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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第8章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルートを完遂す

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09 再編成

 その後ほどなくして、王家軍3万はリンの手によって掌握された。


 もともとはリンが手を尽くして再編した軍でもあるので、そこはむしろ元に戻っただけという感じのようだ。


 夕刻には全軍が落ち着いた様子に見えたので、リンに主だった将官を天幕に集めてもらった。俺がその場に行くと、リンを含め20名を超える将官全員が一斉に臣下の礼を取った。


「ブラウモント公爵閣下。ここにいる全員が閣下の麾下(きか)に入ることを希望しております。どうか閣下の大業成就の手伝いをさせていただきたく、お願い申し上げます」


「う、うむ。もとよりそのつもりだ。王都を解放し、この国を正しき道に導くため、共に戦ってほしい」


 どうやら俺が説得にあたるまでもなく、将官たちはブラウモント公爵側につくことに同意したようだ。あまりにあっさりと事態が進むので、さすがの腹黒公爵も拍子抜けどころか戸惑ってしまった。


 その後将官たちにも話を聞いたが、やはりロークスの放蕩ぶり、王としての無責任ぶりに対して非常に批判が高まっているそうだ。将兵への待遇が悪いこと、王都の復興が手つかずであることも問題で、それどころかここに来て増税などという話もあって、王都民は魔族にやられるか王家に潰されるかの2択みたいな状況だったようだ。


 ともかくこれで公爵軍は4万を超える大軍勢となり、このまま王都へと攻め上ることになった。


 その日の夕方、本陣には俺やフォルシーナたち、ドルトン、リン、そして上位の将官たちが集まっていた。もちろん情報の確認と、今後の行軍の打ち合わせをするためである。


「ラシュアル将軍、今王都はどのような状態にあるのだろうか」


 軍議に先立って、俺はリンにまずそのことを聞いてみた。


 実際は『転移魔法』で王都に行って、現地で情報収集をしているアラムンドに詳細は常に聞いているのだが、関係者に改めて聞くことは重要である。さすがに王城内の情報まではアラムンドも十分には集められない。なにしろあそこには魔王軍四至将ミルラエルザがいるのだ。アラムンドクラスの人間でも彼女をあざむくのは難しい。


 全員の視線が集まる中、リンはうなずいて話し始めた。


「はい。まずローテローザ公爵領の方へ国王陛下率いる3万の軍が向かっているはずです。そちらには先日古代遺跡より手に入れた、巨大な鉄のゴーレムを投入すると聞きました。『転移の魔道具』を経由して進軍していますので、一両日中には交戦状態に入ると思われます」


「すると王都の守りはゲントロノフ公が受け持たれているのかな」


「その通りです。ゲントロノフ公爵麾下1万の軍が守ることになっております。また我々が公爵閣下へ下ったことが知られれば、さらに派閥の貴族から兵を(つの)る可能性もあります」


「なるほど。まあそうであろうな」


 こちらに攻めてきた王家軍はあっさりと全軍引き入れることができたが、さすがにゲントロノフの軍はそうはいかない。となると4万の軍を率いて攻城戦を行わなくてはならないのだが、こちらには転移魔法があるのでそこは恐ろしいほどのズルができるはずだ。


「ゲントロノフ軍に注意すべき強者はどの程度いるのだろうか?」


「将軍であるリープゲン侯爵はかなりの剣の使い手と聞いております。また副将のバヌアル殿も若いながら魔法の腕は宮廷魔道師団にもなかなかいない程とか。他の隊長クラスの者は我らと大差はないかと思います」


「マリアンロッテ嬢はその2人のことはなにか知っているかね」


 俺が水を向けると、マリアンロッテ嬢は微妙に嬉しそうに話し始めた。


「どちらの方も領地にいた時にお会いしたことがあります。リープゲン侯爵はとても厳格で自分に厳しい方です。領内での剣術大会では誰も寄せ付けず優勝をしていらっしゃいました」


「ほう」


「バヌアルさんは平民出身の方なのですが、魔力の強さを評価されて軍に入った人です。宮廷魔道師団にも勧誘をされたようですが、断ってゲントロノフ家に仕えてくれています。得意な魔法は風属性と雷属性だと聞いています」


「雷属性が得意ということなら確かに稀有な才能を持っている者だな」


 ゲームでは確かゲントロノフの護衛役みたいな役どころで出ていた2人だ。完全な脇役なので戦闘シーンもなかったはず。レギルのようにイレギュラーな状況になければ俺の相手ではないだろう。問題は彼らがゲントロノフたちの悪事にどれだけ加担しているかだが、それは後の話だな。


 と俺が少しだけ考えていると、フォルシーナが小声でマリアンロッテに質問をしているのが聞こえた。


「ねえマリアンロッテ、そのリープゲン侯爵とバヌアルさんという方は両方男性なのかしら?」


「リープゲン侯爵はそうね。バヌアルさんは若い女性よ。面白い人で、私も結構仲良くしてもらっていたわ」


「バヌアルさんは結婚は?」


「まだ独身のはずよ。なんていうかすごく男っぽい人で、そういうところが全然ない人なの」


「そう……」


 と応じながら、フォルシーナはなぜか俺の方に視線を向けてくる。いやフォルシーナだけでなく、ニヤッと笑うクーラリアと無表情なミアールも一緒だ。


 その視線の意味は不明ということにしておいて、俺はその2人の会話で確かにバヌアルは女魔道師だったなと思いだす。セリフがほとんどなかったのでどんな人間キャラだったかは全くわからないが。


 そこで話がいったん途切れると、再びリンが口を開いた。


「それともう一つ気になる人物がいるのです。ブラウモント公爵閣下もお気づきと思いますが、国王陛下の秘書官のラエルザという者です。正体はまったくの不明ですが、私から見ても相当な強者であると思われます」


「ああ、彼の者はな……」


 実はラエルザが魔族軍四至将ミルラエルザであることはそこまでは広めてはいなかった。というか、ある事情があって一般にまでその情報を広めるつもりは元々ないのだ。少なくともこの場にいる一般の将官に知られることは避けたい。


「ラシュアル将軍、その話は後ほどにしよう。よしドルトン、今後のわが軍の動きについて説明を頼む」


「へい。ではとりあえずこの地図を見てもらっていいですかね。今自分たちが陣を張っているのがここで――」


 というわけで、その後行軍についての説明などがあって軍議は終了となった。この後一週間以上の行軍となるが、そちらはドルトンに任せよう。


 俺の次の出番は、王都に攻め込む時になるはずだ。

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