39.いざ出発!
──時は数日すぎて土曜日の朝。
「よし、行きますか」
バイザーをセットしてベッドに寝転がる。
今日明日は待ちに待った指名依頼の遺跡調査である。面倒臭いだのなんだのと散々言ってはいたけれど、楽しみにしていたのもまた事実。
ワクワクした気持ちのまま目を閉じ、意識はRFOの世界へと落ちて行く──。
「ふぁ~あ…」
ぐいーっと腕を伸ばしながら身体を起こす。
うむ、違和感なし。体調も万全である。
一階の食堂へと降りれば、顔馴染みとなった宿屋の女将さんが声を掛けてくれる。
「おや、やっと起きたのかい!食事はどうする?」
「食う」
「あいよ!座って待っといておくれ」
そのまま食堂で腹ごしらえを済ませて集合場所へと向かう。
遺跡に一番近い街はここではなくフュントなので、集合場所はフュントの冒険者ギルドである。ボチボチ向かわねば。
そういえばフュントの冒険者ギルドにはまだ行ったことがないことに気付いてしまったけれど、冒険者ギルドは大体どこでも街の中心付近にあるので迷うことはないでしょう。多分。
『冒険者ギルド フュント支部』
などと心配していたけれど、何の問題もなく到着しました。
そもそもフュントは大きい建物自体が少ないし、冒険者ギルドはどこも同じ外観なので迷うこともありませんでしたね。
扉を潜って受付へ向かうと、どうやら他のメンバーはもう到着していたらしく隣の酒場へと案内された。
「今日はよろしくお願いします。私は今回の調査団のリーダーを任せられました古代遺跡研究所のリナと申します。こちらは同じく調査員のカールとヒューゴです。そしてこちらが…」
「今回の護衛隊長のブルーノだ。道中の安全は我々青狼騎士団が確保しよう。だがくれぐれも余計な真似はしないように」
「………ジュカだ」
リナさんはブラウンの髪を後ろで一つに纏め、優しげな顔に眼鏡をかけた知的なお姉さんです。
後から来た私(遅刻ではない)に嫌な顔もせず、優しく他のメンバーを紹介してくれている。はい好き。
それに引き換えなんだこのおっさん、感じ悪いですよ。
一番最後に来た私(だから遅刻じゃないってば!)を睨み付けてのこの上から目線である。その鼻の下のチョビ髭引っこ抜いてやろうか。
しかしよく見ると、髭のせいで分かり難いけれどそこまでおっさんではないかもしれない。……別にどうでもいいか。
今回のメンバーは私を含めて全部で10人。
古代遺跡研究所の職員である調査員の3人に、『青狼騎士団』という騎士団から派遣された6人の騎士たちである。
騎士たちからの自己紹介は特になく、サッサと出発の準備を済ませる。
遺跡までは私が道案内役なので、私の護衛役だという名目の騎士と並んで先頭に立つ。
そして殿をチョビ髭隊長が務め、残りの4人の騎士で調査員たちを守る。という陣形で行くらしい。
「いざ、出発!!!」というチョビ髭のバカでかい号令と共に一行は進み出す。
いや、うるさ。その号令必要あった???
頭を振って耳の調子を整えていると、一人の騎士がスススッと寄ってきた。
「今回ジュカ様の護衛を務めさせていただきますハインリヒと申します。道中の安全は必ずお守りいたしますので、どうかご安心を。」
「……そりゃドーモ」
片手を胸に当て頭を下げるその姿は、これぞ騎士様!といった感じ。
柔らかそうな栗色の髪に夏の空を思わせる鮮やかな青の瞳は、その爽やかな容姿も相俟って女性に大変モテそうです。
フュントから遺跡までは騎獣に乗って移動する。
騎士の面々は団の名前の通り狼系の騎獣で揃えているらしく、どの子も凛々しくてカッコいい。
そして調査員たちはあのキーウィみたいなモフモフの鳥にヘラジカっぽいやつ、さらに二足歩行の恐竜っぽいやつと三者三様でどの子もカワイイと思います。
でもやっぱりうちのパルゥさんが一番最高なんだよなぁ!と一人悦に入っていると、パルゥの装備を見て目の色を変えた髭が現れて色々と問い詰められる、なんて場面もあったりしました。
しかしそこに颯爽と現れる爽やかイケメン騎士ことハインリヒさん。
「遺跡やダンジョンで発見された宝物は、原則その発見者の物であるはずです。」と有無を言わせぬ正論パンチで髭を黙らせていた。
ふぅ……今私がジュカではなかったら惚れていたかもしれない。でも今はジュカなのでね。惚れることはありませんでしたね。
そして憎々しげにハインリヒさんを睨み付け、「チィッ!!」とドでかい舌打ちと共に後ろへ下がって行くチョビ髭隊長。………貴様本当に隊長か???
