16 「お話」2
「お父様にお話があります」
エメリウノを連れて帰った翌日、俺が執務室でツクヨミと共に午後の執務を行っていると、フォルシーナがミアールとマリアンロッテ、そしてクーラリアを連れてやってきた。
ちょうど書類の処理も終わったので、俺はアンドロイド少女ツクヨミを休ませ、4人を応接セットに座らせた。もちろん席に着く前にミアールがお茶を淹れてくれる。
「フォルシーナ、話とはなんだ?」
「あのエメリウノという方についてです。お父様はなぜ、あの方にお父様の錬金棟をお与えになったのですか?」
「彼女がどのような者かは昨日話したと思うが、彼女の研究を進めさせるためには相応の場所が必要なのだ。今のところそれが私の錬金棟しかなかったというだけの話だ」
「普通の錬金棟でもよかったのではありませんか? お父様のお部屋を貸す必要はないと思います」
「そうはゆかぬ。彼女の研究は秘匿性が非常に高いものゆえな。彼女の作り出すものは、人々の生活を大きく変える技術となる可能性が高いのだ。じきにお前にもそれがわかるようになろう」
エメリウノの扱いだが、結局俺直属の魔導研究員という形になった。要するに領主である俺の援助を受けつつ、領地経営に有用と思われる魔導技術を研究・開発するという役職である。
実は昨日魔力比べをしてわかったのだが、彼女は研究者としては優秀だが、戦う魔導師としてはそこまででもない。無論常人とは比べるべくもないが、魔法の威力そのものは『真紅の麗炎』ヴァミリオラや、育った後のフォルシーナの方が強いだろう。
なのでエメリウノについては、錬金棟にこもってひたすら研究してもらうことにした。なにしろ彼女の研究対象は、領地経営において極めて有用となりそうなものが多いのだ。それ以前に、彼女自身が研究に専念することを強く望んでいた。
フォルシーナたちにそれも含めて説明をすると、多少は納得したような顔になった。
「わかりました、それは理解いたしましょう。ところでエメリウノさんとは今日お話をしたのですが、お父様はあの方を手に入れるために、その、あの……せ、せせ……」
「接吻ですよフォルシーナ」
マリアンロッテが耳打ちすると、フォルシーナは咳ばらいをして言葉を続けた。
「せ、接吻をされたとうかがっているのですが、それは本当でしょうか?」
「んん……!?」
いやなんでそんなことまで話してるのかなあの『叡智の魔導師』さんは。
「……ああ、まあ、彼女が魔導人形に自分の魂を移した存在という話はしたと思うが、その魔導人形を起動するのに接吻する必要があったのだ。私が好きでしたわけではないので勘違いしないように」
「そうなのですか? お話によると、お父様はエメリウノさんの……その、む、胸にも手を触れたとか」
いやだからなんでそういう勘違いを助長するような話までするかなあ『叡智の魔導師』さんは。
「それは単に魔導人形に私の魔力を注ぐために必要だったので触れただけだ。誓って言うが乳房に触れたわけではないぞ」
実の娘をはじめ、年頃の娘の前で言うことではないんだが……。やはりフォルシーナとマリアンロッテは顔を赤くしていて、さすがミアールは無表情を保っているが、クーラリアは耳を盛んにピクピクさせて落ち着かない様子になっている。
執務室にしばらく微妙な空気が流れたが、なんとか立ち直ったフォルシーナが再び口を開いた。
「そ、それならよいのです。ところで今のお話を聞く限り、お父様は領地や王国のために、エメリウノさんをご自分の手の内に入れられたということでよろしいのですね?」
「まあ、結果としてはそのようなことになろうな。あくまで彼女に出会ったのは偶然ではあるが」
「ではやはりお父様は、目的のためには手段を選ばないということになりますね。民のため、国のために必要なら、あらゆる女性を手の内に入れていくということでしょうか」
「いや待てフォルシーナ。確かに私の周りに女性が多いのは認めるが、私が女性を好んでいるような言い方は事実に反するぞ」
「そうでしょうか?」
「そうなのですか?」
「そうなのでしょうか……」
「それは無理がある気がするぜご主人様」
えぇ、なんで4人ともそんな反応なの。
王位簒奪ムーブを指摘されるのかと思ったら、まさかの女たらし公爵扱いは本当に辛いんだが。そもそもキスだって、『精霊』と『魔導人形』が相手なんだからどっちもノーカンだと思うんだがなあ。
年頃の女の子たちだからそこは判定厳しめなのかもしれないけど、どうか理解してもらって、追放ルートだけは勘弁してほしいものである。




