50.王立図書館
『アラビアンナイト』またの名を『千夜一夜物語』──。
とある王に毎夜妻が物語を語るという形で描かれた説話集である。
昔々、とある国の王はある時妻の不貞を知ってしまい、妻と相手の奴隷たちの首をはねて殺してしまう。女性不信となってしまった王は、街の生娘を宮殿に呼び一夜を過ごしては、翌朝にはその首をはねてゆく。こうして街の若い女性はどんどんいなくなり、王の側近の大臣は困り果てた。しかしその大臣の娘がこれを止めるために名乗りをあげ、王の妻となった。
妻となった娘は毎夜王に興味深い物語を語り、その話が佳境に入った所で「続きはまた明日」と言って話を打ち切ってしまう。王は話の続きが聞きたくて妻を千日の間生かし続けた。ついに妻は王の悪習を止めさせたのだ。
というのが物語の大枠だったはず。
終わり方や説話の部分なんかは訳した人物や時代によって色々と変わるらしいけれど、大体の雰囲気はこんな感じだったと思う。
この説話の中に、「アラジンと魔法のランプ」や「アリババと40人の盗賊」、「シンドバッドの冒険」の話なんかが出てくるんだよね。
でもこれの面白い所は全てが架空の話というわけではなくて、中には実在した人物が登場人物となって話に出てくるものもあるというところかな。
それを考えるとこの本──『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』の中に描かれている話の中にも、実在していた話なんかも混ざっているのかもしれない。
海の中で暮らす魚人?っぽい種族と交流する話だったり、砂漠の中に沈んだ古代都市、他にも火山に封じられた魔物の話なんかもある。
どれもこの世界の中でなら現実にありそうだよね。
(これ古本屋で売ってたりしないかな。一冊手元に置いてじっくり読んでみたいかも)
そんなことを考えながら本を戻す。
フラフラと内装見学しながらこんな奥の方まで来てしまったけれど、目的は新しい大陸の情報である。
気を取り直して探してみると、目的の本はすぐに見つかった。というか今居る場所が別大陸の情報を纏めてある区画でした。
(え…っと、そもそも新しい大陸の大陸名すらわからないんだけど。でも確か今度行くのはドワーフ族のいる大陸だったはず…)
うろうろと手を彷徨わせていると一冊の本を見つけた。
(お、『冒険家リシャールのわくわく世界漫遊記』ね。相変わらず微妙なタイトルだけど、まあこれでいいか)
壁際にあった椅子に腰掛けて早速読み始める。
内容は冒険家のリシャールという男が気の向くままに世界を旅した話で、それが日記風に描かれ纏められている。
一人称が“俺っち”だったり、次の行き先をダイスで決めていたりとどちらかというと遊び人のような雰囲気を醸し出しているけれど、何気にこの人かなりの実力者のような気がする。
だっておそらくだけれど、プレイヤーたちの序盤のトラウマであるはぐれ熊さんをワンパンで倒しているし、そもそもが世界中を旅する=渡航許可を持っている&それが出来る実力がある、という訳で。
一体何者なんだろうかこの人…?
それはさておき、本によるとこの世界にある5つの大陸の名前は、
黄金の海岸線と豊かな大地を持つ、人族のいる繁栄した大陸《オーレリア大陸》
広大な砂漠に遊牧民の文化を持つ、獣人族の住まう乾燥した大陸《ヴァルナ大陸》
緑の谷と深い森に覆われ、精霊信仰の盛んなエルフ族のいる大陸《セレスタリア大陸》
火山と鉱山が点在し、屈強なドワーフ文化が栄える大陸《イグニス大陸》
銀色の川と深い霧に覆われた、静かで謎めいた魔人族のいる大陸《ノクターン大陸》
であるらしい。
どの大陸も中々に興味深いですね!
