61.ウルド
ウルドの衝撃の告白を何とか冷静になった頭でもう一度整理する。
うんうん成る程、つまりはこういうことだ。
昔は仲が良かったけれど最近では話すこともなくなっていた幼馴染みに、ある日突然「船を買ったから結婚して二人で旅をしよう」とプロポーズした。ここでポイントとなってくるのは、『結婚』はあくまで前提として当然するものであり『二人で旅をする』という結婚の先のことを既に見据えている、というところですね。
いやいやいや、大分怖いね???しかも付き合ってすらいなかったのに、結婚するのは決定事項みたいに思っている点が更に恐怖を助長してくるね!
これ幼馴染みの女の子が言った「他に好きな人がいる」って断るための方便だったのでは。
やはりどう考えても話の内容が大分おかしいので、ガルドさんと一緒にドン引きしています。どうやらウルドさんは依頼を受けてくれる気らしいけれど、正直今はとてもお断りしたいです。
「オイ、大丈夫かお前の息子」
「いや、まあ、なんだ……大分先走っちまった感はあるが、ドワーフなんて皆こんなもんだからなぁ…」
「イカれてンな」
再びのドン引きです。
しかしどうやらこれは本当らしく、ドワーフ族の頑固で偏屈なイメージはなんと恋愛面においても発揮されてしまうそうです。さすがに交際期間ゼロでいきなりプロポーズというのは珍しいそうだけれど、しかし二人のために船まで用意するのは寧ろ誠実とも捉えられるそうです。なんでさ。
それにしても、よくもまあそんな傷心中のウルドさんが依頼を受けてくれたものである。ハインツが慰めるなり諭すなりしてあげたのだろうか。
チラリと彼に目線を向けると、心得たように話し始めた。
「以前騎士団にも似たような状況に陥った騎士がいたのですよ。彼も地元に幼馴染みがおり結婚の約束までしていたそうですが、そう思っていたのは彼の方だけだったそうです。出世もしてそろそろ結婚しようと地元へ帰った所、プロポーズするまでもなく彼女は別の男性と結婚していたそうですよ。」
「連絡はとってたのか?」
「いえ。地元を出るときに『見ててくれ』と言ったきりだったそうです。」
「バカすぎンだろ」
「全くです。」
その後その騎士は案の定傷心で使えなくなってしまったそうだけれど、当然の結果すぎて何も言えない。何も連絡せず、しかも「見ててくれ」ってなんなんだ、せめて「待っててくれ」ぐらい言わなければ女の子の方だって待つことなんてしてくれないでしょうに。しかも結婚の約束なんていつしたんだ?という話である。10才以下の話なら無効になってても仕方ないと思うのは私だけなんだろうか。
まあそれは置いておいて、その使えなくなってしまった騎士をハインツはどうしたのかというと、「それは彼女があなたの活躍を知らないからですよ。あなたが今よりもっと活躍すれば、きっと彼女は再び振り返ってくれますよ。」と告げたそうです。
「ふぅン。で、本音は?」
「そう言うと、手綱の握り方さえ間違えなければ彼らはよく働いてくれるようになりますから。」
弱味に付け込んでガンガン働かせるとか悪魔かな???
まあ正気に戻ったとしても、よく働いた分出世なり報奨を貰っていたりなんかしているので、今の所その件で恨まれたりはしていないらしい。つまり今回のウルドさんにも同じような発破を掛けて来たのだそうです。この人本当に他人に容赦ないな…。
自分がその他人の枠から外れていることに、喜べばいいのか悲しめばいいのか分からない今日この頃です。
何はともあれそうして船と船乗りを手に入れた私たちは、【導きの羅針盤】の示す先へと向けて出発することになった──。
ふ、不安しかない……!
