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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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18 最終確認 2

「てめえは、そこまで言うなら証拠でもあるんだろうなッ!」


 顔を赤くしてキレ始めるロークス。


 あろうことか手元にある酒のビンを投げつけようとするが、そこでちょうと新たに執務室に入ってくる者がいた。


 ひとりは体格のいい異相の老人、ゲントロノフ公。


 もう一人は痩身の、一見すると少年にも見えるような年齢不詳の男だった。白い髪で片目を隠し、その顔は品よく整っている。ただ、釣り上がった目に光る赤い瞳は、妙に濁りが交じって見える。白い高級ローブに身の丈を越える大仰な魔導師用の杖はゲームでの姿そのまま。


 王宮魔導師団団長レギン・レギル、それが彼の肩書と名である。


 ゲントロノフ公は俺と、酒ビンを投げるモーションに入っていたロークスを交互に見て、怪訝そうな顔をした。


「ほほう? なにやら騒がしいと思えばブラウモント公か。事情はわかりませぬが、国王陛下もそのような無体は御慎み下され。事情はこの私がうかがいますゆえ」


「ああ、ゲントロノフか。お前も話を聞けば俺のやろうとしたことに納得するだろう」


 ロークスは舌打ちをしつつ、酒ビンを隣のサキュバス美女に押し付けた。


「して、どのようないきさつがあったのでしょうかな?」


「おいブラウモント、お前が説明しろ。お前がアホなことを言ったのが始まりなんだからな!」


 ロークスが吐き捨てるように言うと、ゲントロノフ公は俺に視線を移した。


「ブラウモント公、なにがあったのか話していただけるかのう」


「特に大した話はしておらぬ。ただ国王陛下の即位について、いささか後ろ暗いところがあるのではないかと確認申し上げていたのですよ」


「それはかなり無礼な行いに聞こえるのだがのう。後ろ暗いというのは具体的になにを言っているかの?」


「国王陛下が、魔族による王都襲撃を利用して、先王陛下から王位を(さん)したのではないかという話です。大森林開拓がその手段、と申し上げれば、ゲントロノフ公にも察しがつくのではありませんかな」


 俺の言葉を聞いて、ゲントロノフは一瞬無表情になり、ついで皺を深くして苦い顔をした。


「……なるほど、そのような邪推をされても仕方のない状況ではあったかもしれんのう。だがそれは公のはらの中だけに止めておくがよい」


「残念ながら、これはローテローザ公とも共有している見解なのですよゲントロノフ公。そして我々はすでにその裏もとっております」


「愚かな。そのような裏は存在せぬ。今なら儂が陛下に取り繕うゆえ、ローテローザ公ともども陛下に許しを乞うのじゃ」


 真剣な顔をしているが、ゲントロノフの言葉はどうも芝居がかって聞こえる。まあこの疑惑を口にした時点で俺たちに退路がないことはよく理解しているだろうから、そんな対応にもなるだろうか。


 ただ少し気になるのは、明らかにゲントロノフが慌てていないということだ。先の一瞬の無表情から察するに、ゲントロノフもクロで確定である。しかし今の彼の顔には、むしろしてやったりに近い感情が見え隠れしている。俺やローテローザ公を排除できる理由を見つけたと喜んでいるともとれなくはないが……と考えながら、俺は話を続けた。


「ゲントロノフ公、これはうやむやに出来る話ではありませぬ。魔族と、そして周辺国の動きを考えれば、この国は早急に立て直しを図らねばならぬ時。しかし先も話をして感じたが、国王陛下は国のことも貴族のこともなにもわきまえてはおられぬ。それどころか民を犠牲にして王位を求めるようでは、到底我らも従うことはできぬというもの」


「待てブラウモント公、貴公はなにが言いたいのか」


「遠からず、ブラウモント家とローテローザ家は、国王陛下に退位を求めることになるということですな。今日はそれをなすかどうかを見極めに参ったのですが、残念ながら我が心は定まったとしか言いようがありませぬ」


 俺の言葉に、その場は一瞬凍り付いたように固まった。


 これは要するに、反乱の首謀者が、これから反乱を起こしますよと目の前で言っているようなものである。それは場が凍りもするだろう。


 その後の各人の反応はまちまちだった。


 ロークスは怒りが頂点に達して別の方向に行ってしまったのか、逆にニヤニヤと笑いはじめた。ゲントロノフは無表情に近く、魔導師団団長のレギルは面倒そうな表情を浮かべている。ラエルザは相変わらず口の端を持ちあげたままだ。


 そんな中で最初に口を開いたのは意外にもレギルだった。


「あ~すみません、それってブラウモント公とローテローザ公は、王家と敵対するってことでいいんですよね」


「可能性はあるかもしれぬな」


「なるほど……。となると、結局は内戦ということですね。いいんじゃないですか。わかりやすくて」


「レギル殿、勝手なことをいうものではないぞ」


 ゲントロノフがたしなめるが、ロークスはそれを無視してレギルに話しかけた。


「おいレギル、そういえば例の件の報告に来たんだろ。どうなったんだよ」


「ご安心ください陛下、ご所望のものは手に入れて参りましたよ。使えることも確認済みです」


「ははっ、そうかよくやった! あの口うるさいだけの役立たず女とは全然違うな!」


「まあ彼女も全力は尽くしたとは思いますが、実力の差でしょうね」


「くくくっ、そうかもしれねえな。だがこれで話が早くなったぜ。おいブラウモント、つまんねえこと言ってると領地ごと潰すぜ? そうならないうちにさっさと娘を連れてこい。ヴァミリオラにも言っとけ、姉妹揃って全員可愛がってやるってな」


 ロークスが勝ち誇ったような顔で悪役セリフを言い放つ。いくら『切り札』を手に入れたからと言って、さすがに粋がりすぎではないだろうか。


「それが国王陛下の言いようというのであれば仕方ありませぬ。ブラウモント家とローテローザ家は、後ほど然るべき態度を示させていただきましょう」


 俺はそう伝えて執務室を去ろうとする。


 と、前に立ちふさがる者がいた。魔導師団長のレギルだ。


 面倒そうな顔をしていたはずなのだが、今は妙に挑戦的な目を俺に向けてくる。


「お待ちくださいブラウモント公。王家に弓を引くことがわかっているのに、その首謀者を逃がすという話はないと思いませんか?」


「やめておいたほうがよいな。私がその気になれば、この場の全員を一瞬で無力化できる」


「随分な自信がおありですが、私も以前の私ではありませんよ。以前から魔法の腕をブラウモント公と比較されるのが気になっていたのです。私の魔法が上だといつかは証明しなければならないと思っていました。今回はそのいい機会になりそうです」


 おや、まさかそんなライバル心みたいのを持たれているとは知らなかったな。


 確かにレギルのような魔法一筋でやってきた人間が、剣と魔法、両方使える人間と魔法で比べられるのは屈辱ではあるのだろう。言われてみればゲームでも、マークスチュアートの死後、レギルが「魔法なら自分の方が上だった」などと語っているシーンがあった。


「魔法の腕なら、然るべき場所で比べたほうが良いのではないか? その方が貴殿も納得できるであろう」


「然るべき場所ですか。そうですね、大勢の人間の前で優劣をつけるのもいいでしょう。私の魔法によって、公爵閣下の軍を全滅させてみせますよ」


 そう言って、口の端を持ち上げて笑うレギル。


 俺はその時になってようやく、彼の目にサディスティックなくらい光が宿っているのに気付いたのであった。

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