66.救出パート?
上の部屋の状況を聞いても、いまいち乗り気ではない私とハインツ。
いやだって、ねえ?別に助ける義理とかなくないです?こちとらイラッとさせられた記憶しかないのだけれど。
しかしウルド曰く、ここで助けないのは男が廃るそうです。ハァ、なるほどね?
まあ一応一宿一飯の恩義はあるので、ここは一肌脱いでもいいのかもしれない。それにしても、私はまだ“何事も自己責任”が基本の冒険者でもあるからいいとしても、ハインツは騎士の癖にその心持ちでいいのだろうか。騎士道精神はどうした?
などと考えつつ、このまま無策で敵のど真ん中に突っ込んで行くのは流石におバカさんの所業なので、まずは様子見です。
頑張って話を聞き取っていると、どうやら「あの力の秘密はなんなのか」「その力を我が国のために使え」といった内容のことを話しているようである。
その度にザリムが「これは我が一族だけが使える特別な力だ」「なぜ私がお前らのために力を使わなければいけないのか」と言い返している。そしてこのままでは埒が開かないと思ったのか、帝国側はザリムをそのまま連れていくことにしたらしい。
てっきり侍従のおじさんも連れていくのかと思いきや、連れていくのはザリムだけのようです。どうやらおじさんにはこの島の管理をさせるつもりらしく、互いを人質として利用することにしたみたい。何気にザリムはあのおじさんを大切にしていたらしく、おじさんに危害を加えると言われた途端に大人しくなったようでちょっと意外だったかもしれない。
そしておじさんの方はというと、「テメェらザリムに傷一つでもつけたら絶対ぇ許さねえからなあっっっ!!」(意訳)みたいなことを叫びまくっていました。見た目はちょっとふくよかな丸っこいおじさんなのに、結構激しめの性格だったようです。
そのまま暫くすると足音が去り、ようやく静かになったおじさんの荒い息遣いだけが聞こえている。
ハインツと目配せをして、互いに頷いてから絨毯を捲って上の部屋へとスルリと侵入する。
「なっ!?あ、あなた方は……っ!」
「よォ、どうやら大変なことになってるみてェだなァ?」
縛られて転がされているおじさんを上から見下ろしながら言うと、驚きと共に顔色を悪くしながらこちらへと問い掛けてきた。
「い、一体どうやってこの部屋に……」
「オイオイ、大事な族長様が拐われちまったってのに、最初の質問はそれでイイのか?」
「っ……そうですね、そのようなことを気にしている場合ではありませんでした。後生でございます、どうかザリム様を助け出すのに手を貸しては頂けないでしょうか。」
「ほォ、そんな大事なことを今日会ったばかりの俺らに頼むのか?」
「………奴らがこの部屋へ入ってきた時、護衛に就いていた者たちは反撃する間もなくやられてしまいました。情けないことですが、私たちの力では彼らに敵わないでしょう。しかし、海を渡りこの島を探し出せる程の実力の持ち主のあなた方ならば!お願いいたします、どうか、どうかザリム様をお助け頂けないでしょうか!」
縛られたまま、床に額を擦り付けるようにして懇願するおじさん。
私としてはここまでお願いされたら助けるのも吝かではないのだけれど…。でもジュカなら──
「まァ助けてやってもイイぜ?その代わり、あいつが使う力の正体とやらが知りてェなァ?」
「そ、それは昔から族長一族だけが使えるもので正体と言われましても……」
「『星命力』」
「っ!?」
「なんのことか教えてくれるよなァ?」
「……………ザリム様をお助け頂けた暁には、説明すると約束しましょう…」
「あァ、楽しみにしてるぜ」
◇
「ジュカ様、『星命力』とは一体…?」
「さァな、大方あのザリムの力の源なンだろうよ」
「そうですか…。それにしてもあの侍従殿、救出を頼む割には島民側から案内や応援を出そうともしなかったですね。」
「そうだな、体制を整えるでもなくすぐに行ってこいと言わンばかりだったしな。まァこういった時にスピードが重要なのも分からンでもないが…」
「えっ…?ぞ、族長様を助けて欲しいっていうのは嘘だったってこと…?」
「いや別に嘘って訳じゃねェとは思うが…」
なぁんか引っ掛かるような気がするんだよねえ?うぅむ…。
まあ何にせよ早いとこザリムを奪還せねば。おそらく帝国の連中はザリムを手に入れたのであればすぐに帰国すると思うので、下手に宮殿内を探し回るよりは連中の船を押さえる方が早いだろう。
私たちはこの島の西側にある港に船を停めたけれど、どうやら彼らは島の東側に船を停めているらしい。どうりで最初自分たち以外の来訪者に気付かなかったわけである。
夜の砂漠を二頭の騎獣に乗って駈ける。
