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娘に断罪される悪役公爵(37)に転生してました ~悪役ムーブをやめたのになぜか娘が『氷の令嬢』化する件~  作者: 次佐 駆人
第7章 悪役公爵マークスチュアート、王家と対立す

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14 ディスペルオール

『……まさか私が手も足もでないとはね。2000年の差は大きかったということかい?』


『魔力試し』は10分ほどで終わった。


 ゲームではただのイベントバトルで、『魔力試し』という割には主人公ロークスが物理で殴り勝つだけの勝負だったのだが、リアルではきちんとした魔法での押し合いだった。


 とはいえさしもの『叡智の魔導師』も中ボスパワー+『魔の源泉(チート)』の相手にはならず、ほぼ一方的な勝負であったのだが。


「安心されよ。今の時代でも貴女に匹敵する魔導師は極めて少ないだろう」


『公爵様の力を見ると、とてもそうは思えないけどねぇ』


「まあその……私は少し特別でな。私を基準に考えぬほうがよい」


『いけ好かないことを言っている割には嫌味がないのが不思議さね。たしかに公爵様の言う通りということかねぇ。まあいいさ、じゃああの本を開きな。それで「ディスペルオール」は公爵様のものだよ』


「ありがたく頂戴する」


 俺は片膝をつく魔女を置いて、部屋の奥に行き、書見台の前に立った。


 書見台には一冊の古びた書物が乗っている。表紙には『|すべての呪文を打ち消す魔法ディスペルオール』とだけ文字がある。


 俺はためらわず、その書物に手を伸ばし、表紙をめくった。


 途端に脳裏に、新たな魔法の知識がするりと入り込んできた。その知識を脳内で吟味する。間違いなく『ディスペルオール』の魔法である。


「叡智の魔導師エメリウノよ、たしかに貴女が生涯をかけて作り出した真の叡智をいただいた。そして生前の貴女の願いを叶えることをここに誓おう」


『そうかい、それは嬉しいねぇ。あの鬼だけはどうしても許せないからねぇ。公爵様ならきっと、私と違ってあの鬼を滅することもできるだろうさ』


 魔女は満足げに笑うとすっくと立ち上がり、そしてそのまま消えるように天に昇って……。


「……む?」


 消えていくはずなのだが、魔女はその場に立ったまま動かない。


 あれ? ゲームだと魔法を伝授したことに満足して成仏するはずなんだが。


『ところで公爵様にひとつお願いがあるんだよ。聞いちゃくれないかね?』


 腰を真っすぐに伸ばし、再び語り始める魔女。


「なんであろうか」


『実はこの屋敷の地下に、私が作り出した魔導人形があってねぇ。それに公爵様の魔力を注いでもらいたいのさ。作ったはいいが私の魔力で起動できず、悔しい思いをしていたんだよ』


「なるほど? まあそういうことなら一度見てみよう」


 う~ん、こんな追加イベントがあるなんてまったく知らないんだが……まあ行ってみればわかるか。


 というわけで魔女の後について行く。


 地下への入口はこの『魔女の書斎』の一角にあった。魔女が呪文を唱えると床がパカッと開いて階段が現れたのだ。


 下りて行くと、すぐに石壁で囲まれた部屋があった。錬金術師の実験室のような雰囲気で、中央にひつぎのような箱が横たわっていてる。


『その箱の蓋を開いてくれんか。「不朽」の魔法がかかってるから中は腐っちゃいないはずさ』


「心得た」


 蓋に手をかけてゆっくりと開く。


 そしてその中身を見て、俺は()()()


『どうだい。私が生涯をかけて作り出したもの第二弾さね。美しかろ?』


 その棺のような箱に納まっていたのは、美しい女性の人形だった。全裸ではあるが、濃い紫のロングヘアが身体に絡みつき、辛うじて重要なところは隠れている。


 男なら皆が皆見惚れてしまうような造形の人形であるが、俺がもっとも気になったのは、その恐ろしく整った顔であった。その顔は、ゲームの回想シーンに出てきた若かりし頃の『叡智の魔導師エメリウノ』に瓜二つだったのだ。


『そんなにじっと見つめて、公爵様はこれが随分と気に入ったご様子だねぇ』


 そうからかうように言う魔女の顔には、意地の悪い笑みが浮かんでいる。


「いや、よもや2000年も前にこれだけのものを作り出せる技術があるとは思わなくてな。私も魔法や錬金術には多少の自信があるが、これほどのものを作り出せる知恵や技術となるともはや想像もできぬ」


『ふほほ……きゃははっ、そう言ってもらえると嬉しいよぉ。で、これに魔力を注いでもらいたいんだけど、公爵様ならできるよねぇ?』


 口調どころか声の張りまで変わっているのに本人が気づいているのかどうか……どちらにしても断るというのも可哀想な話か。


「いいだろう。どうすればいい?」


『胸のあたりに手を置けば勝手に吸い上げるから大丈夫。胸を揉むくらいは許してあげるよぉ?』


「それはやめておこう」


 あ~そう言えばこんなキャラだったなあ、などと思い出しながら、俺はその美しい女性型の人形の胸に手を置いた。

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