49.古代遺跡研究所
「いやぁ有能な新人が入って来てくれて嬉しいねえ!」
「おい、俺はここの職員になった覚えはねェぞ」
「ん?ああわかってるさ。ただたとえここに勤めてなくても、考古学者仲間が増えるのは嬉しいもんなのさ」
「へェ?」
「ここに勤めてる子たちは皆勉強熱心だからね、アンタが前回の遺跡調査みたいに新しい知識を持ち込んでくれればあの子たちにもいい刺激になるのさ」
「……で、本音は?」
「うちの可愛いスタッフたちに危険地帯で調査してこいなんて言えないだろ?その点アンタみたいな巡り人なら心配しなくていいし、結構なことじゃないか!」
「チッ、食えねェ婆さんだな」
『巡り人は復活するから別に死んでもいいよね』なんて言われたら普通なら気を悪くするんだろうけれど、ここまで明け透けに言われると逆に清々しいような気さえしてしまうよね。
まあ確かにリナ、カール、ヒューゴの3人とは仲良くなってしまったし、彼らが危険な場所に行って怪我をするよりは、死んでも復活出来る自分が行って調査した方が安心ではある。
ただこの世界のじい様ばあ様連中は厳しい世界で生き残ってきただけあってか、強かというか人を掌の上で転がすのが非常に上手い。
なので素直に頷くのがちょっと癪に触るというか何と言うか…絶妙に抵抗したくなるんだよね。
しかしそれらも全て見透かしたかのように、婆さんことヴァネッサさんは告げる。
「考古学者ってやつは研究だけじゃ成り立たない。研究するにしたってその材料が無けりゃ何も出来ないんだからね。だからアンタみたいな奴が必要なのさ。新しい場所へ行き、その地に眠る情報を見つけ出す。それだって簡単なことじゃない、見つけ出す嗅覚ってモンが必要なんだ。それを持ってるアンタは十二分に優秀さ」
うぬぅっ…!グッとくる事言いやがって!
そんなこと言われたら素直に頷きたくなるじゃないか!
「それに、うちから依頼を出せば別の大陸への渡航許可もすぐに下りるよ」
「チッ、仕方ねェな」
べ、別にアンタのためなんかじゃないんだからねっ!
その後も今回の遺跡を発見するまでの経緯や新しい大陸のこと、複数ある古代文字についてなんかの話で盛り上がり、ついつい話し込んでしまった。
私が取得している古代語は〈リューヒカイト語〉と〈ツヴェールク語〉の2つだけだけれど、やはり予想していた通り古代語は全部で5種類あるらしい。
人族の使っていたとされる〈リューヒカイト語〉
獣人族が使っていたとされる〈ヌブア語〉
エルフ族が使っていたとされる〈スマラス語〉
ドワーフ族が使っていたとされる〈ツヴェールク語〉
魔人族が使っていたとされる〈ツァオバトイ語〉
の計5種類なのだとか。
そしてこの知識を得たことで、インベントリに入れていた〈???の欠片〉の???の部分がいつの間にか該当する古代語の表記に変わっていた。
「おや、欠片を持っていたのかい」
「まァな」
「フフ、歴史の欠片なんてものは至る所に落ちているのさ。気になる気にならないは置いておいて、目につくものは全て鑑定する癖をつけな」
面倒臭そうだなというのが顔に出ていたのか、ヴァネッサさんが笑って教えてくれた。
「それを繰り返してりゃ丁度良いスキルが手に入るんだよ」
「……気が向けばな」
「素直じゃないねぇ」
「チッ」
気が付けば結構な時間が経過していたので、優良な情報もゲットできたしそろそろお暇しましょうかね。
帰りはリナさんたちには会えなかったけれど、そのまま私は古代遺跡研究所を後にした。
◇
さて、王都でのもう一つの目的は王立図書館である。
これは古代遺跡研究所と同じ南東地区にあるそうなので、昨日泊まった近くの宿屋からそのまま徒歩で向かう。ここからでも目に入るあのバカでかい建物がきっと件の図書館なのだろう。
歩くこと数分でたどり着いた図書館は、どこぞの宮殿か?と思えるほど立派な建物でした。
建物の前には噴水広場もあって、読書の気分転換に散歩するのに丁度良さそうです。現に今も学者風の人が眉間を揉みながら歩いている。
いや、ちゃんと前を見ながら歩いた方がいいと思……あ、転けた。言わんこっちゃない。
転けた男性をそのままスルーして入口へと向かう。
中はかなり広く、入口付近は吹抜けになっているようでかなり解放感がある。
大きな建物ということもあり受付にはそれなりの数の職員が居るけれど、雰囲気はどこか銀行っぽいね。
とりあえず空いている受付に行くと、眼鏡をかけた清楚な雰囲気のお姉さんが対応してくれた。
「こんにちは。今日は初めてのご利用ですか?」
「あァ」
「それでは登録料とこちらにご記入をお願いします。」
どうやらこの王立図書館では、入館料とは別に登録料と利用者登録をしないといけないらしい。
まあこの中世というかファンタジー世界ではそこまで流通が発展している訳ではないし、図書館でも貸出をしていない辺り本は貴重なものなのだろう。
登録用紙にはさすがに住所を書く欄はないけれど、名前の他には職業や称号なども書く欄がある。称号は任意みたいだけれど、そりゃ確かに図書館の利用者登録に【共に歩む者】(騎獣も戦闘に参加することができる)とか書いても意味はなさそうだよね。
用紙に必要な部分を書いてお姉さんに渡すと、「それでは登録させて頂きます。」と言って何か機械のようなものを弄っている。魔道具かな。
「これで登録は完了しました。」
冒険者カードによく似た名刺サイズのプレートを受け取ると、そのままインベントリにしまう。
「【特別蔵書室】はどこにある?」
やっぱりヤヌルカの図書館のように、分かりにくい場所に隠されていたりするのかな。
「えぇと、失礼ですが推薦状はお持ちですか?」
「推薦状?」
「はい。実は王立図書館では【特別蔵書室】へ入るのに職業や称号とは別に推薦状が必要なんです。」
は?聞いてないが???
