27.チブチア族
「これは………」
目の前に聳え立つ巨大な柱にはびっしりと文字が刻まれている。
そんな部屋の中を、崩れかけた壁の隙間から射し込む光がぼんやりと浮かびあがらせ、何とも神秘的な空間を作り出している。思わずSSを撮ってしまうくらいにはね。
部屋をぐるりと見渡せば、壁にも所々欠けてはいるけれど絵のようなものが描かれているのが見てとれる。
柱に刻まれている文字は完全に解読することは出来ないけれど、おそらくはリューヒカイト語で間違いないだろう。
「コ……ミ、ウ……アラ………ゾ…………。チッ、全然読めねぇ」
何とか解読を試みようとはしているものの、スキルのレベルが低すぎるのか解る部分が断片的すぎて間を予測することすら出来ないとはこれいかに。
うぅむ…、とりあえずは地道に解読してみるしかないかなぁ。
何より今日と明日はお休みである。心置きなく解読作業といこうじゃないか!
そうして気合いを入れて解読作業に打ち込むこと数時間。
とりあえずは柱の文字をメモに書き写す作業を続けています。こうするだけでもスキルのレベルは上がるので、メモを読み返す度に読める言葉が増えていくのが面白い。
とりあえずここまでで解ったことは、この柱に刻まれているのは元々この辺りに住んでいた部族の生活?というか行事とか儀式?みたいなことが書かれているということかな。
どうやら昔この辺りでは金が採れていたらしく、この部族はそれらの採掘と装飾技術に長けていたらしい。なので建物の装飾や身につける装飾品、さらには何かしらの儀式にも金を多用していたっぽいね。
おそらくだけれど、この部屋のあちこちにもその金の装飾は施されていたんだと思う。
床に手を着き、その手についた砂を光に翳しながらパラパラと払うと、光を受けた砂はキラキラと光を反射しながら落ちていく。
──まあ、たぶんそれが原因で荒らされちゃったんだろうねぇ。
所々削られた壁に何かを剥がしたような跡。
部屋の中心にある不自然な凹みも、おそらくはこの部族が祀っていたとされる神像とかが置いてあったんじゃないかなあ、と。
ついでに金ぴかだったりしたんじゃないかなあってね。
まあコッソリ盗み出されたのか、はたまた襲われて奪い去られたのかまでは分からないけれど、今この遺跡が朽ちて忘れ去られていることを考えれば何となく答えは見えてくる気もするけどね。
「ふぅ……」
ほんのりとこの遺跡の背景が見えてきた所で一旦休憩かな。
気付けば部屋の中に射し込んでいた光も随分と弱くなってきている。
………というか、もしやこれってあのセーフゾーンまで戻らないといけない感じですか?
え、それはちょっと……いや大分面倒臭いですね?
「……もうここでいいか」
一応この部屋に来てから魔物は現れていない。もしかしたら時間経過でまたリポップするのかもしれないけれど。でもこの部屋がそこまで荒れていない所をみるに、もしかしたらこの部屋では魔物はポップしないのかもしれない。
そうとなれば入ってきた入口さえどうにかすれば大丈夫でしょう。
とりあえず入口は〈アースウォール〉で塞いでおく。持ってて良かった土魔法。
ウォール系は一応魔力を流している間は継続して出し続けることが出来る。惜しむらくはここがセーフゾーンではないのでMP回復は自分でやらなければいけないことか。でも自動回復のスキルだってあるし、MPポーションも多めに持ってきたし大丈夫大丈夫!なんとかなるさ!
「お前はどうする?送還するか?」
「グァrル」
どうやら一緒に居てくれるらしい。
ドスッと頭突きされましたが、たぶんそう言ってる。たぶんね。
そうと決まれば野営の準備だ。
一応室内ではあるけれど、入口とは反対側にテントを設置しておく。焚き火は……まあ石造りの建物だし、壁に穴もいくつか開いてるから作っても大丈夫デショ!
