68.咎人の楽園島
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『咎人の楽園島』かあ…。思っていたよりもヘビーなお話が聞けましたね、はい。
まあでも女神様がものすごくお怒りになったというのは伝わってきました。あと、その後の子孫たちが割と悲惨な目に遭ってきたというのも。
でもそれにしては今の島民たちから悲壮感みたいなものはあまり感じなかったような…?ザリムに至ってはアレだったし。
とはいえ古代都市が砂漠に沈んだのって、古代って付くくらいには昔の話ですよね?時効とかはないのだろうか…。ないんだろうな、雰囲気的に。
というかそれよりも気になったのだけれど、“島から出ることはできない”ってまさか私たちにまで適用されませんよね?ここに来てまさかのデスルーラ案件とか本当に困るんですけど???
ナースィフに確認すると、島から出られないのはこの島で生まれた人間だけとのこと。安心はしたけれど、何か悪いことを聞いてしまった…。しかし今はどうすることも出来ないので、もう一つ聞いておきたいことを確認する。
「『星命力』については大体分かった。だがそれなら、何故ザリムはその『星命力』とやらを使えンだ」
「それは…」
女神から神罰が下るほどには、『星命力』というものは禁忌に等しいものである。いくらかつての王族の末裔だとはいえ、軽々しく扱えるような代物ではないというのは彼らが一番よく知っているだろうに。
「先程もお話したように、女神の神罰により一度この島は滅びました。しかしそれでも生き残った人々は生きることを諦められなかったのです。」
かつて「穴を塞いで自力で発展させる道を探すべきだ」と唱えていた派閥の者たちは、『星命力』についての研究も熱心に行っていた。
例えば『星命力』と似たような力で〈樹魔法〉というものがある。この〈樹魔法〉でも植物を生やすことはできる。しかしこれらは一定の時間が経つ、もしくは供給される魔力がなくなると消えてしまう。つまり〈樹魔法〉によって生えた植物を大地に根付かせることは出来ないのである。
それは何故なのかと言えば、魔力とは外部の力であり、星命力とは内部の力であるからなのだそうです。
つまり内部から力を引き出すか、外部からの力を何とかして内部の力と結び付けなければ永続的な効果は見込めない、ということなのだとか。そしてそれを何とかしたのが族長一族の力という訳である。
「よくそんなことが出来たな」
「そうですね…。しかしあの力には大きな欠点があるのです。」
「欠点、ですか?帝国との戦闘の際は実に見事な木を生やしておられましたが。」
「そのあとブッ倒れてたけどな」
私の言葉にナースィフが顔を歪ませる。
「族長一族のあの力は、彼らが幼い頃に特別な魔術を刻んだ輝石を体内に取り込むことで使えるようになるのです。」
「輝石?」
「魔石と似たようなものですが、輝石は“魔力”ではなく“星命力”を含んだ鉱石のことです。通常であれば『龍穴』と呼ばれる星命力が多く溢れる場所で発見されるものですが、この島でも擬似的とはいえ龍穴のような状態になっていたので、いくつか発見されていたのです。」
その魔術を刻んだ輝石を体内に取り込むことで、〈魔力〉と〈生命力〉と〈星命力〉が結び付くようになり、ザリムは輝石に含まれる星命力や地面から溢れている星命力を使えるようになっていたのだとか。
しかし魔力と生命力が結び付くということは、力を使う対価とはつまり『MP』と『寿命』になるのだとか。なので使用する魔法に対してMPが足りなければ生命力、つまり寿命を削って行使しなければならないということ。
「記録によれば、都市が滅亡した後に残った王族たちは、皆己の寿命を削って民の命を救ったのだそうです。そして私の先祖は代々『星命力』を研究し、またこの輝石の魔術を生み出した者たちでもあります。」
神罰が下ったのは自分たちの所為であると贖罪のために自らの寿命を差し出した王族と、残った多数の命を守るために少数の犠牲を生み出した者たち。うぅ~ん、多分当時はそうするしかなかったということなんだろうけども…。果たしてそれをザリムも含めて今の島民たちはちゃんと知っているのだろうか。確かに島民たちは族長一族に感謝はしていたけれど、ザリムなんかは絶対に知らない気がする。晩餐の席でも普通に躊躇なく使っていたしね。