何てこともあったけれど、フュントから騎獣の森までは魔物が出ても騎士たちがあっという間に蹴散らしてくれる為、非常に順調に進んでいた。
流石というか騎士たちはみんな強いのだけれど、特に私の横にいるハインリヒさんがお強かった。
魔物を見つけるや否や、サッと走り出してスッと倒して帰って来る。
そしてそれを自慢するでもドヤ顔するでもなく、何事もなかったかのように護衛に戻るっていうね。顔だけじゃなくて行動までイケメンだあ。
とりあえず後ろの方から聞こえてくる舌打ちは、気のせいだということにしておこう。
イケメンを僻むな、心が狭いぞチョビ髭。
騎獣の森に着いてからも道中は順調そのものだった。
遺跡はマップに表示されているし、パルゥも道をしっかり覚えているしね。
「この先の開けた場所が件の遺跡だ」
私の指が示す先には、緑に呑み込まれた歴史の残骸が以前と変わらない姿で今もヒッソリと佇んでいた。
◇
「ここが……!以前ジュカさんが送って下さった資料は私たちも読ませて頂いたんですが、まさかこれほどのものだったなんて…!」
最奥にある部屋【祭壇の間】にてリナさんが目をキラッキラさせている。
他の二人の調査員や騎士たちも興味深そうに部屋の中を眺めている。
遺跡に着いた後はセーフゾーンに簡易キャンプを設営して、早速とばかりに探索の開始である。
しかし今日は初日ということもあって、まずは私が調べた【祭壇の間】を確認してみようということになりました。本格的な調査は明日からで、その時は手前から徐々に進めて行く予定だとのこと。
部屋の中を見て回っている面々を横目に何となく入り口付近でそれらを眺めていると、リナさんがそれに気付いて近付いてきた。
「あの、ジュカさん。ひとつお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あン?」
「ジュカさんはあの部屋の中央の窪みには“黄金の像が置いてあった”と予想されていましたが、何故そう思われたのでしょうか?」
なぜってそりゃあ………あぁ、今はちょうど日が陰っていて気が付かなかったのか。
「あの窪みの周りに落ちてる砂を見てみろ」
「砂……ですか?」
怪訝な顔をしながらも、リナさんは窪みの周りに落ちていた砂を手に取って見てみた。
周りにいた連中も会話が聞こえていたのか、興味深げにリナさんを見ている。
するとそこに陰っていた日の光が射し込み、リナさんの手の中にある砂をキラキラと輝かせた。
「!?こ、これは…!砂の中に金が混ざっているんですね!?」
そうなのだ。この部屋に着くまでに金細工は一つも残っていなかったのだけれど、金を含む砂はそこかしこに落ちていたりするんだよね。
つまりこれは、壁の装飾なんかに使われていた金細工を剥がし取った際に出た残骸なんだろうな、と。
それが正解かどうかなんて分からないけれど、そう大きく外れてもいないんじゃないかな。
「成る程、確かにそれならここにあった像が金でできていた、という仮説の信憑性も高まりますね」
「まァ実際のブツはないから確かめようがないがな」
その後もこの部屋を実際に調べた私の見解と、リナさんたちの研究所に残されていた資料なんかから得た知識を掛け合わせながら互いの見識を深めていく。
夜が更けて周りが暗くなる頃には残りの二人の調査員ともすっかり打ち解け、お互いに有意義な意見交換が出来たと思う。
ちなみに残りの二人、カールとヒューゴは最初全然目が合わないなとは思っていたけれど、普通に私にビビっていたらしい。
何だかんだ今まではこの容姿と態度でも気にせず話し掛けてくれる住民たちばかりだったけれど、よく考えれば彼らの反応の方が普通なんだよなぁと思い、今まで関わってくれた人たちに改めて感謝したりなんかもしました。
冒険者と関わりが深かったりすると、強面や態度の悪い人にもある程度耐性がつくけれど、研究所務めで周りが真面目だったり静かなタイプばっかりだったりするとやはり刺激が強いのだろうか。いやでも研究者も大概変人ばっかりなイメージがあるけどなあ(偏見)。
そんなこともありつつ、一日目の夜は静かに更けて行った。




