62.■■の楽園島
明日は更新お休みします。
「どういうことだ……?」
「これは一体…」
私たちが見下ろした先にあったものは──
砂漠の中心にありながらも豊かな水と緑に溢れ、空気さえもが太陽に照らされて煌めく、まるで楽園を思わせるような巨大な宮殿を囲む町の姿だった。
(えっどういうこと???楽園、というか古代都市は神様によって砂漠に沈められたんじゃなかったの?)
目の前の光景は正に今が最盛期ですよ!と言わんばかりに栄えているように見える。町の規模自体は小さいけれど、それでも町の中にいればそこが砂漠のまん中であることなど忘れてしまいそうである。
「古代都市は消えたンじゃなかったのか…?」
「それに、都市というには規模がいささか小さいように感じますね…」
「ンン?」
確かに、都市というほど人や建物が多い感じはしない。範囲だけで言えば村程度の広さしかないようにも見える。けれど町の中心にある噴水にたわわに実った果実、色彩豊かな服を身に纏った住民たちの様子なんかを見ていると、ここが楽園だと言われても頷いてしまいそうになる位には豊かな町に見える。
だとしたら、あの本に載っていた『砂漠に沈んだ古代都市』というのは一体何だったのか。あれを嘘だと言うには、あの話から得られた情報でこの島にたどり着けてしまっていることの辻褄が合わない。
ということはつまり────再建した?いやでも神によって滅ぼされた町を復興させるというのは、何とも無謀というか縁起が悪そうというか…。まぁゼロからこの町を造り上げたのであれば、それはすごいことだとは思うんだけれどもね。
だがしかし、折角町を見つけたのであれば寄らない手はないでしょう。
とりあえずウルドを迎えに行って、3人で町へと向かってみよう。
近付いてみると、町は高さ2メートル程の壁で囲まれていた。魔物なんかいないのに壁なんて必要あるの?と思ったのだけれど、どちらかと言えば砂避けの意味合いの方が強そうです。確かに洗濯物とか大変そうである。
町へ一歩足を踏み入れると、外からの人間は珍しいのかあちこちからジロジロと視線が飛んでくる。それに煩わしさは感じるものの、無視して近くの住民に話し掛けてみた。
「この町は何て名前なンだ?」
「おや珍しい。あんたらも外から来たのかい?ここは〈ラウーバ〉の町さ。いい所だろう?」
「へェ。ところでここは元々オアシスだったりすンのか?」
「ふふふ、そう思うだろう?だが実は違うのさ。この町を発展させたのは族長一族のお力さ。あたしたちがこんな風に豊かに暮らせているのは全部彼らのお陰だからね、みんな感謝してるんだよ」
「ほォ…」
それならその“族長一族”とやらがこの町を復興させたのか。
隣で眩しそうに宮殿を仰ぎ見るおば様につられて、私も宮殿を見上げる。
きっとあの宮殿にその族長一族とやらが住んでいるのだろう。
ここが元々オアシスではなかったということは、砂漠の状態からこの見事な町を造り上げたということ。でも一体どうやって?