◇
航海は思った以上に順調に進んでいた。
その理由は間違いなくウルドさんの操舵技術によるものだと思う。
ウルドさんは波の様子や空の鳥の動きなんかから判断して魔物の少ないルートを航行してくれているし、一体どうやっているのかは謎なのだけれど船の揺れもとても小さい気がする。
船自体はそこまで大きくはないけれど、2パーティーくらいなら余裕で乗れそうな大きさはある。それならば、この操舵技術を活かしてプレイヤーを運ぶ仕事なんかをしたら、めちゃめちゃ儲かりそうである。この旅が終われば勧めてみてあげようかな。
そうして波に揺られること暫し。
イグニス大陸寄りではあるけれどオーレリア大陸との間まで来てようやく、かつて古代都市があったとされる島にまで近付いてきたようだ。
なぜ“ようだ”なのかと言うと、実は島が全然見えないんですよね。
確かに【導きの羅針盤】の針はこの先を示しているはずなのに、そこにあるはずの島の姿が全く見えない。
まあ元々この島は蜃気楼に囲まれていたとされているのだし、この何も見えないことこそが蜃気楼の影響なんだろうね。こりゃ誰も気付かない訳ですよ。
ならサッサと蜃気楼に突っ込んで島に行けばいいじゃないかと思われるかもしれないけれど、そう簡単な話でもないのである。
ただ闇雲に突っ込んでしまうと座礁の危険性があるのだ。そしてもし座礁してしまって船がダメになると、救助が来る可能性はほぼゼロだし帰れなくなってしまう。遥か昔に滅んだという都市に転送装置を期待するのはかなり難しいと思うんだよね。
これがもし私だけならデスルーラという方法があるのだけれど、これを住民である二人にまでやってもらう訳にはいかない。そのまま闇の女神の元へと行ってしまうだけである。
「ウルド、行けるか」
「………うん、島は見えなくても波の動きは見える。幸い今の波は穏やかだし、行くなら今…だと思う」
「ならお前に任せる」
「ま、任せて!」
ウルドさんって幼馴染みが絡まなかったら、普通にちゃんと優秀なんだよなあ…。
波の動きと船のことなら完璧なのに、なぜ彼女相手には暴走してしまうのか。黙って観察する癖が付きすぎてしまって、言葉を交わすタイプのコミュニケーションが苦手になってしまったのだろうか。
そんなウルドさんが船を慎重に進めて行く。
幸い大きな岩礁などはなく、心配していた座礁をすることもなさそうです。
そして蜃気楼と思われる場所を通り抜けたとき、一気に景色が変わった。
「へェ」
「これは…」
「ほ、本当にあったんだ……!」
三者三様の感想を溢し、その島はついに姿を表した。
少し離れた場所からでも目に飛び込んでくるのは、どこまでも続いていそうな雄大な砂漠。船から見える範囲に生命を感じられるものは何もなく、動物の姿はおろか草の一本も生えてはいない。
生命を感じられないその島は、日差しの降り注ぐこんなに青く染み渡った空だというのに、どこかうすら寒さを感じさせる異様な雰囲気を醸し出していた。
《初めてプレイヤーが〈■■の楽園島〉を訪れました。報酬としてスキルポイントが贈られます──》
アナウンスと共に伝えられた奇妙な名前に、思わず眉を寄せる。
え、何?この塗り潰しの部分って何!?どこか不穏な気配を漂わせる名前にソワソワ感とわくわく感が止まりません。
「ジュカ様どうかされましたか?」
「いや、随分と変わった名前の島なンだと思っただけだ」
「島の名前、ですか?」
「あれ、ジュカさん島の名前知ってたのか?」
ん?もしかして住民ってワールドアナウンス聞こえてない?あー…でも確かに住民にとっては、既に住んでる大陸が初めて発見されました!とか、何度も倒されてる魔物が初討伐されました!とか聞かされても「はあ?」って感じになるのか。
にしても〈■■の楽園島〉かあ。伏せられてるってことは、やっぱり神様が関係してたりするのかなあ。禁忌的なアレソレとか?それとも口にするのも悍ましい事件があったりだとか?う~~ん、この島の人たちは一体何をしたんだろうねえ。
ゆっくりと島の周りを巡りながら上陸出来そうな場所を探す。
暫く船を走らせていると、ボロボロの状態ではあるけれどかつての港の跡らしきものを発見した。ウルドにそこへ船を停めてもらい、島へと上陸する。
サクッと音を立てて砂を踏みしめると、乾燥した空気と共に砂を巻き上げてしまう。このままでは砂まみれになってしまいそうなので、懐かしの初期装備である【巡り人のフード】を装備して被っておく。フードのカラーを黒に設定したお陰で今の装備にも違和感なく合わせられます。かつての私グッジョブ!
とりあえずは周辺の様子を確認することになったので、ウルドは船に残ってもらい私とハインツの二人で探索を開始する。
二人とも騎獣に乗って軽く走ってみると、やはり海から見た通り動物や植物だけではなく、魔物すらも存在していなかった。
「思った以上に何もねェな」
「ジュカ様、あそこが小高い丘になっているようです。あちらから島全体を確認してみましょう」
「あァ」
騎獣に乗って砂を巻き上げながら丘を駆け上がる。
そして頂上までたどり着くと、一息吐いて眼下を見下ろす。
「どういうことだ……?」
「これは一体…」
私たちが見下ろした先にあったものは───




