51.冒険者ギルド 〈ドーラ支部〉
『あんた今度イグニス大陸に行くって言ってたね?ついでに依頼を出しておいたから行く前に必ず冒険者ギルドに寄って行きな』
というヴァネッサさんからのメッセージを受け取った私は、ウキウキでドーラの冒険者ギルドへと向かった。
冒険者ギルドの扉を潜ると、何やら奥の方で騒いでいる一団がいるらしくそっちに注目が集まっている。何だろうと思いそちらに目を向けてみると、どうやら冒険者ランクがCに上がったことで盛り上がっているみたいである。
「おっしゃあああ!ついにキターーー!!」
「コツコツ依頼頑張ってきた甲斐があったなぁ……」
「ここまで長かった…」
「マジでそれな」
「これでオレらもようやく一人前かー!」
RFOの世界では冒険家ランクがCになってようやく、一人前と認められるらしい。
Cランクになる特典と言えば、護衛依頼が受けられるようになること、一人前ということで冒険者が職業として認められること、辺りだろうか。あとは高いランクの依頼ともなればそれだけ報酬も高くなるので、それもランクを上げる理由の一つだと思う。
え、私?私のランクですか?
そういえばこの間の指名依頼でようやくDになりましたね。
指名依頼の報酬は内容によってピンキリなんだけれど、多分ランクを上げるためのギルドポイント的なものは高いんだと思う。
だって面倒臭がって全然冒険者ギルドに寄っていなかったのに、ランクEからランクDにはすぐ上がれたからね。
そしてランクアップで喜んでいたパーティーも、早速受けられるようになった依頼を確認しているらしい。
「おーワンランク上がるだけでも報酬結構上がるな」
「お、この依頼どうよ?」
「うお、護衛依頼の報酬エグ。あ~でも拘束時間がなあ…コレ時間的にいけるか?」
「てか新大陸行きのクエストとかないん?」
「これもいいんじゃね?」
と中々盛り上がっている。周りにいる他のプレイヤーたちは彼らに話を聞きたいらしく、少し離れた場所からチラチラと様子を窺っている。
あれかな、ランクアップの試験についてとか聞きたいのかな。
まあとりあえず待っていても人は減りそうになかったので、そのまま人の間をすり抜けて受付へと向かう。そこで指名依頼について確認すると、前回の時と同様別室にて説明があるとのこと。
職員の後に続いて別室へと向かうと、そこには意外な人物が待っていた。
「ジュカ様」
静かに立ち上がり、片手を胸に当て慇懃に頭を下げるその人物は、以前の遺跡調査でずっと私の護衛をしてくれていたハインリヒさんであった。
相変わらず爽やかな笑顔に動作まで洗練されたイケメン騎士様である。
前回と違うのは身に纏っているのが騎士団の制服ではなく、しかしどこか軍服っぽさを感じさせる詰襟の装備を着ているというところだろうか。どちらにせよとても似合っています。ここまで案内してくれた職員さんも、そんな騎士様に見惚れてポーッとなっている。
……いやそうじゃなくて、何でハインリヒさんがここにいるの?
「ジュカ様、お久しぶりです」
「なンでテメェがここにいるんだ」
ついうっかり不機嫌そうに私がそう答えると、何故か頬を染めて嬉しそうな騎士様。
その時後ろから「それは私の方からご説明させていただきます」ともう一人入って来た。
後ろから入って来たのは、ここまで案内してくれた職員さんとはまた別の仕事の出来そうな女性職員さんでした。
「お待たせ致しました、私は冒険者ギルド〈ドーラ支部〉のクレアと申します。今回の依頼内容についての説明を担当させて頂きます。」
席に着くとここまで案内してくれていた職員さんがお茶を淹れてくれる。
そのお茶を配る時にハインリヒさんをチラチラと見ては頬を染めているのを見てしまい、やっぱり騎士ってモテるんだなあと思う。
しかしそれに対してハインリヒさんは、お茶を受け取る際に軽く会釈した以外は一瞥もくれない辺り「あーこれ多分日常茶飯事なんだな」という感じです。モテる男は大変そうですね。
というか職員さんよ、君の態度はそれでいいのかい?目の前にいるクレアさんの額に青筋が浮かんでいるように見えるのだけれど大丈夫ですか?
