7.街の外を探索探索ぅ!
再びログインして宿で目を覚ます。
昨日あの後、冬華姉から兄の冬李にも連絡をしてやってくれとお願いされていたのを思い出し、メッセージを作成する。
双子のフレンドコードは事前に教えてもらっていたのだけれど、自分のフレンドコードはキャラを作成してからでないと確認できないので、現時点では私からしかメッセージが送れないのをすっかり忘れていた。
『冬李兄連絡遅くなってごめんね、夏樹です。今回は“ジュカ”っていう名前でいくよ。どんなキャラかは会ってからのお楽しみにとっておいて下さい。』
うん、これでよし。
兄は今、立ち上げたクランが2陣プレイヤーを募集することになったらしく、その受け入れ体制を整える準備で忙しいらしい。
クラン立ち上げの際にうっかりサブマスターになってしまったとかで、こっちに顔を出すのは暫く無理そうだと嘆いていた。ちなみにクランマスターはキャロさんやユリさんと同じく、冬李兄の学生時代からの友人である。学生時代はよくこの5人でつるんでいたんだとか。
まあそんな感じなので、その内メッセージに気が付いたら連絡をくれるだろう。
「………まずは買い物でもするか」
くぁっと欠伸をしながら立ち上がり、とりあえず冒険者ギルドへと向かう。
外はまだまだ人で溢れかえっているかと思いきや、意外にも人が少なくなっていて驚いた。しかしよく考えてみればそれもそうかと思い当たる。
昨日は2陣プレイヤーがほぼ一斉にログインしてきたからあれだけ混雑していたのだ。チュートリアルさえ終わってしまえば、みんなそれぞれ行きたい所、やりたいことへと散っていくだろう。
まあそれでも人が多いことに変わりはないけれど。密集していないだけマシかな。
そして冒険者ギルドでポーションを買うついでに依頼も受けておく。
手頃そうな討伐依頼に、魔物素材の納品依頼をいくつか受けてギルドを後にした。
なお街の外へ行くには、街の東側を目指さなければならない。
実はこの始まりの街、なんと小さな島の上に建っているのだ。島の周りは断崖絶壁になっていて、水深もかなり深いそうである。
既に勇気ある変人が崖から飛び降り、無事に死に戻ったというのはゲームならよくあることだと思う。私はやらないけれど。
そんな変人はさておき、東側には本土である大陸と繋がる橋が架かっている。
大理石っぽい石材で出来た白く巨大なアーチ橋は、PVで見たときも圧巻だったけれど、実際に近くで見ても壁石部分だけではなく、柱や欄干部分にも細やかな装飾が施されていてより荘厳で美しい橋だった。
(すごい、路面部分にもしっかり模様が入ってる……っ!この装飾のモチーフって何なんだろう…)
本当はもっとじっくりと眺めていたかったのだけれど、後ろから迫る人の波には逆らえなかった…。後でまた眺めに来よう。それにしても、ゲームの中でも皆左側通行している辺り日本人味を感じる。
そうしてツアーバスが余裕で走れそうな巨大な橋を渡って行けば、着いた先はちょっとした広場のようになっていた。そしてその広場の中央にプレイヤーが集まっている。
(あぁ、あれが……)
そこにあるのは光る玉が乗った石の台座である。あれだ、昔見たプラズマボールに似ている気がする。
これは所謂転送装置で、玉に触れることで登録した別の転送装置へとワープ出来るようになっているそうだ。
使用料もなくタダでワープ出来るので大変便利な代物ではあるんだけれど、使用するためには転送先の装置を登録しておく必要があるため、一度は自分で移動しなければならない。
それに転送装置はどの街にも必ずあるわけではなく、主に主要な都市や大きな街にしか置いていないらしい。なので小さな村や田舎の町なんかは、自分の足で向かう必要があるとのこと。
まあ主要な都市を一瞬で行き来出来るというだけでも、現実と比べたら遥かに便利ではある。
ちなみに既に次の転送装置が置いてある街は発見されているので、ここと行き来している人は多そうだ。なにせ次の街はここよりも大きな街ではあるらしいけれど、物価がお高めらしいので消耗品なんかを買いに戻って来る人たちが大半だそうなので。
それにしても今は装置に近寄れそうにないので、また空いているときにでも触って登録しておこう。
◇
さて、気を取り直して戦闘だ。
目の前に広がるのは広大な草原。遠くの方には森も見える。左手には小高い丘もあるし、右手側には岩が転がっていたり奥の方は林っぽくなっていたりと意外と起伏に富んだ地形である。
そして至る所に散らばるプレイヤーたち。
………はい。
千客万来といったところか、空いている敵を探す方が難しい気がする。
とりあえず人の少なそうな方向を目指して歩く。
しばらく歩き回ると、岩場の影から第一モンスター発見!
