24.ハンスとハル
無事名付けも完了し、記念すべき初騎獣のパルゥさんは満足気に顔を洗っておられます。
そっと頭を撫でてみれば、スリスリと手に擦り寄ってくれるというサービス付き。
うぅん、私はモフラーという訳ではないけれどこれは可愛い。次の街へ行ったら必ずパルゥ用のブラシを買わねば。
そんな決意を固めていると、ふとした疑問が頭をよぎった。
──騎獣って街へ入れるんだろうか?
今まで行ったヤヌルカ、アインスベル、ヴァイスの街では見掛けなかったような………いや、荷物を運ぶ騎獣はいたような…?
よく思い出してみても、荷車を牽く騎獣はいてもパルゥのような移動特化、といった雰囲気の騎獣は見ていない気がする。もしかしたら規制とかあったりするのかもしれない。
でも確かに見た目が完全に肉食獣な上にこの巨体である。そんな生き物が街中を自由に闊歩しているというのは、住民からしてみたら結構恐いかもしれない。
ムムム…と悩んではみたものの答えは出ないので、ここは素直に先人の知恵を借りるべき所でしょう。
『冬李兄急にごめんね。あのさ、なんとか騎獣ゲットできたんだけど騎獣って普通に街の中に入れるの?』
そのままパルゥを撫でつつ待っていると、それほど間を空けることもなく返事が返ってきた。
『え、もう捕まえたの?早くない???』
『そうかな?でもめちゃめちゃ大変だったよ…』
『お疲れ様w街に入るときは牧場で預かってもらう形になるね。牧場に騎獣を登録すると【騎獣の指輪】っていうのが貰えるから、その指輪を通して召喚・送還が出来る仕組みになってるみたいだね』
『なるほど了解。あ、遅くなったけどフュント初到達おめでとう!』
『いやナツのおかげだからwでもありがとう。そういえば騎獣捕まえたってことはまだその辺にいたりする?そこからならフュントの方が近いから、こっちで牧場登録したら?来るなら案内するよ』
『ならそうしようかな。そういえばRFOの中でまだ会ってなかったもんね』
『そうだよ!椿ばっかり会いに行ってズルくない?じゃあフュントの門の前で待ってるから、着いたらまた連絡してくれる?』
「了解っと」
なるほど、騎獣はちゃんと預かりシステムがあるらしい。どうりで街中ではあまり見掛けない訳である。たぶん荷車を牽く騎獣も、荷物を降ろすなり何なりした後はすぐに帰還させていたんだろう。
さて、ではとりあえずはフュントへ向かうとしますか。
このまま遺跡を探したい気持ちは勿論あるけれど、消耗品やらがちょっと心許なかったので丁度いいしね。
しかし冬李兄に軽くそっち行くねーと言ったはいいものの、よく考えたら私はフュントまで無事に辿り着けるんだろうか…?
一応フュントは現状最前線の街になるのだけれど。
………。
ま、まぁなるようにしかならないでしょう!
パルゥも隠密が得意って書いてあったし、私も〈気配希釈〉と〈隠密〉をガッツリ使っていけば逝ける逝ける!
おっと誤字誤字……
「パルゥ、行くぞ」
「グルr」
いざ行かん、フュントの街へ!
◇
「ハァッ……ハァッ………!」
し、しんど………っ!
何とか無事にフュントまで辿り着いたものの、割と満身創痍である。
いや戦闘は全て避けて来たのでHP自体は満タンなんだけれども。
話に聞いていた通り、とにかく敵の数が多かった。数が増えれば相手の索敵範囲も広がる。なので時には木に登り、時には川を泳ぎ、時には全力で走り抜けたりと、とにかく波乱万丈であったことは間違いない。
故の満身創痍というわけである。
その代わり〈騎乗〉のスキルがこの短時間でめちゃめちゃ上がったのは僥倖です。
あ、そうそうパルゥをゲットしたときに、ちゃっかり〈騎乗〉のスキルも習得していた。まあ無いと困るもんね。
そうして何とかフュントの街に着いたわけだけど、冬李兄はどこだろうか?
