60.夢見る者の夢
ただ一点を指し続ける針を見つめる。
おお、まさか本当にギミックの解除に成功してしまうとは…。
しかし改めて考えてみると、ギミックが解除されたということは、『夢見る者の夢』に出てくる幻の楽園は、本当にかつて神の怒りによって沈められてしまった古代都市であるということである。
ふ~~ん、ロマンじゃん?
めちゃめちゃ行きたい。寧ろ行かない選択肢なんてなくないですか?えっ指名依頼?あぁ、あれは別に期限とか決まってないので。帰って来てから続きをやるのでも問題ないでしょう。
「ほお、まさか本当にギミックを解除できるとはな。お前さん結構やるじゃねーか!」
「そりゃドーモ」
「さすがジュカ様です」
正直運が良かっただけのような気もするけれど、無事に解除出来て何よりです。まあ運も実力のうちってね!
それよりも何となく流れで修理をお願いしてしまったけれど、本来ならきちんと依頼を出してから修理を行ってもらうのがセオリーである。そこはプレイヤーNPC関係なく、詐欺の防止にもなるので推奨されているんだよね。
「オイ、修理費はいくらだ?」
「あん?」
「ったくテメェがいきなり修理始めちまったから、まだ依頼出せてねェじゃねぇか」
「おお、すっかり忘れてたな。悪かった悪かった!」
ガハハと笑って流されてしまったけれど、割と大事なことなんですが???
「つってもグンターからの紹介だからな。面白いもんも見せてもらったし、今回はこの値段でいいぜ?」
そう言って提示された金額は、思っていた金額の半分程度しかなかった。
いや、安すぎません???
「………テメェがいいなら構わねェが、その内この店潰れるぞ」
「バッッカこれは特別料金に決まってんだろーが!普段からこの値段でやってたらとっくに潰れてるわ!」
だったら何故この値段なのか。いくら弟からの紹介とはいえ、さすがにこれは怪しい。この親父何を企んでやがる…と胡乱な目を向けると、途端に目をウロウロと泳がせながらガルドさんが口を開いた。
「まぁほら……あれだ。どうせお前らはその、【導きの羅針盤】が示す先には行くんだろ?」
「そりゃまァ行くが…」
あれ?そういえばその場合ハインツはどうするんだろうか。一応護衛は「イグニス大陸にいる間」となっているし、一緒には来ないかもなあ。
「その……なんだ、お前ら船のあてはあんのか?」
「さっきからおっさんが何モジモジしてんだ。気持ち悪ぃ」
「んなっ!?誰がモジモジしてるってんだ!いや、だから、そうじゃなくてよぉ……」
なんだなんだ。髭もじゃのおっさんがモジモジする姿の需要は低いと思いますよ。
まあ仕方ないので話を聞いてみると、どうやらガルドさんの息子さんを船乗りとして雇ってあげて欲しいらしい。
さらに詳しく話を聞いてみれば、なんでも最近その息子さんが飲んだくれてばかりで困っているという。そこで私たちの旅に同行させ“お伽噺に出てくる幻の島を発見する”という偉業が達成出来れば、立ち直らせることが出来るのではないか、とのこと。
いやこの“幻の島を発見する”というのはそこまで言うほどの偉業なんだろうか?嘗ての楽園にせよ古代都市にせよ、どの道砂漠に沈んでいるのだから見つけたところで宝はないどころか砂しかないと思うのだけれど。え、私?私はそこにロマンがあるのならば、それだけで十分行く価値がありますが?
ちなみに息子さんは元々船乗りとしてヴァイキングの船に乗っていたそうで、その操舵技術はかなり高いと評判だったそうです。果たして彼に一体何があったのだろうね。
「あいつは昔からヴァイキングに伝わる海の話が大好きだったんだ。だからそれが高じて船乗りにまでなった。だからもう一度海にさえ出れば立ち直るんじゃねぇかと…」
だそうです。
父親が言うのであればそうなのかもしれないけれど、だからと言っていきなり「船出してくんない?」と言われても、飲んだくれの息子が素直に船を出してくれるとはとても思えないんですけど…?