焚き火がないと温かいご飯が食べられないからね、仕方がないね。
まあ一応の気遣いとして、床石が剥げて土が剥き出しになっている所でやりましょう。
パチパチと薪のはぜる音が、部屋の中に静かに響いている。
夕食を終えた後の食後のコーヒーが身体に沁みる……
思わずほうっと息を吐けば、それに気付いたパルゥが顔を上げる。
それに何でもないよと頭を撫でれば、満足したのか再び伏せて目を閉じた。
はあ~~ーーー癒されるぅぅーーー………
いや~この薪のはぜる音とか、焚き火の光だけで照らし出された空間とか、さらには巨大な猫ちゃんに凭れかかれる幸せとか……
これだけでもこのゲームをやって良かった……。
しかも目の前には忘れられた古代遺跡というロマンの塊があるとか、最高オブ最高です。後で双子にもう一度感謝のメールでも送っておこう。
でも今はもう少しこの空間で微睡んでいたいかな……
◇
2日が経ちました。
どっちの世界でって?勿論現実世界の方です。
いや終わらないんですよ、解読が。
この二日間──ゲームの中では約一週間──で〈リューヒカイト語〉のスキルレベルはそりゃあもう目覚ましい成長っぷりではあったんですけどね?
単純に量が多いというか何というか……
まあお陰でここの部族のことは大分解ってきたと思う。
まず彼らの名前は“チブチア族”。
前に言った通り採掘と装飾技術に長けた部族で、とある山の上にある湖に降りて来たとされる女神を信仰していた。というよりも、その女神こそが自分たち部族のルーツであると信じていたらしい。
そんな彼らには一風変わった風習があった。
例えば彼らが新たな族長を迎える際、身体に金粉をまぶして黄金の人となり、神官と共に筏で湖の中心まで行って奉納品を沈めるのだとか。その後自らも水中に入り、無事浮かび上がってくることができれば女神様に認められたとされ、新たな族長として迎えられる。というような儀式を実際に行っていたりしたらしい。
えっ、ということはその湖に行けばお宝がいっぱい沈んでいる、ってこと???
と普通ならそうなるのだろうけれど、どうやらその湖は女神様が降り立つ時に乗っていたとされる聖獣が守っているらしく、おいそれと探すどころか近付くことさえ出来ないようである。
ふむふむ、なるほどねえ……
腕の良い職人集団に、神を乗せていたとされる聖なる獣ねえ─────
そういえば近くに職人の多くいる街とか、騎獣となる魔物が多数生息する地域がありますね。
ははーん、もしやこれは彼らのご先祖様的存在なのでは?いや、どうだろ?安直すぎかな?
うぅん、まだ情報が足りないなあ。
しかし残念ながら休日は今日までである。明日からはまた現実での生活が待っている。
ちなみに今居るこの部屋は、この二日間で魔物がポップしないのは確認済みである。しかし部屋の外では普通に敵がポップするので、長時間ログイン出来ない状態では流石にここに放置は出来ないかなあ。
それにまだ解読しきれていない部分もあるし、街まで戻るのは無しかな。
とりあえずはセーフゾーンまで戻って、そこで野営をしつつ奥の部屋と行き来しながら解読を進めて行こうと思う。
となると、
「流石にお前は戻ってろ」
「GAルル!」
え~?この子全然牧場に戻ってくれないんですけど……
え、嫌なの?
う~ん……そりゃあ今まで大自然の中で暮らしてきたのなら、狭い部屋に押し込められるのは確かに嫌……なのかなあ?
まあこの辺は元々パルゥが住んでいた所だし、本人(獣)が良いって言うならいいんだろうか。
それにセーフゾーン内は安全なんだし、念のため食料や水も置いておけば大丈夫か。
そんな感じで、その日はセーフゾーンまで戻ってからログアウトしました。
そして平日の間は、奥の部屋へ行って解読を進めたり、それに飽きたら周辺の魔物を狩ってみたり、あとはパルゥにお願いされて魚を釣ったりなんかもしたかな。結構充実した一週間でした。
そしてこれだけ時間を掛けた甲斐もあって、何とか柱に刻んであった全ての文字の解読が完了しました!
いやあ、結構な作業ボリュームでしたね。心なしか目がシパシパするような気がする。
《【祭壇の間】にある全ての情報を解読しました。報酬とスキルポイントが贈られます──》
お、おお?
えっこれってクエストだったの?
どうやら解読することで何かしらのクエストを達成したらしい。
よく分からないけれど、頑張ったご褒美として遠慮なく頂戴したいと思います。というか報酬って何貰えるんだろう?
[装備]騎獣装備・胴 品質:優 レア:Le
[備考]かつて『技巧神に最も愛された民』とまで言わしめたチブチア族の職人が作った逸品。その騎獣の装飾は神へと奉納される予定であったがそれは遂行されることはなく、遺跡の奥にひっそりと隠されていた。
────ファッ!?!?!?




