9.洞窟の先で待っていたのは
洞窟の先に進んで見ると、いくつかの分かれ道に行き当たった。
こういった場所は隅々まで探索したくなるタイプなので、一つずつ丁寧に確認していく。出てくる敵はほぼワイルドドッグだったので、もう既に慣れたものである。
(ワイルドドッグがいる以外何もないんだけど……)
流石に狭い洞窟の中で複数で来られると辛いものがあるので、そこは一匹ずつ狭い道へ誘導することで事なきを得た。
3つほどの分かれ道を確認し終わると、一番奥に一際大きな空間が広がっているのが確認できる。おそらくここがボス部屋だと思う。
案外あっさりとした洞窟だったな、と思いつつ中を覗いて見る。
[魔物]はぐれコボルト Lv.13
おっとぉ?
一応ここまでの道中でレベルは上がっているけれど、現在のレベルは8である。
5レベ差かぁ……
いけるかな?どうかな?というかそもそもコボルトってギルドの資料にも載ってなかったんですけど?
あれか、はぐれって付くくらいだから、本来なら此処にはいない魔物なんだけど、たまたまどこかから流れて来て此処に居着いちゃったって感じなのかな。
ハッ!もしかしてこの辺にワイルドドッグがやたら多いのって、こいつが使役というか統率していたとかそういうオチなのでは?
果たしてコボルトにそんな能力があるのかなんて知らないけれど、同じ犬系統ではあるし…
もう一度コボルトをよく見てみる。
コボルトと言えば、作品によっては二足歩行の犬だったり、犬頭に人間の身体だったりと様々ではあるけれど、最近では割と愛嬌があったりもふもふ枠で描かれたりしていることが多い気がする。
ではこのRFOの世界ではどうか。
答えは犬の頭になんかゴブリンっぽい体、何かしらの毛皮を纏ってはいるが本人(?)に頭と貧相な尻尾以外の毛は生えていない。
はい、まごうことなき魔物です。本当にありがとうございました。
とりあえず愛らしさは微塵も感じないので、討伐の方向で問題ないだろう。
マーカーを確認すればバッチリ敵性マーカーだったし。
コボルトのいる空間は広いとは言っても、あくまで部屋としてはと注釈が付く。距離をとって戦うことは出来なくはないけれど、それは相手が動かなかった場合のみである。しかも障害物もないため、身を隠しながら戦うのも無理。
あと食べた後の残骸か何かなのか、そこら中に小さな骨が転がっている。
(まずは先手必勝──!)
今は何かを貪り食っている奴の背後に回り、魔法を展開する。
風魔法がLv.5になって覚えた【ウインドアロー】を杖の先に浮かべる。
【ウインドアロー】はボール系よりも射程距離が長く、しかも複数飛ばせるので多段ヒットになるのが良い所。
ただし動きが直線的なため避けられやすいのが難点かな。
しかし不意打ちには最適!とばかりに、はぐれコボルトへ魔法を撃ち込んだ。
グガァッ!と悲痛な叫びを上げるも、すぐに側にあった武器を手に取り振り返るはぐれコボルト。
って2割しか減ってないの!?
思わぬ敵の硬さに内心焦りを覚えるものの、相手は既に攻撃モーションに入っている。
ごっつい大剣のような武器を思い切り振り回し、地面を叩きつけながら近付いてくる。切れ味は悪そうだけれど、叩き潰すという鈍器のような使い方では威力を発揮しそうな武器である。
救いなのは割と攻撃が大振りなこと。
武器を振っているというよりは振られているといった感じで、結構隙は多そうに見える。もしかしたら武器に対して筋力が足りていない感じなのかもしれない。
でも当たったら大惨事になる気がする。
もしや振り回されているように見えて、実はガッツリ体重をかけた攻撃なのでは?
とりあえずバックステップで攻撃を避けながら隙を伺う。
ガギンッと両手で剣を振り下ろして硬直した隙に、距離を取って魔法を撃つ。
「チッ、硬すぎンだろっ」
魔法弱いよ!1割も減らないよ!
いや、逆に考えるんだ。今ので相手の体力は3割近くは削れている。つまり、魔法をあと10発も当てれば勝てるということ!
気合いを入れ直した所に剣の風圧が頬を掠める。
あっっぶな!!
くそっこいつ剣は大振りの癖にスタミナ多いな!
剣を振るにしても魔法を撃つにしても、身体を動かすにはスタミナがいる。
このはぐれコボルトは剣を振り回してはジャンプして回転切り。着地からの切り上げ、さらにそのまま回転してからの振り下ろし攻撃、と中々魔法を撃ち込むチャンスがない。
魔法を詠唱ゲージの短いボール系に変えて、隙を見ては相手の体力をちまちま削っていく。
何度目かの剣撃を避けていると、足元の骨に足を取られ体勢を崩す。
「しまっ…!」
そこへ無慈悲にも剣が振り下ろされた。
痛っっった!!!