砂漠に町を造り上げた方法はサッパリ分からないけれど、今も陽の光を受けて輝くその巨大な宮殿の姿は、間違いなくこの町の象徴なのであろう。
◇
所変わり謁見の間。
そう、今私たちは何故かあの宮殿の謁見の間に来ております。建物の中はアラビアンな雰囲気で、特徴的な窓や柱が立ち並ぶとてもエキゾチックな空間です。
あのおば様が別れ際にぜひ宮殿にも立ち寄ってみるといいよ!と言っていたので…。だって外から来る旅人は珍しいから、きっと族長様も歓迎してくださるよって言うんだもの。そりゃ歓迎されに出向きますよねっていう。
通された部屋で言われた通りに片膝をつき目を伏せた状態で待機していると、奥からきらびやかな衣装を纏った人物が現れた。
「面を上げよ」
思っていたよりも若い声に顔を上げると、そこに居たのは褐色の肌に輝くような金色の髪と神秘的な紫の瞳をした、青年というにはまだ早いどこか幼さの残る風貌をした少年だった。
「そなたらか、外から来た客人というのは」
ドカリと一段高くなった上座の絨毯の上に腰を下ろすと、胡座をかいた膝の上で頬杖をついてつまらなさそうに言った。
「なんだ随分とみすぼらしい奴らだな。それに私への献上の品すらもないとはな。先頃訪れた者たちとは大違いだ」
………なんだこのガキ。
確かに私たちは砂漠から直でここまで来たのでフードやマントは身に付けたままの状態だし、一応【洗浄】は掛けたけれどまだ多少の砂がついていたのかもしれない。
にしたって失礼すぎやしませんかね???しかも献上の品って何なのさ。寧ろ人が住んでいることにまず驚きましたが。
そしてどうやらこの偉そうな少年がまさかの族長様らしい。
後ろで侍従っぽいおじさんがワタワタしているけれど、族長様にそれを気にする様子はない。それどころか貢ぎ物がないとわかった時点でこちらへの興味は無くなったようで、まるで犬猫を追い払うかのようにシッシッと手を振ってきた。
「そなたらのような者たちに付き合うほど私は暇ではないのだ。さっさと帰るがいい」
「ザリム様っ!」
族長様があんまりな態度だったためか、ついに後ろにいた侍従らしきおじさんが苦言を呈してきた。
「お客人に対してなんという態度ですか!そのような心根では亡き先代様もお嘆きになられますぞ!」
「ハァ!?親父は別に関係ないだろう!それにこの土地は我が一族の力によって栄えているんだ、皆が私に頭を垂れるのは当然だろう!」
「ですからっ───!─────っ!」
一体私たちは何を見せられているのか。
今もギャンギャン喚いている二人の会話から察するに、この若き族長様は先代が突然急逝してしまったために急遽新たな族長となったらしく、まだまだ未熟者だということである。そして甘やかされて育ってきたのだろう、短慮で我が儘、更には傲慢という何ともし難い性格をしているらしい。良い所と言ったら、その神秘的な雰囲気とお綺麗な顔くらいだろう。
既に帰りたい気持ちで一杯になっていると、ササッと寄ってきた別の侍従さんによって別室へと案内されました。飲み物にコーヒーを出されてしまえば、座って飲まざるを得ない。うん、フルーティーな味わいで非常に美味であります。
そのまま暫く待たされていると、先程若き族長様と思いっきり言い争っていた侍従さんがやって来た。
「いやはや、先程はお見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありませんでした。」
「本当にな」
「何と申し上げればよいのやら、族長であるザリム様は代替わりをされてそれほど時も経っておらず、精神的にもまだ未熟なところがございまして…」
あの様子では確かにそうなのだろうけれど、だから許してやって欲しいということだろうか。正直小生意気なお子様になど微塵も興味はないのでどうでも良いのだけれど。でもこれがもし私が取引相手だったりなんかしたら、縁を切るか自分に有利な契約を結ばせて全てを毟り取ってやるくらいには嫌いなタイプである。精々これからの教育を頑張って欲しい。
「ンなこたどーでもいい。で?わざわざ俺たちを引き留めたのは何のためだ?」
「そうですか…いえ、お気付きかとは思いますがこの島は外部からは非常に見つけにくくなっております。なので外からの客人というのはとても珍しく、我々としては折角ですし色々とお話を伺いたいのですよ。」
「へェ?」
なんとその為に部屋まで用意してくれるそうです。
案内された部屋はこれまた豪奢な作りになっていて、きっとお高いんだろうなぁという絨毯やら天蓋付きのベッドまで置いてある。極めつけはたっぷりと湯の張られた立派な湯船ですよ。別室には大浴場も完備しているそうです。えっと、ここ砂漠のど真ん中ですよね?
それにしても色々なお話ねえ。確かにこの島のことは大陸でもほとんど知られていなかったし、外部からの客人が珍しいというのは本当だと思う。
でも態々宮殿に部屋を用意してまで持て成すほどのことですかねえ?うぅん、やっぱりここには何かあるんだろうなぁ!
後で家捜しでもしてやろうと心に決めつつ、まずはひとっ風呂浴びて参りますっ!ひゃっほい!
□■お知らせ■□
本日4/29より『今日の一冊』のコーナーで本作品を紹介していただきました!
ありがたや~(◜◡◝人)




