56.イグニス大陸
「……………チッ、精々役に立つンだな」
「~~~~っ!はいっ!!心よりお仕えさせて頂きます、ご主ji「ヤメロ」」
「……ジュカ様」
うっうっ……これは仕方ない、仕方なかったんだ…。
RPを極めんとするのであれば、それがたとえ己の心に反することだとしても、それが自キャラの心なのであればそれに従うのがRP勢としての矜持なのだ!!
そうして私がRP勢としての新たな高みを目指そうとしていると、ふと同じRP勢である一人の友人の言葉を思い出した。
『SとMの関係ってさあ、一見SがMを支配しているように見えるじゃない?まあ実際そういう関係の方が大半だとは思うんだけど。でもさ、よくよく考えてみるとSは自分の欲求を満たすと同時に無意識でもMの望む行動をとろうとするし、Mは自分の欲求を満たすためにSを望み通りに動かそうとしたりする。これって本質的にはMの方がSを支配してるように見えない?』
面白いわよね。と当時ドSなお姉様キャラの設定を深掘りしようとしていた友人が言っていた言葉である。
いや別に私とハインリヒさんはそういった関係ではないんだけれどね?ジュカは別にドSキャラではないし、今後もなる予定は一切ないのだけれどね?ただちょっと策士なドMにほんのりと心当たりがあるような気がするだけで……いやいやそんなまさか。…まさかね?
ハァ……何だか妙に疲れちゃったなあ!
今後の先行きに多大な不安を覚えつつも、ここに留まっていても仕方がないのでとりあえずはこの港町を散策しようと私たちは歩き出した。
ちなみに余談ではあるのだけれど、ハインリヒさんのことはハインツと呼ぶことになりました。彼曰く「折角ですので」とのこと。いやなにが折角なんだと問いたい所ではあるのだけれど、「祝・ご主人様記念日なので☆(意訳)」とか言われても困ってしまうので、とりあえずスルーしておきました。
人で賑わう大通りを歩いていると、大半の住民はドワーフ族なのだけれどよく見ると他の種族の住民の姿もチラホラと目に入ってくる。
多いのはやっぱり人族かな。あとは獣人族や魔人族もチラホラといて、逆に見掛けないのはエルフ族くらいである。
どの種族の住民も基本がたいが良かったり、立派な武器を持っていたりするのを見るに、おそらく彼らは冒険者などの戦闘職であり鍛冶技術の高いドワーフ族の装備を買いに来たのかなと思う。
確かに店頭に並ぶ武器を見ても、性能も良く見事な装飾が施されていたりしていてその技術の高さが窺える。そしてそれは値段にもしっかりと反映されているようです。
それに武器だけではなくて、建物の壁の装飾やらベンチ一つとってもデザインが洗練されていたりして、成る程これがドワーフ文化なのかと感心してしまう。華やかという感じではないのだけれど、無骨さの中に散りばめられた繊細な装飾がより技術の高さを際立たせている気がします。
そんな町の中を歩きながら、住民に色々と話を聞いて情報収集である。
屋台のおば様に聞いた話では、まずイグニス大陸には教会がないということ。一応依頼内容は“技巧神”についての情報収集だったので、手っ取り早く教会で神について調べようかと思ったのだけれど、まさかの教会が無いという話でいきなり躓いてしまった。
つまりドワーフ族は神に祈る習慣がないのかと思いきや、どうやらそうではないらしい。ただ教会で祈るという習慣がないだけで、各家庭にはそれぞれが信仰する神の像がありそれに祈りを捧げるのだとか。
祈りたい神様が人によって違うため、それぞれの神を祀る教会を作るよりも神像を作って各自で祈りを捧げた方が早いということになったそうです。
「あたしら商売人なんかは大体風の神を信仰してることが多いかねぇ。ほら、『風は噂を運ぶ』なんて言うだろう?商売人にとって一番大切なのは情報だからね、そんな情報を運んで下さる風の神に祈りを捧げるのさ」
とのこと。ちなみにその風の神の眷族には“商売の神”も居るそうなので、勿論そちらにも祈りを捧げるのだとか。別に祈る神様は一柱だけというわけではないのね。
「じゃあドワーフの職人は何の神に祈るンだ?」
「職人かい?まあ何の職人なのかにもよるだろうけど、武器職人とかなら大体火の神じゃあないかい?武器を作るなら火は欠かせないだろうし、火の神の眷族には“鍛冶の神”や“技巧の神”がいるからねえ」
お、キタ!早速“技巧神”の情報ゲットである。
なるほど火の神の眷族かぁ…。まあ妥当な所だよね。
