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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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15 叡智の魔導師エメリウノ

叡智えいちの魔導師エメリウノ』


 ここまでのやりとりでわかる通り、2000年ほど前に存在した女大魔導師である。


 彼女は宿敵である『鬼』に対抗するために『ディスペルオール』という強力な魔法を生み出し、そしてその魔法を使って『鬼』を封印したと言われている。


 しかしその後、彼女自身や『ディスペルオール』を狙う権力者から逃れるためにこの『魔霊の森』に居を構え、そして天寿を全うしたことになっていた。


 ゲームではその『ディスペルオール』を手に入れるために、遺跡に行って彼女の弟の日記を探したりとフラグを立ててこの『魔女の館』に来ることになるわけだ。


 そして『ディスペルオール』を得たところで、エメリウノの回想シーンが入り、彼女がどんな思いで霊となってまで『ディスペルオール』を守ってきたのかが語られるのだ。


 問題はその回想シーンがやたらと気合いが入っていて、自身のキャラもかなり強烈だったことだ。そのせいで、エメリウノは密かに一部の『オレオ』プレイヤーからカルト的人気を誇っていた。


 そこに思い至った時、俺は察したわけだ。これソシャゲ版でイベントが追加されたやつだ、と。


 魔導人形が吸い上げた魔力量はゴーレムの3倍ほどだった。


 魔力を吸収した人形は、それでもしばらくは動きを見せなかったが、急に手足の先をピクッピクッと震えさせ始めた。


『きゃはっ、さすが公爵様、この人形を動かせるだけの魔力を失っても平気なんだぁ』


「この程度はなんの問題もない。それよりエメリウノよ、このままではこの人形は動かぬのではないか?」


『あれ? やっぱわかる?』


「貴女の魂が入って初めてこの人形は命を持つ。おおかたそんなところであろう?」


『へぇ~、さすが公爵様だねぇ。私が相手をした貴族様たちとは比較にならないほど頭がよさそう。まあそういうことなんだけど、実はもう一つ公爵様にお願いがあるんだよねぇ』


「それは?」


『私の魂が人形の中に入ったら、人形の唇に接吻せっぷんして欲しいんだよねぇ。それが起動の鍵になっているからさぁ』


「……なぜそのような仕組みにしたのだ?」


『だってぇ、王子様の接吻でお姫様が目覚めるのって女の子の夢じゃない?』


 あ~なるほど、これでここにいるのがロークスならその通りになったんだろうな。残念ながらここにいるのは腹黒糸目おっさん公爵であって王子様じゃないし、この人形の中身も女の子からは程遠い……いや、回想シーンのエメリウノはギリギリ女の子、はさすがに無理だったか。


『あれ? なにか問題ある?』


「……いや、相手が私で良いのかと思ってな」


『きゃははっ、公爵様なら問題ないよぉ。むしろ私、公爵様くらいのおじさまのほうが好みだしねぇ』


「あっそう」


 まあなんかよくわからないが、ソシャゲのヒロインなら戦力にはなってくれるはずだ。『叡智の魔導師』とまで言われた人物を仲間に引き入れられるならこれ以上のことはない、と自分に言い聞かせることにする。


『じゃあお願いねぇ~』


 魔女の姿を取っていたエメリウノは一瞬だけ回想シーンの若いエメリウノの姿に戻ると、さらに光の球に変化して、魔導人形の胸のあたりにすうっと溶け込むように消えていった。


 俺は溜息をつきつつ、人形の頬に手を添えて唇を合わせる。あ~これフォルシーナたちを連れてこなくて正解だったな。人形にキスする変態父とか絵面がヤバすぎである。というかフォルシーナの言ったとおりになってる気がして微妙に怖い。


「ん……んんっ」


 俺が顔を放すと、魔導人形――エメリウノの口からを声が漏れ、そしてゆっくりと瞼が開いた。瞳の色はやはりゲーム通り濃い紫だ。


 エメリウノはゆっくりと上半身を起こすと、周囲を見回したり、腕を動かしたりして身体の動きを確かめている。


「きゃはっ、さすが私、違和感ほとんどなし! 『叡智の魔導師』エメリウノ、2000年後に大復活って感じかな!」


 エメリウノの見た目は『叡智の魔導師』に相応しく知的な美人という顔立ちなのだが、口から出るセリフがちょっとアレなので、こっちは違和感が酷い。まあこれもゲーム通りなので仕方ないのかもしれないが。


「……とりあえずこれを身につけたまえ」


 俺はマジックバッグからマントを取り出すと、エメリウノに渡した。なにしろ彼女は全裸なのである。ちらっと見えた感じでは、彼女の身体は完全に人間のそれと同じようだ。一体どういう技術なのか……後で聞いたら教えてくれるだろうか。


「あっ、ありがとね公爵様。よ~し、これでまた研究ができるっ。まずは魔導人形の自律制御、遠隔通信の魔道具も完成させなきゃだし、あっ、土壌改良の方法も確立しないと。それと魔力の蓄積法と動力源の改良も必要だっけ。あ~、やること一杯、あのバカたちが邪魔しなけりゃ全部できてたのにぃ」


 マントを身に着けたエメリウノは、部屋の中の道具を確認しながらそんなことを1人で話し始めた。いくつかの単語は領主として、それから前世の知識がある人間として聞き捨てならない感じがしたのだが……もしかしてエメリウノは、ソシャゲ版だと便利博士ポジションのキャラだったのだろうか?


「ああ、エメリウノよ。もし良ければ私のところに来てその研究とやらをしてみないか。もちろんその研究成果が有用なものであれば、領地のために使わせてもらうことが前提だが」


「あっ、いいのっ? さすが公爵様、話が早くて助かるぅ。もちろん公爵様には助けてもらった恩もあるし、協力するのはやぶさかじゃないよぉ」


「貴女は権力者を嫌っていたはずではないのか? そんなに簡単にうけがってよいのか?」


「だって公爵様って私より魔法強いしぃ。それだけ鍛えた人が悪い人なわけないよねぇ」


「えぇ……」


 もともと中ボスだし、まさに悪そのものなんだがなぁ。まあ今は違うからセーフだな、たぶん。


「ならば共に来てもらおう。なおこの後すぐに王家との戦いがあり、それに勝てば私は王となるかもしれぬ。それは承知しておいてもらいたい。もちろんそれに関して貴女の手を煩わせるつもりはないので安心してほしい」


「きゃはっ! なんか復活して早々面白い話になるんだねぇ。まあそういうのもいいかな。あっ、ただ公爵様がもし『ソウルバーストボム』を使う奴と戦う時は呼んでねぇ。あの鬼とのつながりは聞いておかなくちゃ」


「承った。では我が屋敷へと来ていただこう。準備をしてくれたまえ」


 というわけで、『ディスペルオール』を手に入れるためのイベントをクリアするだけのはずが、新たなヒロインキャラ(ソシャゲ版)を仲間に入れる結果になってしまった。


 まああの感じだとエメリウノは領地経営においてのチートになりそうな雰囲気なので、それはそれでラッキーだったのかもしれない。


 問題はこれによってさらに俺が王位簒奪狙ってました的キャラに見られることなんだが……そこはもう諦めるしかないんだろうなあ。

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