37.海釣り
埠頭から少し離れた岩場まで移動して来ました。ここなら周りに船も人気もないし丁度良さそう。
岩場はさすがに足場が悪くて椅子が出せないので、仕方なく立ったまま釣りを始める。
ザザーン……と打ち付ける波の音を聞きながら待つこと暫し、けれどそれほど待つこともなく当たりが来た。
(おっキタキタ!って………っ!?)
突如現れる赤のライン。
反射的にそのラインを避けると、そのラインを通って石礫が通り過ぎる。
「チッ!」
えっ攻撃されたんだが?
ここ街の中なのになんd……ってあーーー!いつの間にかフィールドになってる!?これドーラの街から出ちゃってますねえっ!
ひとまず礫を放ってきた相手を鑑定する。
[魔物]ロックフィッシュ
[備考]浅い海に広く生息していて岩場を好む。その鱗は岩のように硬く、近付いてくる敵を土魔法で攻撃する。食用可。
なるほどなるほど……って魔物じゃねーですか!
いや、今まで釣った魚が[食材]表記だったので完全に油断していた。これもしかして〈気配感知〉が〈危険察知〉に進化していなかったら危なかったやつでは?さっきの赤いラインって〈危険察知〉の効果だよね?
そしていきなり此方を攻撃してきたふてぇ魚は、土魔法を放った後はシレっと海へ戻ろうとしている。
だがしかしそうは問屋が卸しません。そもそもコイツは私に釣り上げられた状態で攻撃を放っているので、まだ普通に釣り針が引っ掛かっている。
なので釣竿をグイッと引っ張れば、陸に揚げられビチビチ跳ねるだけのただのお魚に早変わりである。
ハッざまぁねえなぁっ!と言いたい所ではあるけれど、腐っても奴は魔物。
普通にビチビチしながら魔法を放ってきやがる…っ!
しかも鑑定結果にもあったように、鱗が固くて攻撃が通り難い所がまた地味に腹立たしい。
「あ゛ーーうぜぇっ!」
そしてまた礫を飛ばそうと口を開けた瞬間、〈跳躍〉を使ってロックフィッシュの背後へと回る。礫を放った瞬間は一瞬硬直するので、その隙に後ろからズボッと鰓へ杖を突っ込む。
そのままゼロ距離で風魔法を撃ってやれば、急所+弱点属性というのもあって大ダメージである。
よくアニメなんかでも、外側が堅くて攻撃が効かないのなら内側から攻撃すればいいじゃない!みたいなのがあるけれど、それはRFOでも有効らしい。
ただ的が小さいのと、ロックフィッシュが止まる瞬間が魔法を放つ瞬間くらいしかないので急所を狙うのが割と面倒という点はあるけれど。
しかしコツさえ掴んでしまえばもう此方の物である。魔法の射程範囲にだけ注意しておいて、後はブスッとやってボンッとやるのを繰り返しておけば討伐完了です。
なんかまた敵にがぶり寄りで戦闘してるな…と思わなくもないけれど、だって釣った魚が襲ってくるんだもの。仕方ないじゃないか。
まあ最初はびっくりしたけれど、慣れてしまえばそこまで苦戦する敵でもないのでそのまま釣りを続けていると、他の魚(魔物)も釣れました。
次に釣れたのは【連撃イワシ】という魚で、名前の通りイワシなのだけれどコイツ等は群れで行動しているらしく、一匹が攻撃を受けると群れ全体で襲ってくるという特徴がある。
“釣り上げる”というのも攻撃の一種と見なされるようで、一匹を釣ると群れ全部が飛び掛かってくるということになる。仲間思いなのか、死なば諸共精神なのか…。
その攻撃というのがダーツのように相手に突き刺さる形で飛んでくるのというもので、それが群れ単位で来るものだから【連撃】という名前が付いているのだと思う。
確かに当たれば結構なダメージになってしまうけれど、所詮はイワシなので一匹一匹はとても弱い。
飛んで来た時に土魔法のアースウォールを出せばそこに突き刺さって動けなくなるので、それを処理するだけの簡単なお仕事です。
そんな魔物なので、現在荷物の中が大量のイワシで溢れ返っております。
いやどうしろと。
………おやつ用に煮干しにでもしてみる?
まずは試しにインベントリから10匹ほど連撃イワシを取り出して、【乾燥】の魔法を掛けてみる。
……………。
いや長いね?これどのくらい掛けたら煮干しになるの???
一応外部サイトで煮干しの作り方を見てみると、天日に干す場合は5日ほどが目安らしい。いや5日て……
流石にゲームの中で5日もやらせたりはしないだろうけれど、多少は時間が掛かるのかもしれない。
仕方ないのでそのまま【乾燥】を掛け続けていると、その後10分ほどでイワシは煮干しへと変化した。煮干しと言っている割に煮る工程は必要ないらしい。
現実と比べればめちゃくちゃ早いし簡単なんだとは思うんだけれど、でもゲームの中ならボタン一つで出来て欲しさはあるよね。
まあそれは置いておいて、いざ味見をば。
モグ…
……ふむ、適当に作ったにしては意外ととイケる。
魔物成分なのか何なのか、歯ごたえがあって味が濃い。おつまみであったら喜ばれそうな感じです。
別に私はそこまでお魚好きではないのだけれど、RFOの中ではやたら魚が美味しく感じられるのはやっぱり私も猫ちゃんになったからなのだろうか。
これならおやつ用にストックしておきたいくらいだけれど、この待ち時間が微妙に面倒臭い。
浜助くんあたりに頼んだら量産してくれたりしないだろうか?
