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Add. 在位一周年記念の夜会にて 1

 たくさんの方にご覧いただき、ありがとうございます。

 たった一つ書き足りなかったことを補充するため、ちょっくら一年後の世界を更新しました。

 必須ではないけれど、言いたかったことをセーデン公に託し…。


 新国王在位一周年を記念した式典が催され、その夜、王家主催の夜会が行われた。


 前王の弟クストは兄の病により王代理を務めていたが、王の子供がまだ若く、かつその婚約でトラブルを起こしたこともあり、代わって正式に王位を継いだ。


 聖女の力で一時的に病から回復した前王のセーデン公は、当初自らを救った聖女と名目だけの結婚をしていたが、自らの意思で婚姻を継続し、今ではおしどり夫婦として有名になっている。

 聖なる力でどれくらい延命できるか不安視され、王位を退いたセーデン公だが、聖女だったセレナと共に暮らす間に体調は更に整い、引退する必要はなかったのではないかと思われるほど元気に暮らしている。本当にセレナは聖なる力を失ったのか疑問視する者もいたが、聖堂で確認すると確かに力はなくなっており、聖女に復帰することはなかった。


 第一王子の元婚約者で、王位継承のもめごとの種でもあったセレナは、王子に遠慮して王城に上がることは避けていたが、夫の弟の在位記念の会に参加しないというわけにもいかず、夫セーデン公と共に久々に王城へと足を向けた。


 かつてのセレナを知る者は、その姿を見て驚いた。

 派手さはないが落ち着いた色合いのドレスを身にまとい、エスコートする夫も同系色の色でまとめていた。二人が寄り添う姿には違和感がなく、年が離れている事を感じさせなかった。

 第一王子の婚約者だった頃は、あれほどみすぼらしく、王城で何を学んでもちんぷんかんぷんな顔をしていたセレナだったが、今や公爵夫人であることを疑う者はいなかった。


「父上、よくお越しくださいました。義母上もお元気そうで」

 第二王子リクハルドとその婚約者マティルダが声をかけてきた。

「ハハウエはないでしょ? 私より年上のくせに」

 口を開いた途端、やはりあのセレナだ、とリクハルドは少し安心して笑みを見せた。

 兄との相容れない婚約に周りから嫌がらせを受けてもへこたれず、最後は見事婚約解消をもぎ取った元聖女。父の命を救ってくれた恩人でもある。少々がさつなところはあったが、母の影響で平民に偏見を持つ兄にその自覚を与え、優秀なメルヴィ・ハールス伯爵令嬢を王城に引き込んでくれた。

 メルヴィは女性の少ない今の王家で、自分の婚約者の良い相談役になってくれており、リクハルドはセレナに感謝の念を抱いていた。



 ヘンリとリクハルドの母は、父が城下に行くたびに平民との浮気を疑っていた。

「下賤な者と交わるなどもってのほか。自らに流れる高貴な血に誇りを持つのです」

 ヘンリは母の言葉をそのまま受け取り、その教えを頑なに守っていた。

 次期王として母に期待されていた兄のヘンリと違い、さほど母に縛られなかったリクハルドは、時に父と共に市井の人々と交流を持つこともあった。王位を望むこともなく、兄が王位に就いた時には王の力になれるよう国政を学びながらも常に一歩引き、決して出しゃばらないように心がけていた。


 ヘンリは自分が次の王になることを疑っていなかったが、自らが起こした婚約解消の騒動のため、今やヘンリが王位を継ぐことになるかはわからない状態だ。

  民を重用するかどうかはその人の能力次第だが、少なくとも偏見を持たぬ事。

 謹慎を言い渡される前に父王から言われた言葉を、ヘンリは頭の中で繰り返した。


 しかし、父が病が癒えた後もあのセレナとの婚姻を解消せず、婚姻終了後の取り決めをいち早く無効にしたことは、ヘンリには理解できなかった。

 セレナが潔く城からいなくなった時、正直ほっとした。あんな女が自分の周りに居着くことなど、どうしても許せなかった。

 金目当てではなく、父を治してくれた恩人。そこまでは評価に値したが、病の治療と同時に父に媚薬でも盛ったのではないかと疑わずにはいられなかった。あるいは母の言うとおり、父は市井の女の方が好みなのかも知れない。

