63.宮殿にて
ひとっ風呂浴びてサッパリしたので、やたら広いバルコニーでクッションに埋もれながら夕涼みしております。
いや、それにしても本当にこのバルコニー広いね。多分パルゥを出しても全然余裕なんじゃなかろうか。
するとそこへ、こちらもお風呂に入ってきたのか幾分か爽やか度の増したハインツがやって来た。
「ジュカ様、何か飲み物でも用意しますか?」
「あァ」
ハインツが隣の部屋で飲み物を準備している間に、パルゥをバルコニーへと喚び出す。最近はあまり構ってあげる時間がなかったので、ここぞとばかりにブラッシングをするのだ!それにしても、これだけ身体が大きいとブラッシングをしているというよりは最早洗車をしているような気分になるね。すごく全身運動になります。
そこへ飲み物を準備してきたハインツが戻ってきた。
飲み物を受け取り一口飲んだ後サイドテーブルへ置くと、こちらを見てやたらニコニコしているハインツに気付く。
「なンだ」
「いえ、ジュカ様とパルゥ殿が揃いの装備を身に纏ったその美しさと、この宮殿の雰囲気との調和があまりにも素晴らしく…まるで一枚の絵画を見ているようだと感動しておりました。」
「……そりゃドーモ」
これが女性相手であれば、きっと頬を染めて「あ、ありがとうございます…///」とでもなったところだろうけれど、残念ながら相手はジュカさんである。ジュカ相手では「何言ってンだコイツ」と一蹴されて終わりです。
なのでそれを口に出さずにお礼まで言えたジュカくんはエライ!これでも普段はこれ以上ハインツが開花してしまわないように気を付けているのです。なのに言葉とは裏腹に思わず冷めた目で見てしまうのを止められない。くそぅっ嬉しそうな顔しやがって…っ!
「……ウルドはどうしてる?」
こういうときはスルーするのが一番です。これは決して逃げではありません、自衛は大事。
「あぁウルドさんでしたら部屋の豪華さに恐縮して、部屋の隅で固まっていましたね。」
「そうか」
可哀想に。でもまあ確かに普通なら「部屋はスイートルームを用意しておいたから、好きに寛いでてよ」と言われても素直に寛げはしないでしょう。そしてそんなウルドさんを見ても助ける気のないハインツよ。まあ同じく何もする気のないジュカも同罪か。
そんな感じでまったり過ごしていると、扉の外から声を掛けられた。
「晩餐の支度が整いました。大広間までご案内致します。」
そう、なんと夕食は晩餐に招待されております。
正直あの族長様と一緒に食事するのは気が引けるのだけれど、美味しく珍しい料理を食べてみたいという気持ちが半分、もしかしたらこれも何かのクエストかもしれないという気持ちが半分です。
案内された大広間に着くと、そこには繊細な模様のテーブルクロスの上に美しい装飾の施された食器や花で豪華に飾られたローテーブルの長机に、色とりどりのクッションが置かれた床座スタイルの晩餐会場が用意されていた。
そのまま案内された席へと着くと、意外なことに目の前には服装からしてこの島の住民ではなさそうな男が座っていた。そこですかさず隣に座ったハインツが小声で教えてくれる。
「おそらく彼はギムレブ帝国の者かと。あの襟や袖に施されてている装飾はかの国特有の意匠です。」
「ギムレブ帝国?」
「はい。オーレリア大陸の南西部に位置する軍事国家ですね。昔から我が国と小競り合いが絶えない国でもあります。」
「ほォ…」
まさか自分たち以外にも外からきた人間がいるとは思っていなかったのだけれど、そういえば族長様も「先頃訪れた者たちは~」とか言っていましたね。てっきりもう帰っていたのかと思いきや、まさかまだこの宮殿に滞在していたとは。
一体彼らはどうやってこの島のことを知ったのだろうか。いやまあ、実際はこうして私にも見つけられたのだし、他の人も見つけていたとしてもそんなに不思議ではない…かな?
気になるのは、この目の前にいる男は族長様に何らかの品を献上しているということ。たまたま持っていたという可能性もなくはないけれど、それよりもここに人が居ることを知っていて、態々用意していたと考える方が自然だと思う。
う~~ん、キナ臭いですね!軍事国家だという辺りがますます臭いますねぇっ!