4割て!一撃が重すぎでは!?
あわてて部屋の隅まで走りポーションを飲む。
近付くのは危険。いつもなら杖でカウンター狙って近距離戦もやっていたけれど、これは無理。というかあの武器に当たったら杖が折れそう。この杖ただの木だし。
でも途中で取った〈跳躍〉がここにきてめちゃくちゃ活躍している。これは縦方向のジャンプだけじゃなくて、横方向やバックステップにも補正が掛かっているらしくかなり助かっているのだ。
幸い相手に遠距離攻撃はなく、ひたすら剣を振り回してくるだけなので当たらなければどうとでもなる。そう、当たらなければね!(被弾済み)
(1、2、3……ここでバックステップ!)
何とか必死に攻撃をかわしていく。
かわしていく中で剣を両手で構えた攻撃の後は一瞬隙が生まれることに気が付いた。
その瞬間を狙って魔法を打ち込み、最後のHPを削り切る。
「グGAアaaァa…a……」
はぐれコボルトの身体が光の粒子となって消えて行く…
「はぁー……」
ドサッと頭をがしがしと掻きながら地面に腰を下ろす。
いやぁしんどかった。でもこの強敵を倒したときの達成感はいつやっても堪らない。
にんまりと嗤い、喉をグルグル鳴らしながら余韻に浸る。
ジュカなりの戦い方のイメージも、おおよそではあるが掴めてきた気がする。
さぁて、次は何をしに行こうか。
◇
「えぇっ!ジュカくんあのはぐれコボルトソロで倒して来ちゃったの!?」
ところ変わり姉と友人たちの店『Viola』にやって来た。
はぐれコボルトを倒したときに出たドロップ品を、防具を作る際の足しにでもしてもらおうと思って持ってきたのだ。なので今回は裏の作業部屋の方にお邪魔している。キャロさんとユリさんは表で接客中だって。
「あァ、そうだが?」
「いやそうだが?って…。はぐれコボルトって一撃が重い上に動き回るから、最初の内はパーティーでもキツイって聞くよ?ジュカくんメインの武器って何でやってるんだっけ?」
「魔法」
「え?」
「魔法」
「ええ?」
「ンだよ、何か文句でもあんのか」
「何言ってんだこいつ」みたいな目で見てくる姉をギロリと睨み付けてやれば、アワアワしながら弁明してきた。
「いやだって獣人族は狐人族以外は魔法っていまいちじゃない?補助として使うならまだしもメインって……結構、いやかなりキツくない?」
「まァ確かに火力は足りてねぇかもしれねェが、ンなもん攻撃当ててりゃいつかは倒せンだろ」
「えぇ~……まぁ、そう、なのかなぁ?」
どことなく懐疑的な姉ではあるが、「まあジュカくんPS高いもんねえ…」ということで納得したらしい。
「っていうか危なかった!完全にジュカくん戦士のイメージで防具作ろうとしてた!」
よくよく考えてみれば、確かに姉に魔法使いをメインでやることは伝えていなかったような気がする。
戦闘スタイルを考えれば雑魚敵相手には近接戦闘になることもあるので、革を使った軽鎧ぐらいにしてもいいかもしれないが、少ない知力を補えるような布装備というのも捨てがたい。
うーむ。攻撃は基本避けていくことを前提に考えれば、ここは布装備でいくべきか…
「今さらだが、知力を補える布装備で頼む」
「う~ん、だよねぇ。オッケーもう一度デザイン練ってみるね!」
姉にドロップ品を預け、店を後にする。
防具を新調するなら杖も新調してもいいかもしれない。
一応はぐれコボルトからは武器もドロップしていたけれど、『古びた大剣』という無用の長物であったので、売り飛ばすかインベントリの肥やしになるかの二択である。
『Viola』のある南地区は街の商業区に当たるらしく、周りを見れば他のプレイヤーの店や住人がやっている店が軒を連ねている。
始まりの街で店を出すには賃貸で借りるしかなく、土地を買うことは出来ないらしい。
土地を買うことが出来るのは次の街からになるそうだが、人や物流は安定しているが物価が高いのがネックなのだとか。家賃を払っても始まりの街の方が安いので、ここで資金を稼いでから次の街に行くことを目標としている生産プレイヤーは多いとのこと。
そんな南地区をそぞろ歩きながら店を冷やかす。
そういえば折角〈釣り〉スキルを取ったのに、まだ釣竿すら買っていなかった。
戦闘も楽しいし、この世界を知って見て回るのも楽しい。
そして何より、この“ジュカ”というキャラクターを作り上げていく一瞬一瞬が最高に楽しい。
まだまだやりたいことが山盛りで終わる気がしない、だなんてなんとも贅沢な悩みである。




