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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第8章 悪役公爵マークスチュアート、中ボスルートを完遂す

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06 迎撃戦 3

 王家軍の前面に整列していた歩兵部隊が左右に分かれ、その間から魔導師と思われる一団が出てきた。


 その先頭には、うっすらと気味の悪い笑みを浮かべた優男、宮廷魔導師団団長のレギン・レギルがいる。白い高級そうな魔導師服をまとうその姿は、ゲーム内で出てきた立ち絵そのままである。


 気になるのは、レギルの近くに立つ魔導師が、鎖につながれたボロを着た男を多数連れていることだ。その男たちは頭に袋をかぶせられていていて、無理やりこの場に連れてこられたように見える。


 リンもそちらにチラッと目を走らせて、俺に向き直りつつ叫んだ。


「レギル将軍、ここは私にお任せを!」


「ああもちろんそのつもりだよ。ただ王家に仇なす大罪人の最期を見たくてね。さあラシュアル団長、その罪人を速やかに討ち取ってくれ」


 芝居がかった様子で両腕を広げながら、レギルは口元の笑みを濃くした。どう見てもなにか仕掛けてくる雰囲気だ。まあなにをしてくるのかは大体のところわかっているが、あの感じだとリンごとやるつもりなのかもしれない。しかしレギルってそこまでの腹黒キャラだったっけ? 確かに元のゲームでもなにを考えているのかわからない風ではあったけど。


 レギルの言葉にリンは目を細めると、再び全身に燐光をまとわせた。『シャイニングオーラ』の重ねがけし、そこから『縮地』によって一気に間合いを詰め、さらに速度の増した連続突きを放ってくる。


 俺は避けず、同じく『縮地』で突っ込みながら剣で迎え撃つ。疾風と化した俺とリン、その間で剣と槍が瞬時に数百の稲妻となって交錯し合う。高レベル者にのみ許された人知を超えた技の応酬は、足元の石畳すら幾重にもえぐりとり、周囲に嵐すら巻き起こす。


 しかしその極まった戦いを、レギルはやはり笑みを浮かべたまま眺めていた。彼は部下の魔導師を呼ぶと、袋を被った人間たちの中から3人の男を自らの前に連れてこさせた。そして水晶のついた杖を振り上げて、なにやら怪しげな魔法を3人の男にかけ始める。


「よそ見をする余裕があるのですかッ!」


 リンがいきどおったように『サウザンドスラスト』を叩き込んでくる。俺はそれを『無尽冥王剣』でいなしながら、レギルのほうへ注意を払い続けた。


 魔法をかけ終わったレギルが杖を俺たちのほうに向ける。袋を被った3人の男たちはビクンと跳ねるように動き出すと、全力でこちらへ走り始めた。


「ラシュアル団長、どうやら王家は忠臣たる貴殿を裏切ったようだ」


 俺は一瞬の隙をついてランスを弾くと、リンの胸元に剣を突き付けた。一本取られた形になり、リンの動きが止まる。


「なにを言っているのですかッ!」


「見たまえ。あれがレギルの『ソウルバーストボム』だ。人の持つ魔力を暴走させ、それ自体を強力な爆発魔法の媒体とする。邪法の中でも極めつけの邪法と言えよう」


「な……!? まさか……っ!」


 俺の視線を追って、リンがレギルの方へと目を向ける。当然目に入ってくるのは、レギルではなく、異様な動きで走ってくる3人の男たち。


「あの異常な魔力の高まり、貴殿なら感じ取ることができるだろう。あれが爆発したらどうなるのかもな」


「それは理解できますが、それよりこのままでは……っ!」


「ふっ、安心せよ。外道の邪法など私に届くことはない」


 俺は戸惑っているリンから距離を取ると、レギルに呼びかけた。


「レギル団長、いや、今は将軍かな。見下げたものだ、宮廷魔導師団の長がそのような邪法をもてあそぶとはな」


「はっはぁ! これは邪法ではなく、魔導の極点なのですよ。人の持つ魔力を余すところなく使い切る究極の魔法。それがこの『ソウルバーストボム』なのです!」


「ならば己の魔力を使い切ればよかろうに。小人しょうじんのあさましさは度し難いものだ」


「負け惜しみが遺言になるというのは滑稽ですねブラウモント公! 貴方が私より優れているなどありえないことなのです。それを証明するために死んでください!」


「それは聞けぬ話だ」


 俺は剣を天に掲げ、魔力を剣の先端に集める。そして剣を振り下ろすと同時に、『叡智の魔導師』エメリウノが作り上げた秘術を解放した。


「『ディスペルオール』」


 剣の先端から黒い波動が爆発的に放射された。半球状に広がったその波動は、間近に迫っていた3人の男たちを直撃し、そして身体を透過するように通り過ぎた。


 瞬間男たちは立ち止まり、糸の切れた操り人形のようにバタバタとその場に倒れ伏す。彼らの心臓辺りから吹き出していた魔力の勢いが急速に弱まっていくのが感じ取れる。彼らにかけられた『ソウルバーストボム』の魔法が打ち消されたのだ。


 そう、『|すべての呪文を打ち消す魔法ディスペルオール』の名の通り、この魔法はすべての魔法や呪術を打ち消す、まさに存在自体がズル(チート)な、公式チート魔法なのである。ちなみにゲームではほぼイベント専用魔法で、普通の戦闘でも使えたが、一発で魔力がゼロになるという明らかに使わせる気のない仕様だった。もっともラスボスの魔法すら打ち消すのだから自由に使わせるわけにもいかなかったのだろうけど。


 なおリアルなこの世界でも莫大な魔力を使う魔法であるが、もちろん魔力無限増大スキル『魔の源泉』持ちの俺にはデメリットなしで使えてしまう。チート×チートはバランスブレーカー以外の何者でもない。


 さてそれはともかく、自慢の必殺ド外道魔法を無力化されて目を剥いて驚いているのはもちろんレギルだ。


「なっ!? どういうことだ!? なぜ私の『ソウルバーストボム』が無効化された!? ブラウモント公、貴方は今なにをしたのです!?」


「邪法など私には届かぬということだ。それより今の行動はラシュアル団長を犠牲にして私を倒そうとするものということでよいかね?」


「そんなことはどうでもいい! くそ、ふざけやがって!」


 悪態をつきながら、レギルは袋を被った人間たちの前に立って『ソウルバーストボム』の魔法を発動した。どうやら全員にかけたようで、10人ほどの人間たちが一斉にこちらに全力疾走を始めた。


『ソウルバーストボム』があの古代遺跡の扉を破壊するほどの威力があるなら、このあたり一帯が更地になった上に巨大なクレーターができるほどの数である。


「レギル将軍、おやめください!」


 リンが叫ぶが、レギルはゆがんだ笑みを浮かべるだけである。


「お前も一緒に吹き飛べラシュアル! いつもいつも自分が王国を代表する騎士ですみたいなツラしやがって。オレだって魔導師団の団長なんだぞ! なぜいつもお前の名ばかりが前に出るんだ!」


 う~む、どうやらレギルはリンに対しても個人的な恨みがあったようだ。まあリンとレギルは王国の双璧ではあるが、どうしても美人の姫騎士には人気で勝てないからなあ。レギルだって腹黒糸目丸眼鏡公爵に比べれば、見た目が悪いわけじゃないんだが。


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― 新着の感想 ―
もっと「魔導の深淵がー!」的な人物かと思ったら、思いの外俗物だった様ですね……騎士団長以外は収穫無しですかね
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