まあこの職員さんが新人なのかどうかは分からないけれど、あまり褒められた態度ではないのは確かだよね。チラチラ見すぎな上に、めっちゃ話し掛けたそう。そして後でお説教が待っているのは確実とみた、ようやくクレアさんの顔に気付いた職員さんが顔を真っ青にしております。
ン゛ンッという咳払いにビクッと肩を跳ねさせた職員さんは、そのままそそくさと退室して行きましたね。
「うちの職員が大変失礼いたしました。」
「いえ、構いませんよ」
「どーでもいいからサッサと説明してくれ」
職員の教育は勝手に頑張ってもらえばいいと思うので、そんなことよりも依頼の内容である。
「はい。今回の依頼はイグニス大陸での“技巧神”についての調査依頼となっています。」
「また随分とざっくりした内容じゃねェか」
“技巧神”とはめちゃくちゃ簡単に言えばものづくりの神様のことである。
まあチブチア族が『技巧神に最も愛された民』とまで言われていたらしいし、それにものづくりといえばドワーフ族!というような認識もあるので“技巧神”について調べたら何か見つかるかも?みたいな感じなのだろうか。
「ええ、今回の調査は色々な角度からの考察をしたいので、特にコレといった目的は定めず、ざっくりとで構わないのでできるだけ多くの情報を集めて欲しいとのことでした。」
「ふぅン……」
「なので期間もジュカ様がイグニス大陸に滞在している間として、報酬は発見した情報量に応じて支払われる形になるようですね。」
「そうか」
基本的には前回の遺跡調査の時と同じ感じかな?
別に情報収集だけではなく他にやりたいことが出来たらそっちをやってもいいし、自分の裁量で色々と決められるのはいいね。
とそれはいいとして、まあ大体予想はつくんだけれど…
「で?お前は何しに来たンだ」
「ジュカ様の護衛です」
ですよね~~!いやまあそんな気はしてたんだけどさ…え、監視?それとも騎士団って実は暇なの?それに古代遺跡調査ってそこまで国として重要事項だったりするのだろうか。
というかヴァネッサさん『巡り人なら死んでも大丈夫』みたいなことを言ってた割に、ちゃんと護衛手配してくれてるんですね。え、情に厚い強強お婆様とか好きでしかないんですけど…?
なんて若干の面倒臭さとちょっとしたトキメキを感じつつ、依頼はしっかり受注しました。
説明を終えたクレアさんは既に退室しているけれど、「よろしければ今後の打ち合わせにお使い下さい」とのありがたいお言葉を貰ったのでそのままハインリヒさんと部屋で打ち合わせである。という訳で気になったことを聞いてみた。
「騎士団は暇なのか?」
「いえ、流石にそんなことはありませんよ。私の所属している青狼騎士団は元々国境警備や国内の見回りとして国中を駆け回っているので旅には慣れていますし、国としても遺跡調査というのはそれだけ重きを置いているので今回の調査にも護衛がつくのは当然なんですよ。」
ハインリヒさんが苦笑しながら教えてくれた内容に疑問を覚える。
これが現実世界であれば、確かに歴史的価値の高い遺跡というものは文化遺産として大切にされると思う。でもこの世界ではそれほど価値のあるものなのだろうか。この魔物が溢れた世界でそこが観光名所となって収益が見込めるという訳でもないし、少しでも気を抜けばすぐに魔物たちに占拠されてしまう。そんな危険な遺跡を態々残して調べる意味とは?
疑問が顔に出ていたのか、ハインリヒさんが説明してくれた。
「ジュカ様がご存知かはわかりませんが、“巡り人”というのはある一定の周期で誕生します。その周期とは“星に力が満ちたとき”とされているのです。」
ハインリヒさんが語った内容によると、魔物は死んだときに砕けて光となって散って行くように、この星に生きとし生けるものはいずれ大気に溶けてやがて星に還る。そして還った力が星に満ちると、今度は星がそれを吐き出すのだ。そしてその力の一つが“巡り人”であるらしい。
そしてその力は何も巡り人を生み出すだけではなく、星全体を活性化させるのだとか。
作物はよく実り、世界は生命力に満ち溢れる。そしてそれは何も人や自然だけではなく、魔物だって強く活発になってしまう。中には封印していたものですら力を付け、その封印を解こうと暴れだしたりするなんて事例もあるらしい。
「なので過去には溢れた力に押し流されるように滅亡してしまった国や村が多くあるのです。そんな中で失われてしまった技術や魔法も多く、人々は常に発展と衰退を繰り返しているのです。だからこそ、遺跡調査というのは過去の技術を復活させるためにも国をあげて行うことが多いのですよ。」
へえ~~なるほど、そういう背景があるのかあ。
言ってみれば星はまるで呼吸をするように、力を吸って吐くのを繰り返しているらしい。
今は丁度吐き出した所なので、色々な場所で力が飽和した状態であると。それらを“巡り人”たちがうまいこと散らして、再び星に還してゆく。
力を散らすために“巡り人”は世界を巡り、そして再び星に力を巡らせる。
停滞と腐敗は同じこと。常に力が巡ることで世界は生き続ける。
なるほど、巡り人が世界に歓迎される訳である。