これは思った以上に楽しい晩餐会になりそうです。
◇
晩餐は美味しい料理だけではなく、ド派手な踊り子のお姉さん方の見事なダンスの披露なんかもあってとてもきらびやかに進んでおります。
上座の席では若き族長のザリム様がふんぞり返ってお国自慢というか、この町自慢をなさっておいでです。それを目の前の男がヨイショしまくるので、ザリム様はふんぞり返りすぎてその内そのまま後ろへ倒れそうですね。ちなみに男は私たちに一瞥をくれた後はほぼ無視です。私がただの冒険者だと告げると興味を無くしたようで、ハインツとウルドに至っては名前を名乗っただけである。どうやら関り合いになる気はないらしい。
すると自慢話に一区切りついたのか、ザリムがこちらに目線を向けてきた。
「それにしても初めはみすぼらしい奴らだと思ったが、そうしてまともな格好をしていればそれなりに見れる姿ではないか。もしそなたが女人であれば私の側に置いてやることを考えてやってもよかったのにな。まぁ男に生まれたことを悔やむのだな」
……このマセガキがよぉ!
「生憎俺は子守が得意じゃなくてなァ?残念だ」
「んなっ!?」
鼻で嗤いながら嘲るように言ってやると、キョトンとした後すぐに意味を理解したのか顔を真っ赤にしながら口をパクパクさせている。すかさず目の前の男がフォローに回っているけれど、ザリムは未だにプンスコしている。何て言うか言葉使いはかろうじて上に立つ者感を演出してはいるんだけれど、基本お子ちゃまなんだよなあ。いっそのこと無表情で黙っていた方が、余程威厳というか神秘性は醸し出されると思います。
「お前っ!さては私がどれだけ凄いのか全然わかっていないな!?我が一族の力は誰もが崇め奉るべき素晴らしいものなんだぞっ!」
「ザリム様っ!」
ガバッと立ち上がったザリムにあのおじさん侍従が慌てて駆け寄ってくるけれど、どうやら一度火のついた若き族長様は止まれないらしい。
一体何をする気なのかと黙って見ていると、ザリムは徐に手を伸ばし、近くにあった植木鉢に手を翳すと何やら呪文を唱え始めた。
その言葉を聞き取ることは出来なかったけれど、ザリムの手から溢れた光は植木鉢に降りかかるとすぐに劇的な変化が現れた。
植木鉢にはストレリチアのようなでっかい葉っぱと鳥の頭のような形の花が咲いた観葉植物が生えていたのだけれど、まだ蕾も含まれていた花が一気に咲き誇り、更には何も生えていない土の部分からも新たな植物がニョキニョキと生えてきている。
てっきり植物の成長を促す魔法でも使っているのかと思いきや、花は咲いては枯れるのを繰り返しながらもたまに違う花が咲いていたりしているし、土からは全く別の種類の植物も生えてきている。ただ植物を成長させているのとはまた少し違っているらしい。
侍従のおじさんは顔を硬くし、ギムレブ帝国の男はというと、驚くというよりも口を吊り上げ目を爛々というかギラギラさせながら植物の様子を観察している。
なるほどなるほど。これが砂漠にゼロの状態からこの緑溢れる楽園を作った魔法ですかあ。これが族長一族にしか使えない魔法だって言うのなら、そりゃあ住民たちからは崇め奉られますわあ。使い方によっては軍事行動にも国造りにも使える権力者垂涎の魔法ですよねえ。あと既にどこかの軍事国家さんに目を付けられちゃってるじゃないですかー!ご愁傷様ですー!
「フフンっどうだ!我が一族の力は素晴らしいだろう!それが分かったらお前も私に頭を垂れるんだなっ!」
などとバカタレザリム様が渾身のドヤ顔をされております。
多分この状況を一切理解出来てないんだろうなあ…。
その後はチヤホヤしてもらいたかったザリム様は即座に回収され、その場は異様な興奮と緊張に包まれたけれど、食事も終わっていたためすぐに解散となった。
ギムレブ帝国の連中は互いに目配せはしつつも特に会話などはしていなかったようだけれど、あの様子ではまぁ…何かしら仕出かすんだろうなあ。
私たちもそれぞれ与えられた部屋へと案内され、各自休むことにした。
部屋へ戻りさてこの先はどうするか…と考えていると、部屋の片隅からカタリと音が鳴った──。