位置的には、今いる《オーレリア大陸》から西にあるのが《イグニス大陸》。その上にあるのが《ノクターン大陸》で、オーレリア大陸から北に《ヴァルナ大陸》、東に《セレスタリア大陸》といった感じである。
今のところ発見されているのはドワーフ族のいる《イグニス大陸》との航路だけなのだけれど、早く他の大陸との航路も発見されて欲しいものですね。
あとは大きな大陸はその5つだけれど、他にも大小様々な島があったりなんかもしているらしい。
気付けば窓の外はすっかり暗くなってきている。図書館では気を抜くとすぐに時間が経ってしまう。今日はそろそろ宿に戻ろうかな。
◇
その後数日の間は王立図書館へ通い、思う存分読書に勤しみました。
そしてホクホク気分で今私が立っているのはドーラの街である。
ジャンヌたちと約束しているのは明日なのだけれど、遅れたら大変だからね、前日入りという訳ですよ。
(折角だし“海猫亭”にも寄って行こうかな)
以前椿たちと来た時に食べた料理はそれはもう美味しかった。
あの後わざわざ現実でも同じものを食べに行く位には気に入りました。
店に近付くと、潮風に乗って料理の美味しそうな匂いも一緒に流れてくる。
ソワソワと尻尾を揺らしながら店に入ると、相変わらず気っ風の良い女将さんが注文をとってくれる。
「いらっしゃい、兄さんまた来てくれたんだね!今日のメニューはレッドクラブのトマトクリームパスタだよ」
おぉ!今日はカニのパスタか~来て良かった~!
出てきた料理はたっぷりのトマトソースに、名前通り真っ赤なカニの身をこれでもかと入れた大変贅沢な一品でした。
たっぷりのトマトクリームは酸味とまろやかさが絶妙に混ざり合い、それを平打ちのパスタに絡ませることで見事な調和を生み出している。そして口に残るのは濃厚なカニの味。
私だけじゃなくて、周りのお客さんたちもウンウン頷きながら食べる位めちゃめちゃ美味しかったです。
そして優しい私は、そんな美味しいパスタのSSを大好きな双子へと送ってあげるのでした、まる。
このお店の料理は一期一会だからね。
また同じものを食べたいと思っても、その日の仕入れ次第でメニューが変わるためそれは難しいのである。
『キャロとユリちゃん連れて今すぐ行きます』
『は?えっちょっその店どこ!?何その美味しそうなパスタ!めちゃめちゃ食べたいんですけど!?』
仕方ないのでハンスには海猫亭までの地図も送ってあげましょうね。
『ジュカありがt……って待って?そこドコってか入り組みすぎじゃない???』
そんなこと私に言われましても…。
まあ食べたければ頑張ってたどり着いて欲しい。
そうしてお腹も膨れた私は、食後の散歩も兼ねてその辺をブラつく。
段差のあるこの街では、大抵の場所から海が見える。
日の光に照らされてキラキラと輝く海を見ているだけでも、この街まで来る意味はあると思う。
そのままブラブラ歩いていると、前にも会ったヴァイキングのドワーフの店の前まで来ていた。
「あん?おお、兄ちゃん確か前にジャンヌを連れて来た奴だよな?今日はどうした?」
この世界の住人はやたらと人を覚えるのが上手くありません?何気に海猫亭の女将さんにも覚えられていたし。
というかしっかり名前呼びされてるジャンヌさんよ。カインの気苦労が晴れることは無さそうである。
「たまたま通り掛かっただけだ」
「なんでぃ、そうかよ」
「……コレはなんだ?これも羅針盤か?」
「あん?いやそれは羅針盤じゃねえよ。それはアストロラーベっつう、まあ航海用の天体観測機だな」
「へェ…」
どうやらジャンヌと交流を持ったことで航海用のアイテムにも需要があると知ったこのおっちゃんは、即座に売れそうなアイテムを仕入れたらしい。流石商人、商機を逃すようなことはしないらしい。
それにしても航海用の天体観測機ねえ…。
見た目は複雑な線といくつかの歯車を組み合わせた、パッと見は時計の中身のような見た目のアイテムである。縁の部分には何やらメモリのようなものもついている。
「それを使って太陽や月の位置を割り出したりするんだよ」
「ふぅン。……コレにする」
「いや、別に兄ちゃんはコレ使わねーだろ」
「………船に乗る予定はある」
「まあいーけどよ」
だって!見た目が!格好良かったんだもの!!
と心の中で謎の言い訳をしつつも、折角なので使い方も聞いておく。
なるほと…へー日付から太陽の位置とか割り出せるんだ!すご!
いつ使うかは分からないけれど、私はロマンアイテムをてにいれた。んふふ、満足です。
やっぱりドーラは色々なものがあって楽しいね!とご機嫌で歩いていたら、ピロンッという音と共に一通のメッセージが届いた。
もしかしたらハンスが海猫亭にたどり着けなくて、その救助要請だろうか?と考えながらメッセージを開くと、意外なことにそれは古代遺跡研究所の所長であるヴァネッサさんからだった。
『あんた今度イグニス大陸に行くって言ってたね?ついでに依頼を出しておいたから行く前に必ず冒険者ギルドに寄って行きな』
ほお~~ん?
これは新たな冒険の予感!