「素直に話を受けるとは思えねェが?」
「そっそこはほら…あれだ、あの“夢見る者の夢”の話をしてやりゃあ一発だ!あいつはあの話が大好きだったからな!」
「ならテメェが説得してこいよ」
「いやぁ俺から話すとどーにも喧嘩になっちまってなあ!ガハハ!───すまん」
「ハァ」
この親子にも色々とあるようです。話を聞くに息子さんは自分の船を持ってる上に腕の良い船乗りだそうだし、依頼料もガルドさんが持つと言っているのでこちらの懐は一切痛まない。
だがしかし、この説得するというフェーズがジュカに全く合っていないのである。
口が悪い上に言葉足らずなジュカさんにとっては、かなり難易度の高いクエストなのだ。
どうしようかと悩んでいると、ハインツが「私が行ってきましょうか?」と声を掛けてきた。
「…まァそれなら行ってこいと言いてェ所だが、そういえばお前この旅にも着いて来ンのか?」
「といいますと?」
キョトンとした顔で此方を見返すハインツに質問を続ける。
「いや、お前の任務は『イグニス大陸にいる間の俺の護衛』だろ。島は大陸じゃねェから別に着いて来る必要はねェだろ」
どちらかと言うと帰って欲しい気持ちがあります。どうですかね?
「そんな!私はジュカ様の行く所であれば、どこであろうと着いて行く所存ですっ!置いて行かないで下さいご主人s「さっさと説得に行ってこい」──はいっ!」
そうしてハインツは店を後にした。
「…なんつーか随分と変わった騎士様だな?」
「チッ」
ただのドMですよ。
◇
「ぼ、僕はガルドの息子のウルドだ…です。どうも…」
暫くしてハインツが連れて来たのは、髭は生えているけれどドワーフ族にしてはシュッとした体型の随分と顔色の悪い男性だった。
最初は二日酔いなのかと思ったのだけれど、目を泳がせながらもたまにチラチラとハインツの様子を窺っている様子を見るに、多分違うのだろうなあ。ハインツよ何て言って彼をここまで連れて来たんです???
「真摯にお願いしましたところ、ウルドさんも快く引き受けて下さいましたよ。」
「そうか」
でもまあ引き受けてくれたのであれば無問題ですね。
「いやいやいや、ちょっと待ってくれ。ウルドお前大丈夫か?すげー顔色だぞ」
「お、親父…。いや大丈夫だよ、僕はこの人たちのために船を出すって決めたんだ」
「そ、そうか…?いやお前を紹介したのは俺だし、お前がいいなら問題はないんだが…」
ガルドさんの目がチラリとハインツを見る。その目は間違いなく「お前俺の息子に一体何しやがった」と問い掛けている。
そんな刺すような視線を受けてもハインツが怯むことは一切無く、にこやかな笑顔のままウルドさんに依頼をしに行ったときの様子を語りだした。
ハインツがウルドさんの家に着いたとき、案の定彼は酒浸りになっていた。そして依頼の話をするも最初は断られてしまったそうだ。しかしそこで理由を尋ねた所、ウルドさんは酒に溶かされた頭で支離滅裂になりながらも何とか説明してくれたらしい。
何でも彼には大切にしている幼馴染みがいた。彼女も自分と同じように海が好きで、彼が船乗りとして船に乗ったときは彼女がいる船を探しだして、わざわざ同じ船を選んだらしい。幼い頃には「ずっと一緒にいよう」と約束したこともあったらしく、彼は生涯彼女が隣にいると思っていたし、彼女もまた自分と同じ気持ちなのだとずっと思っていた。
そして資金も貯まったので彼は念願の自分の船を買い、彼女と共に今度は二人で海を旅しようと彼女にプロポーズをした。しかし返事はまさかのNO。何故かと彼女に問えば「他に想いを寄せる相手がいる」とのこと。彼は失意のまま船を降りた。仕方なく自分の船で海に出るも上手くいかない。彼が優れているのは操舵の技術であり、漁や狩りの腕はからきしだったのだ。そして何もかも嫌になった彼は酒へと走った、とのこと。
「「…………。」」
えー…と、とりあえず気になる点はいくつかあるよね。
「お前、その幼馴染みの女と付き合ってたのか?」
「…いえ」
「幼馴染みっていやあアンのことだよな?えーと、なんつーかお前の気持ちを伝えたことはあるんだよな?」
「言わなくてもわかってくれてると思ってた…」
「ちなみに船では仕事内容が違ったため、会話をすることはほとんど無かったそうですよ。」
「「…………。」」
えっと………、幼馴染みに見せ掛けた新手のストーカーかな???