ちなみにこれは後で聞いた話なんだけれど、この煮干し作り〈料理〉スキルを持っていればボタン一つで一瞬で終わるそうです。
一向に私には生えてこない〈料理〉スキル。べ、別に悔しくなんかないんだからねっ……!
というかこの魚たちって地上で戦ってたからそんなに苦労せず倒せたけれど、もし水中で戦う羽目になっていたら相当面倒臭い相手なのではなかろうか。
散々釣っておいて何だけど、やっぱり海は怖いよね。
◇
戻って来ましたヤヌルカの街。
椿たちは素材を見繕った後はすぐに戻って来ていたらしいし、私も冒険者ギルドに指名依頼が来ていないか確認に顔を出しておきたかったからね。
という訳で冒険者ギルドへ向かっているのだけれど、すごく………すごく見られています。
誰にって?
そりゃあ……
セレン様にですねぇ!?
え、巷で大人気の神殿長様がこんな所で何してるんです???そして何でそんなに見つめてくるの…?
アレですか?もしかして強面猫獣人男がニャンコに煮干しをあげてるのが問題だとでも言うんですか!?それとも野良猫にご飯あげないで下さい的なアレですか!?
だって…だって仕方ないじゃないか!パルゥ用にも作ってあげようと思って、日当たりのいい路地裏で煮干しを作ってたら寄って来ちゃったんだから!すぐに仕舞ったけど完全にロックオンされちゃったんだから!
現実ではやらないので許してもらえないだろうか…と思いつつ現実逃避。
するとセレン様がゆっくりと近付いて来た。
「おや、あなたは以前教会にいらして下さった方ですよね?」
に、認知されている……だと!?
セレン様が教会を訪れる人を全員覚えているって話マジなんだ…。
「そうだな」
「あの後お探しの資料は見つかりましたか?」
「ある程度は」
「そうでしたか。宜しければまたいつでもいらして下さい。」
「あァ」
「はい。」
「………」
「………」
えっ何?まだ何かあるの???やっぱりお叱りですか?
一人戦々恐々としていると、セレン様が意を決したように話しだした。
「コホンッ。えぇと、その……そちらは何を与えているのでしょうか?」
「………煮干し」
「煮干し、ですか」
「なンだ、食わせたらまずかったか?」
「い、いえ!そうではなく、」
聞けばどうやらこの辺りの猫たちは至る所でご飯を貰っているそうで、今さらあげる人が一人二人増えた所で問題はないらしい。
そうではなく、いつも出先から神殿へと帰る道の途中で見掛ける猫の溜まり場に、猫たちの姿が無かったので何かあったのかと近くを探していたらしい。
…………。
なるほど、この煮干しに釣られたニャンコたちのことですね?
実は無類の猫好きだというセレン様。しかしご実家では母親が昔魔物に襲われた時のトラウマで動物系全般もダメになってしまったらしく、家どころか外でさえも動物と触れ合うことは無かったのだそう。
なので昔からふわふわした生き物、とりわけ猫に強い憧れはあったものの、触れ合う機会もなく大人になってしまった上、更に現在は神殿長という立場にも就いている為にあまり特定の生き物を可愛がるのも……という感じで未だに撫でる機会すら得られず、遠くから眺めるだけの日々なのだとか。
なんと悲しき運命を背負ってしまったお人なのでしょう。
そんな話をしている間、目線がずっと猫から離れない辺りガチ感が凄い。
でも私が話す時はこっちの顔をちゃんと見ているし、別に全然悪い人ではないんだけれど、一々私の耳を見るのはお止め下さい。目を細めて優しげに見るのも止めて頂きたい。
この人猫人族も猫のくくりに入れてません?
そしてそんな時に猫と戯れている私を発見したと。
幸いここは人目のない路地裏。一応は顔見知り(?)ではあるし、猫獣人だし、密会を疑われるような女性でもないし、という訳で絶好の機会なのでは!?と突撃してきたらしい。
この人も大概拗らせてる感じがするのは私だけですかね…?
まぁしかし猫好きなのに撫でたことすらないというのは流石に可哀想だし、少しはレクチャーしてあげましょう。
セレン様は白い法衣を着ているので、あんまり毛が目立つのはマズかろうと思い私の横で寛いでいた白猫をセレン様の膝の上に乗せる。
そして見本を見せるべく、私の膝の上に居た黒猫の顎の下をウリウリと撫でてやる。
「おぉ、喉を鳴らしておりますね。」
「こうやって嫌がらない程度に撫でてやりゃあいいだろ」
「こ、こうでしょうか…?」
「そいつが喜ンでるならそれでイイだろ」
「ふふ、猫とはこのように温かく柔らかだったのですね。このように実際に触れられる日が来るとは思ってもいませんでした。」
柔らかな日差しの中、幸せそうに白い猫を撫でながら微笑むその美丈夫の姿は、まるで宗教画のように神々しいお姿でありました、まる。




