2.始まりの街
ざわざわとした周りの雑音が耳に入ってくる──
トンッと着地した感覚に目を開ければ、そこには石造りの美しい街並みが目の前に…って人多っ!?むしろ人しか見えないっ!
さすが2陣の開放日……
しかもよく見れば2陣だけでなく、友人の迎えかそれとも新人の勧誘なのか1陣のプレイヤーも結構いる。
何で1陣とわかるのかって?答えは単純、装備が違うのである。
我々2陣たちは皆初期装備なので、もれなく全員が同じ格好である。
ただ初期装備といっても、デザインは生成り色のチュニックにズボン、そして足元はしっかりとしたブーツに腰にはベルトで留めるウエストポーチ。さらにふくらはぎ辺りまであるフード付きのマント。という実にファンタジーらしい“一般的な旅人”といった雰囲気なので、シンプルながらとても良いデザインだと思います。これならこの街並みの中にも自然に溶け込めるでしょう。
……ただしこんな大所帯でなければ、だけれど。
ちなみに今のところこのRFOの世界に職業は発見されていない。
なので初期装備といえば全員同一のものではあるけれど、フードのみ色変更が可能だったりします。デフォルトは茶色。私は色を黒に変更している。うん、沢山いるね、黒フード。無難で格好いいものね……。赤やパステルカラーは女の子キャラだろうか?可愛らしくてとてもいいと思います。
降り立った広場では、あちこちで誰かが叫んだり呼び込みをしたりしていて結構、というか大分うるさい。そして獣人族となったからか、普段よりも数倍はよく聴こえるようになってしまったので、音を遮断するためサッとフードを被った。
(とりあえずさっき決めたステータスの確認からかな……)
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〈プレイヤー名〉ジュカ Lv.1
〈種族〉猫人族 特性:《忍び足*Lv.1》
〈スキル〉
⬛戦闘系
《風魔法ⅠLv.1》《土魔法ⅠLv.1》《杖術Lv.1》《蹴りLv.1》
⬛補助系
《知力強化》《気配感知Lv.1》《回避Lv.1》
⬛生産系
《釣りLv.1》
⬛生活系
《鑑定Lv.1》《言語Lv.1》
〈スキルポイント〉0
〈装備〉右手:初心者の長杖
左手:なし
頭:巡り人のフード
上衣:巡り人のシャツ
下衣:巡り人のズボン
靴:巡り人のブーツ
アクセサリー:なし
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うむ、完璧である。
どこがだよって?いや、これにはちゃんと理由があるので落ち着いて聞いて欲しい。
私の考えた“ジュカ”は愛想が無く口の悪いエキゾチックなワイルド兄さんである。そして猫ちゃん。
まず自分から積極的に殴りに行くようなアグレッシブなタイプではない。むしろ遠くの方から適当に魔法を飛ばして、近付いてきた奴はそのまま杖で殴るか足蹴にするような省エネかつ面倒臭がりなタイプである。しかし興味のあることには一直線。
なので気まぐれに色々な所に行くので語学は堪能、知識も豊富。
ついでに各地で釣りをする。だって猫ちゃんだから。お魚好きは外せない。釣りはセットしたらあとは放置してお昼寝、みたいな感じで釣れたらラッキーぐらいのスタンス。
ふらりと現れてはいつの間にかいなくなる。
気ままな風来坊、これぞお猫様といったイメージでよろしくお願いしたいところ。
獣人族は知力が低い?いやいやそんなことは関係ないのです。いかに楽をするかということにジュカさんは重きを置いているのです。ということで別に強くなって攻略組になりたい訳でもなし、ソロでRPを楽しむ分には構わないでしょう、ということでここはひとつ。
(さて、まずはどうやってこの人集りを抜けるかって、ん?)
何やら通知が来ていたのて確認してみる。
《チュートリアルを開始しますか?チュートリアルは専用のステージで行われます──》
おや、丁度よかった。
早速チュートリアルを開始すると、周りに溢れかえっていたプレイヤーたちが一瞬で消えた。どうやら別のステージとは“プレイヤーのいない状態の街”ということらしい。
というかそうならそうと一言言って欲しかった。思わずビクッてなったよ、普通に怖いです。
そして改めて周りを見れば、そこには石畳の敷かれた道に少々無骨ではあるけれど美しい石造りの建物が並び、通りには色鮮やかな天幕を張った露店の数々が目を楽しませる。
騒がしかったプレイヤーたちの喧騒が消えた後に聞こえてくるのは、その辺で井戸端会議をしている女性たちの声や採れたての野菜や果物を売る声、そしてそれを求める人々の声に子供たちの笑い声。
さらに頬を掠める風に意識を向ければ、風にのって流れてくる磯の香りも感じられる。もしかしたら海が近いのかもしれない。
ここで暮らす人々の音が溢れ、風にのって流れて行く。
(おぉ…まさに異世界って感じだね。うぅ、やっぱり始めてよかった。冬李兄と冬華姉には感謝しないと…)
冒険者ギルドへ行って登録してこいと言うナビに従い、ゆっくりと街の中を歩いて行く。
それにしても、いくら分かりやすいと言ってもデカデカと道に巨大な矢印を置くのはいかがなものか。大変分かりやすくはあるけれど雰囲気は台無しになっている気がするのだけれど。
そしてしばらく大通りを進むと冒険者ギルドらしき建物が見えてきた。
二階建てでレンガ造りの建物に、クロスした剣と盾のマークの看板。ザ・冒険者ギルドである。