 卑しい女の誘惑に負けた父は、王としての手腕には尊敬を抱いても、父としては最低の男にしか見えなかった。


 父が叔父に王位を譲ったことは理解でき、尊敬している叔父であれば全く問題は感じなかった。後は叔父に後継者として認められるよう、精進していけばいい。

 そう思いながら、叔父と共に国政に携わる中、補佐の一人としてメルヴィがあてがわれた。

 聖女が王城で働くなど異例のことだったが、王クストとメルヴィの父ハールス伯爵の強い後押しがあったと聞く。

 セレナと三人でお茶の時間を持つことがあったが、メルヴィの知見は広く、セレナに対する解説を聞いていても物事を深く理解していることがよくわかった。

 こういう人が婚約者であったなら。そう思っていたが、実際に補佐になると手強かった。

 セレナの教育係の時には見せなかった鋭い指摘をヘンリに対して向け、意見が衝突してもなかなか引かず、納得いくまで議論をしたがる。決して厳しい口調ではなかったが、何度か自分の提案を塗り替えられるうちに、不快さと反抗心を持つようになっていた。


 ヘンリの周囲にいる他の補佐達もメルヴィを悪く言うのを聞いた時、自分だけがわだかまりを持っていたのではなかった、と安心した。

「おまえは意見を述べるだけの立場だろう。決定権は私にある」

 ヘンリがそう発言してから、メルヴィは言い争いを避け、意見だけを添えるようにしたが、メルヴィを打ち負かした爽快感と、周囲の者が仕事がしやすくなったと評するのを聞き、自分は間違えていない、と確信した。

 

 王都の中央道の補修に予算の申請があり、了承しようとした時、

「殿下。中央道の補修は昨年も行いましたし、大きな支障が出ているわけではありません。それより、東部の街道の整備が難航し、遅れが出ています。こちらを優先すべきかと思われますが」

 そう進言してきたメルヴィは、声も小さく、表情をこわばらせていた。そこへ補佐の一人であるエディが、

「排水路の整備がまだ残っています。あの辺りは侯爵様・伯爵様のお屋敷も多く、皆様の利便を考えると後回しにする必要はないのでは」

と進言すると、ヘンリはすぐに

「そうだな」

と頷き、そのまま承諾のサインをした。メルヴィは黙って一礼をして部屋を出て行った。


 その書類を目にした王が、

「…東部の街道の改修の進捗率は?」

と、側近に質問をした。

「は。土壌の関係で遅れが出ており、まだ予定の半分にも至ってないかと」

「王都の排水路で水があふれているとは聞かないが?」

「…私も聞き及んでおりません」

「ヘンリの所で、東部の街道のことに気付いた者はいないのか…」

  東部街道の遅れを調べ、優先を決めるよう。

 差し戻された稟議書を見て、ヘンリはメルヴィの意見を聞いておけば良かったと思う反面、すぐに自分の意見を取り下げたメルヴィに不快感を覚えた。もっとちゃんと意見を言えばいいのに。以前ならうるさいくらいに自分に食らいついて来たのに、肝心なときには役に立たない。

 メルヴィならこの件に詳しいだろうと、指名して追加調査をするよう命じた。黙礼して去って行く姿が自分を責めているように思えた。


 王都の排水路を巡っては、進言してきたエディの父が友人である工事業者に頼まれていたことがわかった。費用も水増しされており、エディは王子付から外された。


 そしてメルヴィも王子付を外れた。

 間を置かず提出された東部街道に関する報告を見て、クストが報告者であるメルヴィを呼び出し、二、三質問をした後、自ら引き抜いたのだ。

 元々メルヴィの優秀さは耳にしていた。ヘンリ王子の元でその力を発揮するかと思っていたが、会うたびに暗い顔をするようになり、時には建物の影で涙ぐんでいた。女性官吏が多くない中、相談する相手も少なく、ヘンリの補佐役達の妬みも買っていた。ヘンリにこの状況を打破する力はなく、このままでは潰されてしまうだろう。

 異動の理由を、リクハルドの婚約者の相談役に、と言うと、ヘンリも納得したようだった。


 メルヴィも少しづつ自信を取り戻し、相談役の仕事だけでなく王を補佐する仕事をそれとなく任せると喜んで取り組んでいた。

 率直な意見を聞きたい、と言うとさすがにヘンリのことが堪えていたのか、口を噤むことが多かったが、書面で意見を求めると、クストでさえ感心するようなひらめきを見せることがあった。


 ヘンリがハルハーゲン侯爵令嬢を婚約者に選んだとき、メルヴィは心底ほっとした顔をしていた。

  あんなに傍にいたのに選ばれないなんて

  でしゃばるから愛想をつかされたのだろう

  残念だったな

 周囲の声など、メルヴィには全く響いていなかった。かつてセレナと共にお茶会に参加しながら、ふと感じていた違和感を思い出し、自分が王子に選ばれなかったことを女神に感謝した。



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