57.ドワーフ族の少女
「う゛~~~!う゛~~ん!」
何とか岩を退かそうとするも、岩はピクリとも動かない。
横に居るおそらくこの馬車を牽いていたのであろう騎獣も所在無さげにウロウロしている。
「オイ」
「う゛~~~!もうっ何で動かないのよぉ……どうしよう………う゛ぅっ」
半べそをかきながらも再び岩を押そうとする少女。
「オイッ!」
「ひゃいっ!」
ピョンッと飛び跳ねた後に、少女はようやく私たちの存在に気がついたようである。
「あっあっあっ……す、すみません邪魔ですよね!?す、すぐに退かしますからっ!」
「……いやさっきからピクリとも動いてねェじゃねぇか」
「う゛ぅっ!す、すみません……」
「チッ、仕方ねェな」
プルプル震える小動物的な彼女をよそに、インベントリから杖を取り出す。
最初は岩に魔法をぶつけて壊そうかと思ったのだけれど、それだと岩が爆散でもして飛び散ったら危ないので止めておきます。ふむ、とりあえずは岩を馬車から退かせればいいのだから……
岩の下へ向かい【アースウォール】を発動すると、下の地面が盛り上がり壁となる。それを何枚か出してスロープのようにすれば、岩は素直にその上を転がり馬車から退かすことに成功した。
「わ、わあ…凄い!ありがとうございます、ありがとうございます!」
両手を上げて喜ぶ少女だけれど、馬車の方はガッツリ壊れ、町で買ったのであろう野菜やら荷物が辺りに散乱している。
「オイ、この馬車どーすンだ」
「あっこれくらいなら大丈夫です!これなら私でも直せますから!」
え、結構バキバキなんですが…?
しかし少女は宣言通りテキパキと馬車を直していく。そこで驚いたのは、てっきり〈修繕〉スキルか何かを使って修理するのかと思いきや、なんと彼女は自分の手で修理を始めたではないですか。
馬車の中から工具を取り出し、トンテンカンテンやっている。その迷いのない動きから修理が終わるまでそう時間は掛からなさそうだけれど、流石にスキルと違って一瞬で終わるという感じではなさそう。
「ハインツ、魔物が来ないように見張ってろ」
「はい、お任せ下さい」
まあ折角助けたのに魔物に襲われましたでは後味が悪いからね、修理が完了するまでの間の護衛くらいはさせてもらいましょう。ハインツが。
そしてインベントリから椅子を取り出した私は、いそいそとコーヒーと読書用の本を準備するのであった。
◇
「出来たぁっ!!」
額に浮かんだ汗を拭いながら少女が顔を上げると、目の前で見慣れないデザインの椅子に座り寛ぐ猫獣人の男と、その背後にそっと控える騎士のような男が目に入る。
「終わったか」
「えっあれ!?も、もしかしてずっと待っていてくださったんですか!?」
驚きの声を上げる少女に猫獣人の男は眉を顰める。
「こんな狭い場所で魔物に襲われたらどうするつもりだったンだ。ちったァ頭使え」
「うぅっ、すみません……」
「チッ、直ったンならもう行くぞ。ハインツ」
「はい、ジュカ様」
後ろの男に声を掛けると、二人はサッサとその場を立ち去ろうとする。慌てて少女が声を掛けると、猫獣人の男の方が煩わしそうに振り返る。それに気後れしそうになるも、何とか声を絞り出した。
「あ、あの!何かお礼をさせて頂けませんか!?もし時間があるようでしたら、ぜひ我が家へお越しください!」
焦って思わず叫んでしまったからか耳を伏せられてしまった。そして眉間に皺を寄せたまま猫獣人の男が口を開こうとすると、後ろに控えていた騎士風の男が何かを猫獣人の男に囁く。
「………チッ、とっとと案内しろ」
「あ、ありがとうございます!」
途端に笑顔になった少女は、いつの間にか片付けられていた荷物を騎士風の男に手伝ってもらいながら急いで馬車に載せる。
「我が家はコッチです!ついてきて下さい!」
少女が修理した馬車はカラコロと軽やかな音を立てながら問題なくスムーズに走り出す。その後ろを二頭の騎獣に乗った男たちが静かに着いていくのであった──。
◇
『少女の荷物の中に武具の納品書がありました。サインが男性名だったことを考えると、恐らくは父親などの親族の男性、もしくは工房の職人である可能性が高いです。それに彼女の修理の腕もかなり高いようですし、もしかしたら職人の家系なのかもしれません。』
これがさっきハインツに囁かれたセリフである。