すかさず周りを確認して、別の誰かが狙っていたり既に攻撃された後でないかを確認する。
こういった混雑した狩場では、獲物を横取りされただの何だのと面倒事が多々発生するので、それを避けるための確認は大切である。レベルが上がって行ける所が増えれば、狩場も自然と分散してこういったことも減ってくるだろう。
そうして誰の獲物でもなかったことを確認できたので、早速攻撃をしかけてみる。
相手はチュートリアルでもお世話になったホーンラビット。
本来はノンアクティブの敵らしいのだけれど、今回は私がちょうどホーンラビットの進行方向に立ち塞がってしまったため、敵対行動ととられてしまいアクティブ状態になっているらしい。
ギィッと鳴きながら突進してくるウサギを一歩横にずれて避け、そのまま横っ面を杖で殴り飛ばす。
殴られて転がったウサギの頭を踏み砕いて戦闘は終了。
………おっと魔法を忘れていた。
いや、これはいきなり飛び出して来たあのウサギが悪い。
魔法を打つには準備がいるのだ。私は魔法使い、いきなりは良くない。
その後はちゃんと魔法も使いながらウサギを屠っていく。
ウサギの他にはでかい芋虫やスライムなんかもいるけれど、ここはまだ最初のフィールド。一匹ずつ戦う分には全く問題ない。
敵を探して人のいない方いない方へと進んでいると、木の影から新しい敵が出てきた。
[魔物]ワイルドドッグ Lv.5
[備考]街に近い草原や林に多く生息する。
一匹では大した強さはないが、群れになるとその脅威度は上がる。
レベル5か。さっきまでのウサギや芋虫はレベルが2~4だったのを考えると、結構強いのかもしれない。
ちなみに私もレベルは上がって、現在はレベル3である。うっかり忘れていたけれど、スキルの〈魔法学〉もちゃんと習得出来た。〈魔法学〉を習得すると、それだけで基本6属性に因んだ【穴堀り】【火種】【飲水】【乾燥】【洗浄】【沈静】という6つの所謂生活魔法というものを覚えることが出来る。
これらはどれも攻撃魔法ではないからか、その属性魔法を持っていなくても使えるという神仕様となっている。
どれもちょっとした効果ではあるものの、【沈静】なんかは酔っ払いが暴れたときや赤ちゃんの寝かしつけにも使えるという現実でも欲しがられそうな魔法である。ちなみに魔法の効率が良くなったのかどうかは定かではない。しかしそれはまあ今後に期待ということで。
とそれはさておき、確かこいつはギルドの資料に載っていたやつである。
攻撃方法は噛みつきとひっかき攻撃の2つだったはず。でもウサギと違って攻撃が読みづらいらしいので注意が必要、と。
ウ゛ゥーーと低い唸り声を上げながら体勢を低くする犬を警戒しつつ、杖の上部に魔法を浮かべる。
そのまま飛び掛かってきたので、下から掬い上げるようにして杖の先で顎をかち上げる。
そうして晒された急所に準備の出来たアースボールを至近距離で打ち込んでやれば、無事に戦闘は終了である。
「…………………。」
何か思ってたんと違う気がする…。
杖術意外と使えるな、とか魔法使いってこんな感じだったっけ?などと考えつつも、まあなるようになるかと気にしないことにする。現実逃避とか言わないで。
その後も敵を倒しつつ彷徨いていると、気が付けば遠くに見えていた林の方まで来ていたらしい。
敵もウサギや芋虫は見かけなくなり、ワイルドドッグに木の実を投げつけてくるリスなど動きの素早い敵に変わっている。
……ちょっと調子に乗ってしまっていたかもしれない。
格上のワイルドドッグでも割と余裕で勝てていたので、ズンズンと林の奥まで入ってきてしまっていた。
するとどうなるか?
正解は複数のワイルドドッグに囲まれる、である。
「チィッ……!」
正面の敵を攻撃すれば後ろからひっかかれ、攻撃を避けようとすると反対側から噛みつかれる。魔法を打とうとしても、ゲージが溜まる前に攻撃されて強制的にキャンセルされる。
仕方なく杖術と蹴りで対応しようとするも、多勢に無勢。ポーションを飲む隙すら見つからない。
「こンのクソ犬がァっっ!」
気合いで何とか正面の敵は倒したが、直後の後ろからの攻撃で体力は全損。
全身が淡い光に包まれたかと思いきや、そのまま光の粒子となって大気に溶けていく。
ちくせう。
しかし次の私はもっとうまくやってくれるでしょう。
───あふん。




