ。


 そんなわけで、そこまでレベルが高いとも思えないロークスでも、『蒼月の魔剣士(笑)』とそれなりの雰囲気で立ち合えてしまう。


 その迫力に、近くで見ていたアミュエリザやヴァミリオラだけでなく、王家軍の兵士たちや城壁の上のローテローザ兵たちも戦いをやめて注目し始めていた。


 うむ、これはいい傾向かもしれない。


「さすが国王陛下、聖剣に選ばれただけのことはあるようですな」


「当たり前だろ! それより『蒼月の魔剣士』とか言われてる割に大したことねえな! 『顔面蒼白の剣士』とかに改名しろよ!」


「むしろそちらの方がありがたいのですが」


 いや本当にね。


 互いに『縮地』で縦横無尽に動き回り、交錯する一瞬に無数の刃を交わす。なかなかいい戦いを演じているように見えるはずだが、どうやらアミュエリザは()()()()と気づき始めたようで、眉を寄せて訝しそうな顔になっている。さすが天才少女騎士。


 立ち合いを始めては5分も経っていないはずだが、ロークスの動きが明らかに鈍り始めた。いくら聖剣が剣技を上達させるとはいっても、身体能力まではそこまで変わるわけではない。素のレベルと普段の不摂生が表に出たということだろう。


「はぁ……はぁっ! クソッ、なんで勝てねえんだよッ! 勇者王の剣じゃないのかよこれはッ!」


「先ほども申しましたが、凡夫の操る聖剣などその程度のものです。筋は悪くありませんので、陛下も地道に鍛錬をなさっていれば一廉ひとかどの剣士におなりになったでしょうに」


「なんで……ッ! てめえは上から目線なんだよ……ッ!」


「それは心外ですな。心にやましいことがある人間ほど、ただの忠言が僭越せんえつと思えるのでしょう」


「スカしやがってッ! くそがァッ!」


 最後の力を振り絞るようにして聖剣を振るってくるロークス。どうやらここは幕引きか。


「遅い」


 俺は上段からの一撃を受け流し、身体を横に流してロークスの懐に入る。ギョッとするロークスの手首を籠手の上からミスリルの剣で叩くと、ロークスはあっさりと聖剣を手放した。


 俺はそのまま剣の柄頭でロークスの胸当てを強打し、王家軍の方に吹き飛ばしてやる。


「ぐはッ!?」


 ロークスは激しく地面に叩きつけられてのびてしまった。


 兵士たちが慌てて集まってきて、その体を後方へと運んでいった。

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