「ふぅン。ちなみに腕のいい武器職人を知ってるか?」
「腕のいい武器職人かい?そうだねぇ……まあ有名所で言ったらあっちに見える火山の麓に住んでる連中が腕は良いとは聞くねぇ」
へえ、火山の麓に住んでるんだ。まあ火山なら火の神の加護的なものがあってもおかしくはなさそうだし、一度行って話を聞いてみるのはアリかな?なんて考えていたら、おば様が止めとけとでも言わんばかりに手を振っている。
「あ~行きたいのなら別に止めはしないけどねえ、でもあそこに住んでる連中は随分と頑固で偏屈だって聞くからねえ。行ったはいいけど、会えるかどうかまではわからないよ」
「チッ面倒だな」
「わざわざ地下で暮らしてるような連中だからね、変わり者が多いんだろうさ。まあ誰かしらの紹介でもあれば、話くらいは聞いてくれるかもしれないけどね」
むむむ…どうやら一見さんはお断りなタイプのドワーフたちらしい。さてどうしたものか…。
ちなみにハインリヒさん改めハインツは、私が商品の説明を切っ掛けに店主から情報収集しようとしているのを毎回私が商品に目を向けると同時に勝手に商品説明を始めてくれやがるので、顔にアイアンクローをかまして「黙ってろ」とソフトに伝えた結果、ご満悦そうに背後で控えるようになったので放置しています。
なんでご満悦なのかを考えてはいけない。
「まあでも職人は別にあそこの連中だけじゃないからね。有名なのは火山の所の連中だけど、勿論この街にだって職人は居るし、北に行けばヴァイキングたちの町があるからそこにだって居るだろうさ」
なるほど。確かに私は話を聞きたいだけで、別に武器が欲しい訳ではない。となると態々火山まで行って、会えるかどうかも分からない相手を探しに行く必要もないか。
「わかった。あァ、あとコレもくれ」
「あいよ、まいどあり!」
そう言っておば様からピタパンのように中が空洞になったパンに魚のフライと野菜を詰めてソースをかけた屋台飯を受け取り、インベントリへと仕舞う。
パルゥ用にも買ってあげようかとは思ったのだけれど、パルゥは焼き魚程度の調理ならばいいけれど基本は素材そのものの味を好むので、多分この料理は食べない気がする。
なので保存用にと日干しされた魚をいくつか買い込み、街を後にした。
「ジュカ様、この後はどちらへ向かうのですか?」
「……とりあえずは北だな。ヴァイキングの町とやらにでも向かってみるか」
「あの町での情報収集はもうよろしいので?」
「フン、あの町は謂わば観光客向けの町だろ。どの道大した情報は得られねェよ」
「そうでしたか。」
ニコニコと嬉しそうなハインツはさておき、あの港町でまず驚いたのは物価の高さである。
それと事前に調べた情報では、ドワーフ族は技術の高さを誇りはするけれど、それで華美に飾り立てることはそれほど好まないということ。
それをふまえると、やたらと装飾の施された武具にこれでもかと造形技術の高さを誇る建物の数々。
そもそもドワーフ族の町なのに、様々な物のサイズがどう考えてもドワーフ族基準ではなく他種族のサイズを基準としている。つまり、この町は他所から来た他種族に自分たちの技術の高さをアピールすると同時に、高く売りつけるための観光地的な町なんだと思う。まあ武器に関しては「高過ぎやせんか?」と思いはするけれど、性能は普通に良いので別にボッタクリという訳ではないんだろう。
そんなこともあったので、港町をとっとと離れ北へと進んでいます。なんで北なのかと聞かれたら「何となく」としか言えないんですけどね。気分です。
そうして私はパルゥ、ハインツは狼の騎獣に乗り北へと移動していると、左右をちょっとした崖に挟まれた細い道を通り抜けることになったその時だった。
「う゛~~~!う゛~~~ん!」
はて?
聞こえてきた声に耳をすませるも、どうやら魔物ではないっぽい。チラリとハインツに目を向けると、コクリと頷いた後素早く確認へと向かってくれる。
そしてそれほど待つこともなく戻ってきたハインツを迎えると、
「どうやらこの先の道で落石があったらしく、一台の馬車が立ち往生しているようです。」
どうしますか?と目線で問われるも、こんな狭い道で立ち往生なんてされたら普通に通れないので、仕方なく様子を見に行くことにする。
そうして目に入ってきたのは、一人の少女が横転した馬車を押し潰そうとしている岩を何とかどかそうと孤軍奮闘している姿だった。