ウルドは騎獣を持っていなかったので、ハインツの狼に二人乗りしています。ジュカ以外を乗せたがらないパルゥさんは最高に可愛いですね。
暫く走ると目の前に船が見えてきた。
港には船が何隻か泊まっているけれど、帝国の船の見当はすぐについた。一隻だけ金属製というのもあったけれど、周りの船がどれもボートサイズの小さなものしかなかったのである。
とはいえ帝国の船もそこまで大きくはなく、乗ってせいぜい20~30人程度の規模の船だろうとのこと。敵が多いといえば多いのだけれど、これが100人規模の軍勢だったりしたら勝ち目はなかったので、取り敢えず頑張れば何とかなりそうな範囲ではあるので腹を括りますかね。
おそらくだけれど、このクエストの失敗ルートはザリムを帝国へと連れ去られてしまうことだろう。ザリムの力を欲しているのであれば、ザリムを殺すことはまずないはず。となれば、船さえ動かせなくなってしまえばかなりこちらに有利になる、と。
しかしどうやら今も船には何人か見張りがいるらしく、迂闊に近寄ることは出来ない。
うぅん、でもザリムを連れた連中が来るまでには船を壊しておきたいんだよなあ。
「よし、乗り込むぞ」
「はい。」
「ええっ!?」
ウルドが慌てて拒否を申し出てくるも、それを受理することはない。なぜなら船を壊すのはウルドのお仕事だからです。
「な、なんで僕が……」
「あ゛ァ?船に一番詳しいのはテメェだろうが」
「頼りにしていますね。」
「うぅっ、わかったよぉ……」
ウルドの頼もしい返事も聞けたところで暗さ…侵入ミッション開始である。
こういう時に風魔法は非常に使い勝手がいい。何より音がでないことと視認しづらいところが素晴らしいですね。
という訳で魔法の射程圏内にいる敵はサクッと魔法で倒してゆく。そしてドサッと倒れた音に気付いて近寄ってくる別の敵をハインツが仕留めてゆく。背後から叫ばれないように口を抑え喉を掻き切るその姿は、正にプロの犯行。あなた本当に騎士です?アサシンの間違いでは?
そしてそれほど苦労することなく船の制圧は完了しました。たぶん奇襲ボーナスとか急所攻撃のお陰でダメージが多く入ってサクサク倒せていたんだろうなあ。言って私は元々知力の低い獣人族なので、素の魔法攻撃力ってそんなに高くないんですよね。だからこういった隠密+奇襲攻撃でボーナスのでやすい攻撃パターンになりがちなのである。
制圧が完了した後は、ウルドに外からでは分からないように船を壊しておいてもらう。敵が何も知らずにノコノコと乗り込んで来たところを一網打尽ですよ。いっそのこと船を爆破でもしてやれば一発なのだけれど、それだとザリムも一緒に爆破されてしまうのでね、ちゃんと自重しましたよ。
いや爆弾なんて持っていないので冗談ですけどね?でもちょっとロマンはあると思います。
そして待つこと暫し、ようやくザリムを連れた帝国連中が船までやって来た。
どうやら晩餐の席で目の前に座っていた男が隊長だったらしく、男の指示に従って着々と荷物を積み込んでいる。ザリムはというと、後ろ手に縛られた状態で無理矢理歩かされていたけれど、後ろから急かしてくる相手を睨み付ける程度の元気はまだ残っているらしい。
(ここでザリムを盾に「コイツに危害を加えられたくなかったら大人しくしろ!」とかやられたら面倒だなぁ…。)
幸いザリムを連れているのは隊長ではなく一般兵である。
「ハインツ」
「はい。」
「お前ちょっとあそこで暴れて囮になってこい」
「え゛っ!?ちょ、ジュカさん何てことさせるつもりですかっ!」
「はいっ喜んでっ!」
「えぇっハインツさん!?い、行っちゃった…」
「喜んでンだから何も問題ねーダロ」
「えぇ……?」
そしてハインツが暴れて、敵の意識がそちらへ集中したところを狙ってザリムを奪還する。目を白黒させているザリムを連れて下がろうとするも、敵の数が多く中々その場を離れることができない。
仕方なくザリムを小脇に抱えながら飛び回って距離をとりながら魔法を撃ち込む。こういうときは力のある獣人族でよかったと思うよね。知力特化の種族には出来ない所業である。
それでも状況が不利なことには変わりない。お荷物を抱えている分〈杖術〉や〈蹴り〉も使いにくいし……って危な!
遠くから飛んでくる矢に体を捻って躱そうとするも、そうするとザリムに当たってしまうことに気付いて慌てて止める。仕方なくそのまま体で受け止めたまでは良かったのだけれど、あれ?これもしかしなくても麻痺毒が塗られてますねェ!?
痺れて動かない体に、今がチャンスとばかりに振り下ろされる凶刃。
えっちょ、これマジでヤバ………っ!?