聞いたところ冬李兄は魔人族を選んだらしいので、とりあえず角の生えた人物を探す。
(えーっと、確か髪色は薄紫でヤギっぽい二本角だったはず……)
それとなく周りを見渡してみると、門から少し離れた所に微妙な人集りができていた。
ガッツリ人が集まっているというよりは、ちょっと遠巻きにしながらチラチラと何かを窺っている感じ。まあ何かっていうか冬李兄たちなんですけどね。
(あーー……冬李兄の隣にいるのたぶん隼人くんだろうなぁ。確か二人のクランって結構有名なんだっけか。うぅん、あそこに突っ込むのはちょっとなぁ…)
チキンな私は大人しくメッセージを送る。
『冬李兄たちは人気者だね!帰っていいですか?』
メッセージが届いたらしく、空中で指をスライドさせていた冬李兄がギョッとしている。
『ダメだよ!?ようやく会えるのに!!帰っちゃダメだからね!?っていうか今ドコ!?!?』
とんだ慌てっぷりである。
いきなり挙動不審になった兄に隣にいる友人の隼人くんも怪訝そうだ。
『冗談だよ。とりあえず人が多いからちょっと門から離れてもらってもいい?後ろから着いて行くから』
『あ~ごめん、了解。それならそのまま牧場まで移動するよ。ちゃんと着いてきてね?絶対ちゃんと着いてきてね!?』
心配し過ぎである。
ちゃんと着いて行く旨を伝えると、安心したのか二人が移動を始めた。周りにいたプレイヤーたちもさすがに一緒に移動したりはしないようで、そのまま離れて行く。まぁあまりにも付き纏いなどが酷いようであれば、ちゃんと通報すれば運営も対処してくれるそうなのでその辺は安心できる。
そうして、牧場の入口っぽい所で足を止めた二人にようやく話し掛けることができた。
「よォ」
「え、………………えっ!?!?!?」
「お前、ナt……いや、ジュカ、か?」
「フン。あァ、ジュカだぜ?」
「「マジかよ……」」
姉たちと同じ反応な辺り、仲良しなのが伝わってきて大変良いと思います。
とりあえずは周りに会話を聞かれないようにパーティー申請を飛ばしておく。あ、隼人くんにはフレンド申請も飛ばしておこう。
改めて自己紹介をしてみれば、兄はゲームをするときにいつも使う“ハンス”という名前で魔人族を選んだらしい。薄紫…というかラベンダー色の髪の毛に椿と同じ赤い瞳、そして蟀谷の上辺りからCの文字を描くように生えた魔人族の特徴である立派な角を生やしたややタレ目の美青年である。
そして兄の友人である隼人くんは、“ハル”という名前でこちらも魔人族。紺色の髪に金色の目、そして真っ黒な角を生やしたこちらも立派なイケメンである。つり目がちな目とオールバックの前髪に細い眉というやや強面な印象はあるけれど、中身は苦労性気味なオカン気質の青年である。
そんな隼人くんの想い人は何気に冬華姉だったりする。
本人には微塵も気付かれていないどころか、早百合さんの妄想の賜物である隼人×冬李を若干信じられている節すらあるので、何とも報われない人でもある。
一応応援はしているので、めげずに頑張って欲しい。
でもそんな二人の掛け合いは見ていて非常に面白……癒されるので、これからも見守って行きたいと思う。
閑話休題。
「いやぁ~それにしても化けたねぇ。……いやでもよく見るとナツの面影結構残ってる?」
「あー…もしかしてアレか、男体化か。つーか冬李にも結構似てんな」
「そうそう。細かい所はちょっと弄ってるけどね」
「弟がいたらこうなるんだ~って感じだね。それにしても顔がいいな……さすがナツ」
「てかその顔と声で普段のナツの喋り方だと違和感スゲーな」
「あ?なんだ文句でもあンのか?」
「いきなり輩になるじゃんwww」
「今度は似合いすぎだわ」
いやあパーティー会話って便利。
普通に会話してても周りには何を話してるのかは聞き取れないという仕様なので、キャラ崩壊を心配することなく話すことができる。
この二人?今更なので問題はないですね。
このあとハンスがSSを撮りたいと言い出したので、大人しく撮られておく。
うちの双子は二卵性のため別に容姿が似ているわけではないのだけれど、実のところ性質的なものはかなり似ていると思う。
性格は冬李は“しっかり”で冬華は“ほわほわ”といった感じだけれど、実はアバターの顔はお互いの顔をイメージして作っていたり、合わせた訳ではないのに瞳の色は同じだったりする。
そしてやたらと私を可愛がってくれている所も同じ。
双子の友人たちも良くしてくれるし、改めて身内に恵まれているなぁと感謝する私なのでした。