中に入ると正面には巨大なボード。おそらく依頼が貼ってあるのだろう。そして左手に受付らしきカウンターと右手に酒場がある。
現在ゲーム内時間では昼を過ぎたあたりかな。そのせいかギルド内に人は疎らにしかいないけれど、すでにお酒を飲んでる冒険者もいるようだ。。依頼の達成後なのか、先ほどから数人で「お疲れー!」と言いながら乾杯を繰り返している。既に酔っぱらいだと見た。
居酒屋での大学生のノリを感じつつ、ここは素直に空いてるカウンターへと向かい登録をしてもらおう。
「登録を」
「はい、登録ですね。新規のご登録でよろしいですか?」
「あァ」
「かしこまりました。それではこちらの水晶に手をかざして下さい……はい、結構です。内容をご確認頂けますか?」
【冒険者名】ジュカ
【ランク】F
【現在受けている依頼】なし
「問題ない」
「はい、ありがとうございます。ギルドの説明は必要ですか?」
「あァ」
「かしこまりました。まず冒険者ギルドでは…」
うん、これぞジュカさんクオリティ。
いい感じに無愛想である、と一人満足しながらも説明は真面目に聞く。
受付嬢の説明によると、ギルドのランクはF・E・D・C・B・A・Sの全部で7段階あり、その中のDランクまでは依頼の達成数でランクを上げることができるそうだ。
しかしCランクは所謂“一人前”と認められるランクであるため、達成数の他に何か特別な審査があるらしい。
さすがに審査の内容までは教えてもらえなかったけれど、Cランクから護衛依頼が受けられるようになることを考えれば、信頼度……つまり住民の好感度とかが必要なのかもしれない。いや、単純に戦闘技術とかの審査かもしれないけれど。
ちなみに依頼の期日が過ぎていたり、失敗するとマイナス点がつくらしい。
マイナス点が嵩むと、降格になったり最悪登録の抹消…なんてことになったりもするから気を付けて下さいね。とにこやかに説明された。
何かプレイヤーに対して「バカなことはすんじゃねーぞ?」と運営から圧をかけられた気分になるのだけれど、たぶん気のせいではなさそう。
とりあえず神妙な顔をして頷いておきます。
「このまま依頼を受けていかれますか?」
受付嬢のセリフと共に、目の前に依頼リストが表示される。
薬草採取や討伐依頼などが並ぶ中、お手伝い系に清掃依頼なんかもあって結構色々な種類がある。そこでふと思いついたことがあったので、受付嬢に聞いてみた。
「なァ、ここに魔物や薬草なんかの情報が載ってる資料はあるか?」
「はい、ありますよ。2階の資料室にまとめてあるので、ご覧になる場合はそちらををご利用下さい。」
「わかった」
「あ、ご利用の際は部屋にいる職員に一言声をお掛け下さいね。」
その声に頷いて返事を返し、依頼は後回しにしてそのまま資料室へと向かう。
闇雲に走り回るのもそれはそれで楽しいだろうけれど、ジュカさんは面倒臭がりなので、予めある程度の知識を頭に入れておいてから一番労力の少ない方法を探し出していくスタイルです。
資料室には6つ程の本棚が並んでいたのだけれど、どうやら実際読める本はそれほど多くはないらしい。読めないやつは日々の会計記録やらギルドの業務日誌とかだったりするのだろうか。それはそれでちょっと読んで見たいような気もする。
部屋に居た職員には声を掛けたので、とりあえず端の方から読んでいこう。
キャラを作るためには、キャラ本人だけではなく周りを取り巻く環境や文化、歴史なんかも知る必要がある。設定は深く掘り下げれば掘り下げるほどキャラに深みが出てくるものなのです。
なのでゲームの設定資料集を隅から隅まで読むことに喜びを覚える私にとっては、この資料室という名前だけでここは宝物庫と同義であった。
そして案の定うっかり熱中し過ぎてしまい、気が付けば資料は全て読み切り、窓から覗く外の景色はすっかり闇色に染まっていた。
《ギルドにある全ての本を閲覧したことにより、スキル〈速読〉を習得しました──》
ん?
どうやら新しいスキルをゲットしたらしい。
そういえばこのゲームのスキルは、ポイントを使っての取得と行動によってスキルが生えてくるタイプの二種類の取得方法があるんだったか。
行動によって取得できるスキルはポイントを使わない分お得ではあるけれど、自分に適正が無かったり苦手分野だったりすると狙って出すのは相当時間が掛かるのだとか。それならポイントを使ってさっさと取ってしまった方が他のことに時間を回せる分全然まし、とは双子の兄である冬李のセリフである。
まぁ今回は取得条件も緩そうな感じであったし、中々便利そうなスキルなのでラッキーだったと喜ぼう。
というか気がつけば既にかなりの時間が経っていて、職員さんもいつの間にか別の人に変わっていた。長時間滞在してしまったことを職員さんに謝罪しつつ、ギルドを後にする。
(とりあえず宿屋に行って寝ようかな…)
だいぶ減っていた満腹度のせいか、どことなく気怠く感じる身体を引きずりながらパッと目に入った宿屋に向かう。
そしてシチューとパンという素朴ながらも中々に美味しい食事を摂り、一旦休憩しようとベッドに横になってからふと気づいた。
「あ、チュートリアルまだ終わってなかった」
道理で街中が静かで歩きやすいわけである。
まぁいいか、と視界の端で依頼を受けろと主張する通知はそのままに、しばしの休息をとるべく目を閉じたのであった。