というか職業説明にあった一般的に立ち入ることの出来ない場所ってこういう所のことなんじゃないんですか???
一人困惑していると、受付のお姉さんが申し訳なさそうに小声で教えてくれた。
「申し訳ありません。この王立図書館では他の場所よりも機密レベルが上でして…。通常よりも基準が厳しいんです。」
なるほどね???つまりそれだけ貴重な資料が眠っている、と。
「……その推薦状は古代遺跡研究所の所長からでもいいのか?」
ヴァネッサさんなら言ったら普通に推薦状くれそう。
「申し訳ありません…。こちらの推薦状は、同じ所属の方からの推薦ではダメなんです。」
ダメなんかいっ!
えぇー…?じゃあ誰から貰うのさぁ…
「……なら誰からならいいンだ」
「そうですね…。大抵は商業ギルドや冒険者ギルドの役職者の方からが多いですが、中には貴族の方から推薦状を受け取る方もいますね。」
あ~はいはい、アレですね。
貴重な資料を閲覧するからにはそれなりの信頼度が必要と。そういうことですね?それが同じ所属、例えば私の場合だと古代遺跡研究所の人たちだったりすると、『身内の意見』という判断になってしまう為に信用に欠けてしまう的な感じなのかもしれない。
えぇ~でもそしたらどうしよう…。
ヤヌルカの冒険者ギルドのへルマンさんでもいけるかな?一応あの人事務長って言ってたけど。あとは………あ、あ~あれだ、あの人。ハインリヒさんだ。
確かハインリヒさんって侯爵家の人だったよね?いや、でもな~…あの人はただ仕事の一環で護衛についてただけだしなあ。推薦状くれるかっていうとちょっと微妙かぁ…。
……うぅん、とりあえずは保留かな。
「なら今回はいい」
「かしこまりました。」
そうして受付で入室続きを済ませて中へ進むと、そこにあったのは「ここに大陸の叡知を全て集めました」と言われても納得してしまうほどの圧倒的な蔵書数だった。
「……………。」
周りのどこを見ても本、本、本。
本棚も棚と言うよりは、壁そのものが本棚になっている。こんな光景は映画の中くらいでしか見たことがなくて、思わず圧倒されてしまった。というかあの天井付近の本とかどうやって取るんだ。
でもこれはこの光景を見るだけでも、ここに来る価値はあるかもしれない。
特に本を探すでもなく、この景色を目に焼き付けようと図書館内を歩き回っていると、気が付けば絵本…とまではいかないけれど童話コーナーのような所に来ていた。
入館料が掛かる分そこまで気軽に遊びに来れる場所ではないのか、周りに子供の姿はない。
その代わりに老齢のマダムがどこか懐かしそうに、一冊の本を手に取って目尻を下げながら読んでいたりしている。
そこでふと一冊の古びた本が目に入って手に取った。
何となくパラパラとページを捲って読んでみる。
(これは…、各地の民話を集めた説話集、かな)
どうやらこれはとある国で、お后様が王様に寝物語として様々なお話を毎夜語っている、という体で様々な説話を描いた物語らしい。
一つ一つは短いお話を読み進めながら、何となく本のタイトルを確認する。
『アルフ・ライラ・ワ・ライラ』
ん?んー……あ、これあれだ
──『千夜一夜物語』
所謂アラビアンナイトである。