「このことを知っているのは極一部の者だけです。私は元々先代の従者だったのですが、先代は『真実を全て伝えて態々民たちの不安を煽る必要はない。ザリムの生命を削らせないためにも、この力がなくとも生きていける術を早く確立させなければ』と仰られていました。先代は奥様を亡くし、一人残されたザリム様を大層可愛がっておられましたから…。」
うーん、これ先代は島民たちのことを考えているように見せ掛けて、実はザリムのことしか考えてませんね?下手に島民を刺激すると、今はこの島の頂点にいる族長という存在が、完全にひっくり返ってただ搾取されるだけの存在に成り果てかねないものね。
そしてナースィフたち事実を知る一部の者たちは、族長一族を崇拝していることもあり、彼らを生かすために研究を続けていると。そしてそれは近年実を結びつつあり、更には私たちや帝国という外部から訪れた者たちとの接触を得たことで『交易』というチャンスに歓喜し飛び付いた。
まあ結果は“誘拐未遂”という結果に終わりましたけどね。
長らく外敵からの攻撃に晒されることがなかったことの弊害ですかね。危機感がお亡くなりになっていたようです。
まぁ何はともあれ、これで【導きの羅針盤】から始まった一連のクエストは完了したのかな?さっき完了の通知も来てたしね。
感想としては何だかモヤッとした終わりだったし、まだまだ気になる部分は残っている。それにこの楽園島の人たちの暮らしに何か変化があるわけでもないので、もしかしたらこの先に交流なり交易を繋ぐクエストなんかが続くのかもしれない。でもまあ謎解きだったり古代のロマンに思いを馳せたり出来て、個人的には楽しいクエストだったかな。
◇
そして次の日。
目覚めたザリムの無事を祝って宴が開かれることになりました。
どうやら私たちがザリムを救出したことがあの時集まっていた島民たちにより島全体に知れ渡ったらしく、大切な族長様を助けた英雄たちだと盛り上がっているそうです。それ故の宴開催なのだとか。
宴は夕方からの開催だったけれど、前日以上に料理も飾り付けも華やかさを増していて目がチカチカするほどでした。そして復活したザリムもすっかり調子を取り戻したらしく、さっきからやたらとダル絡みをされております。
「その、なんだ、私のことを身を呈して守ったことは褒めてやらんでもない!だがしかし、その後お前を助けてやったのは私だということを忘れるなよ!分かったか!」
「ハイハイ」
「おいお前!ちゃんと聞いているのかっ!」
「さっきから聞いてンだろーが。キャンキャンうるせェな」
「んなっ!?相変わらず口の悪い男だな…。だがまあいいだろう、お前は私への忠誠心もどうやらかなり高いようだからな!私へ仕えることを許してやってもいいぞ!」
「頭沸いてンのか」
そんな感じで相変わらずクソガキムーブのザリムに辟易としながらも、騒がしく時間は過ぎていった。
やがてその場は解散となり部屋へと戻ってきたけれど、ザリムのお陰でただただ疲れる宴であった。一応あれでも悲劇属性があるので多少は優しくしようかとも思ったけれど、そんな気持ちが一瞬で吹っ飛ぶ程度にはクソガキでしたね。
ハァとため息を吐きつつ、宴で火照った体を少し冷ましたくてバルコニーへ出る。
どうやら宴は宮殿だけではなく町の方でも行われているらしく、バルコニーからは町の喧騒に紛れて、異国情緒溢れる音楽も一緒に聞こえてくる。
柔らかな明かりに照らされた町は人々の笑顔で溢れている。砂漠の真ん中に佇むこの楽園のような町は、誰かの生命を削って続いてきた。
しかしその歴史を知る者は少なく、未だ絶望の隣で暮らしていることを彼らは知らない。どこか歪で、どこか儚い、まるで蜃気楼のような町だなとふと思う。
彼らの未来を変えることに興味はないけれど、まだ地下の研究室の資料を読めていないからね。もう少し彼らの行く末を見守るのも悪くないかもしれない。