何、キミはスパイか何かなの?いつの間に調べてたの?あ、辺りに散乱した荷物を片付けていたときですか、そうですか。抜け目ないなあ…。
という訳で少女にお呼ばれして、彼女のお家へ突撃訪問です。
いくらゲームの世界といえど、流石に一人暮らしであれば『家に初対面の男二人をご招待』ということはしないと思うので、普通に家族で暮らしているんだと思う。
道なりに進むこと暫し、目の前に一軒の民家が見えてきた。見た目は白っぽい石の壁に濃いグレーのスレートを乗せた素朴な雰囲気の家である。奥の方には石煉瓦を積んで建てたような小屋らしきものも見え、煙突がついているのか煙がモクモクと上がっている。
「あれが我が家です!すぐ夕飯の支度をするので、どうぞ中で休んでいって下さい」
笑顔で案内されて家の中へと入る。そのまま勧められるままに席へ着くと、「すぐにお茶をお持ちしますね!」と言って奥へと引っ込んで行ってしまった。
ちなみに奥へと引っ込む際に「お母さーーん!」と叫びながら走り去っている。何と言うか顔立ちは可愛らしかったのだけれど、そそっかしいというか落ち着きのなさそうな少女である。
「随分と元気の良い娘さんですね。」
「落ち着きがなさすぎンだろ」
そんな会話をしていると、奥から少女が自分と同じくらいの背丈の女性を連れて戻ってきた。
「おまたせしました!こちらはうちの母です」
「どうも初めまして。娘のニナを助けていただきありがとうございました。私は母親のカーラです。」
「ジュカだ」
「ハインリヒと申します。」
軽く挨拶を交わし、事の成り行きを説明する。するとカーラさんはしきりに恐縮しながらも感謝とお礼を伝えてくれました。
「まあ岩を退かしてくれただけでなく護衛までしてくださったんですか!?本当にありがとうございます。娘のニナは本当にそそっかしくて…、一つのことに集中すると周りが見えなくなってしまうので気を付けなさいといつも言い聞かせてはいるんですが…」
ほぅと頬に手を当てて悩ましげなため息を吐いている母親の隣で、娘は随分と気まずそうである。あと余談ではあるけれどなんと娘さんは成人済みだそうです。
思わず疑いの眼差しを娘さんに向けてしまった私は決して悪くないと思う。しかし私が少女だと思い込んでいた娘さんと母親であるカーラさんが同じくらいの身長だったあたりからもお察しの通り、彼女たちはドワーフ族である。さすが合法ロリ種族と思わなくもないけれど、容姿と性格はまた別問題な気がします。
するとそこへもう一人誰かがやって来た。
「おうニナ戻ったか!ちゃんと納品はできたか………って誰だお前ら」
「あっお父さん!こちらはジュカさんにハインリヒさんだよ。馬車が立ち往生して困ってたところを助けて貰ったの」
「おお、そうだったのか。そいつぁうちの娘が世話んなったな、だがなお前さんら、先に一言だけ言っておくがうちのニナは嫁にはやらねぇからなっ!」
「……ハァ?」
「ちょっとお父さん!やめてよぅ!」
「ごめんなさいねお二人とも。もうあなた、ニナも成人したんだからこんなに素敵な彼氏の一人や二人いてもおかしくないじゃない。いい加減娘離れしなさいな」
「お母さんまで何言ってるの!?もうやめてったらぁ…」
「いーや、ニナに男なんざまだまだ早い!俺は認めねぇぞ!」
「うぅぅ……お二人ともすみませぇん…」
何だろうかコレ。もしかして私たちはニナさんの連れてきた彼氏だと思われているのだろうか。彼氏も何も今日が初対面なんですが?
それにもし仮に彼氏だったとしても、初めて会う相手の両親に対してこんなふてぶてしい態度の彼氏は碌な奴ではないと思うのだけれど…。
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「なんでぇそうだったのか!それならそうと早く言やぁ良かったのによぉ!」
「いや言ってただろ」
「ああ?そうだったか?まあいいさ、とりあえず乾杯だ!今日はたっぷり食っていきなぁ!」
「ありがたく頂きます。」
「どうぞ沢山召し上がってね」
「お母さんの料理はとっても美味しいんですよ!」
何とか無事にあらぬ疑いは解けてお礼の食事と相成った。
豪華な食事に舌鼓を打ちつつ、合間の会話に花が咲く。
──ピロンッ
《クエスト「ドワーフ娘の困り事」をクリアしました──》




