58.ドワーフ一家
──あ、これってクエストだったんだ。
相変わらず通知のタイミングが遅いというか、クエストなのかどうかわかりにくい仕様である。まぁでもそのお陰で話の流れが自然だし、没入感もあって私は好きなのだけれどね。
報酬は特に無さそうだけれど、もしかしたら好感度アップ系のクエストだったのかもしれない。RFOの世界では住人たちとの関係性で得られる情報なんかに大分差がでるため、ゴールドやアイテムの報酬がなかったとしても、こういった好感度アップ系のクエストは結構人気が高いらしい。
クエストの通知に驚きはしたものの食事はそのまま楽しく進み、その後は夜も遅くなったからと宿泊を勧められたのでお言葉に甘えることにしました。
そして次の日の朝──。
「なんでぇもう行っちまうのか?もっとゆっくりしていきゃあいいのによぅ」
「そうよう、うちは全然構わないのよ?」
「そうですよ!もっとゆっくりしていけばいいのに」
何がそんなに気に入られたのか、やたらと引き留められています。
確かに昨晩は色々な話をして盛り上がったけれど、そこまで気に入られるようなことはしていないと思う。これが好感度アップの力か…と感じると同時に、流石にここまで顕著だとちょっと怖いものがあるよね。
実はこの別れ際のやり取りだけではなくて、昨晩もお礼が食事だけというのも…と言って装備をプレゼントしようとまでしてくれていました。しかし町の店でその高い値段を知ってしまっている身としては、たかだか手助けをした程度でそこまで高価な物を受け取るのは気が引けてしまう。
というか提示された装備というのが鎧や兜などの金属系の武具だったので、「正直貰っても使わないしな…」という理由の方が大きかったりもします。貰った物を即売り払うというのもちょっと気が引けるしね。なので私は普通に断り代わりにハインツに勧めてみたのだけれど、彼も「仕事中ですのでそういった物を受け取るわけにはいきません。」みたいなことを言って断っていた。
しかし折角の謝礼を何も受け取らないというのもな…となったので、代わりに私の方から別の提案をさせてもらうことにしました。
「なら代わりにコレの修理は出来るか?」
「おぉ?これは……」
私が取り出したのは、以前ドーラの街でヴァイキングだと言うドワーフ族から買った【壊れた羅針盤】である。
うっかり忘れていたのだけれど、元々これは【???の欠片】というアイテムとして見つけたのを購入したものである。これには〈ツヴェールク語〉という古代語が刻まれているのだけれど、まだアイテムが壊れているからかそれとも私のスキルレベルが低すぎるせいか、未だに解読するには至っていない。
そしてこの羅針盤を修理できる職人とも出会えていなかったので、これぞ渡りに船!ということで見せてみることにしたのである。
「あ~~~こいつぁ大分古い代物だな。どこで手に入れたんだ?」
「オーレリア大陸に来てたヴァイキングの商人からだな」
「ほお、あいつらそんなとこまで行ってんのか」
「襲ってきた海賊から奪いとったンだと」
「まあそりゃ襲ってくる奴らが悪いわな」
「まァな」
暫くは羅針盤を軽く叩いてみたり、ひっくり返したりして色々と確認していたようだけれど、やがてため息を一つ吐くと羅針盤を返してきた。
「ジュカ悪いなぁ、そいつは流石に俺の専門外だ。そいつは大分古い代物みてぇだし多分何かしらの細工がしてある。俺には直せねぇが、代わりに直せそうな奴を紹介してやるよ」
なんとコレには細工が施されているらしい。イイネイイネ!なんだろうここはやっぱりお宝の在処でも隠されていたりなんかしちゃったりして!!
突然のワクワク感に思わず尻尾をゆらゆらさせていると、ニナが触りたそうに手をワキワキさせている。少女のように見えても彼女は成人女性、いきなり尻尾を掴むという暴挙に走ることはないと信じたい。
そして紹介してくれる人物というのは、どうやらニナの伯父にあたるガルドという人物らしい。ちなみに父親であるグンターさんのお兄さんだそうです。
どうやらグンターさんは元々ヴァイキングの町と呼ばれる〈ヴィーリル〉という町の出身らしく、とある切っ掛けでこっちの方に出てきたらしい。そして兄であるガルドさんは時計なんかの精密機器をメインに扱っている職人らしく、彼なら恐らく直せるだろうとのこと。確かにそれはかなり期待できそう。
そんなやり取りを昨晩したので、お礼はもう十分受け取ってるんだよねえ。
なのでそのままグンター一家に別れを告げて、次の町〈ヴィーリル〉を目指す。
◇
──空を覆う厚い雲と荒れた波の打ち寄せる海岸にいくつもの帆船が立ち並ぶ。町の中からはカンカンと鉄を叩くような音が響き、あちこちで怒鳴り声が飛び交っている。
〈ヴィーリル〉はヴァイキングの町だと聞いていたので、てっきり荒くれ者たちが闊歩する治安の悪い町なのかと思いきや、意外にもそこに陰鬱とした雰囲気はなく寧ろ陽気で豪快な人が多そうな印象である。確かに怒鳴り声が飛び交っていたりはするけれど、それは単純にそうしないと周りの音に掻き消されて声が聞こえないだけのようで、町を歩く人々の顔は明るい。
そういえばドーラで会ったあのドワーフも、ヴァイキングは海賊ではなくて“海を股にかけて旅する行商人”なのだと言っていたような気がする。
(さて、ガルドさんだったっけ?紹介状は貰ったけれど、さて一体どこにいるのか…)
店の名前は聞いていたのに、うっかり場所を聞くのを忘れてしまいました…。
仕方ないのでその辺を歩いていた住民を捕まえて聞いてみると、あっさりと店の場所は判明した。
教えて貰った通りに店を訪ねると、中には何かの作業をしているドワーフ族の男性の姿。
「ん?……珍しいな、よそから来た客か」
目元に拡大鏡を掛けた気難しそうなこのドワーフ男性が、おそらくガルドさんなのだろう。だってめちゃめちゃグンターさんに似ているし。
「修理の依頼だ」
「あん?悪ぃがうちは外からの持ち込みはって……………おぅ?」
いきなり断られそうな雰囲気だったので、サッサとグンターさんからの紹介状を出す。するとその効果は絶大だったようで、しかめっ面が一転して見事な笑顔へと変わりました。なんだろう、グンターさんは一人立ちしてからはほとんど実家へは帰っていないようなことを言っていたけれど、実はめちゃめちゃ仲が良かったりするのだろうか。
「おうあいつからの紹介とは珍しいな!どうだあいつは元気にやってんのか?」
「まァピンピンはしてたな」
「そうか!ったくあいつはよお、娘が出来た途端にこの町には全然寄り付かなくなっちまったからなあ。次に会ったらたまには顔出せっつっといてくれや」
「会ったらな」
はて?娘が出来ることとこの町に寄り付かなくなることには何か関係があるのだろうか。それとなく聞いてみると、「こんなむさ苦しい野郎共のいる町に居たら、うちの可愛い娘が拐われちまうかもしれねえ!そんなことさせてたまるかっ」と言って出て行ってしまったらしい。……まあ確かにあの娘の溺愛ぶりをみるに、そんなことを言っていても全然おかしくはなさそう。
「まあだからたまに手紙のやり取りなんかはするが、最後にあったのは大分前だな」
そう苦笑混じりに語るガルドさんは、きっといいお兄さんなんだろうね。
「で?態々俺に見てもらいたいってブツはどれなんだ?」
「コレだ」
「ほお、コレは……」
ガルドさんは外していた拡大鏡を再び装着して、【壊れた羅針盤】をじっくりと観察し始めた。
「ふむ…ここがこうなって………、あぁいや違うこうか。んでコレがこっちにこう………」
「直せンのか?」
「ブツブツ…………」
「オイ」
「ブツブツ…………」
ダメだこりゃ。
ハインツが「殴りましょうか?」とでも言うように拳と笑顔を向けてくるけれど、気付かなかったことにしておきますね。何となく職人というとこんなイメージだし、こっちはこっちで好きにさせてもらおう。
店内をぐるりと見回してみると、商品らしきものはほとんど置かれていない。まあ精密機器といえば大概高級品であるし、店内に置いておくよりも注文を受けてから取り出す方が安全ではあるよね。
その代わりと言ってはなんだけれど、ガルドさんの趣味なのか洒落た骨董品や絵画、古びた本などが統一性なく飾られている。その中の一つ、古びた本を取り出して中身を読んでみる。
中に書かれていたのはヴァイキングに伝わる伝承?お伽噺?のようなものみたいです。面白そうだったので近くにあったソファに腰掛け、本格的に読書の態勢に入る。
外は小雨がパラつき始めたのか雨粒が窓を叩いていて、奥からはカチャ…カチャ…と作業している音が聞こえる。
横で然り気無くハインツがコーヒーを準備しているけれど、それを咎める声もなく静かに時間が過ぎて行く。
───うん、こういう時間も悪くないね。




