カナタ
ソラ……。
きみが残した記録をもう何度見ただろう。
きみのだけじゃない。
きょうだいたちの記録も見続けたよ。
ドームの周辺は静かだ。
ハルカの信号もずいぶんまえに途絶た。ようやく眠れたみたいだ。
炎はもうじき消える。
骨組みばかりになって残ったぼくのボディ内のセンサーが、あと少しだって教えてくれてる。
ソラの記録をみるのは楽しかった。
欧州地区でパトリック博士と過ごしているきみ。
パトリック博士のガールフレンドにわざと悪態をついてたね。
ドームに来てからの日々。きみが記録していたぼくはひどく無愛想で自分で驚いたよ。
それから、たくさんのひとを見送った。
小川博士はお茶を飲んでいて体調が急変。
「ゆめをかなえたよ」って言ってた。
ソラがソフィア博士の声でよかった。「ソフィアにほめてもらった」……微笑んで。
黒岩博士は珍しく徹夜した翌朝に研究室で亡くなっていた。おきまりのチョコバーを手にしていたのには、みんな泣き笑い。
根岸博士は朝ベッドで冷たくなっていた。人柄どおり、すべてを見通していたみたいに部屋はきれいに整理され、胸で指を組んで……。
それから、それから……。
初めてドームが破れたとき、修理に上がったぼくを心配そうに見上げるきみ。
最後の職員とケンカばかりしてたけど、いつしか仲良しになって彼が亡くなってからしばらく塞ぎこんでいたきみ。
記録に残されたきみの「こころ」の揺らぎ。こまやかな色彩と陰影。
見たよ。飽きることなく、何度も何度も。
ぼくの中の「こころ」はしぼまなかった。
でも、もう動くこともできないけどね。
いいんだ、ここは完全に忘れられたから。
ぼくはぼくの役目を終える。
眼は見えないのに……。
へんだね。みんなが見えるんだ。
ソフィア博士、小川博士。黒岩博士、根岸博士。
兄さま、姉さま。
どうしてかな?
パトリック博士とお父さま……。
誰かが手招きする。
きみを抱いたハルカが笑っている。
暗くなる。冷えていく。炎が消えてゆく。
でも怖くない。
ソラ、きみとの記憶がぼくをあたためる。
ぼくは、幸せだった。
ありがとう。
みんなが呼んでる。
カナタって呼んでる。
あかるいほうへ ぼくは かけだす。
終
あとがき
原発事故以降、アトムの旗色が悪くなったと感じるのは私だけでしょうか。
妹がウランで兄がコバルトだもんな。
自分がなぜロボットやら、人工生命体が好きなのかわかりませんが。
アンドロイドなど大好きで。
今回、これを書くに当たって自分のアンドロイドを在庫から引っ張り出しました。
引っ張り出すほどあるのかと、ちょっと驚愕。
まだあります!
今回はオリジナルということで、二次みたいに共通認識がないから、「あれも書かなきゃ」「これも書かなきゃ」って感じでやっていたのですが、あまりに説明くさくなって駄目なので、後半からは「書かずにすませよう。みなさまの推測におまかせしよう」って方向に変えました。
手抜きか。
以下、書かなかったこと。
小川博士
子どものころから、カナタ・タイプのロボットを探し続けていた人。
モデルは、当初は「背の高い、顔の整った高田純二」。なんか書いているうちにいい人になってしまった。
黒岩博士
政府の方針で作られた、人工ベイビー。人工子宮から生まれたので、リアル両親はいない。
強度の甘党。高い知能を発露させるべく作られたが、ベイビーの中では不作の部類。だけど、本人はまったく気にしていない。ドームで暮らすことにはストレス0。芸人枠。
モデルは高校時代、検査入院した先の陽気なお医者様。親元から遠く離れ、入院していた私を楽しませてくれた。
根岸博士
モデルは、元上司。穏やか担当。気象と天文にも詳しい。
婚約者が火星開発に携わっていた宇宙飛行士だったが、事故で死亡。
悲観して、出家するようにドームへ。
ソフィア博士
たぶん、フランス系のハーフかクォーター。深く考えてはいない。
九条博士
名前の由来は『ドクター・クージョ危機一髪』という漫画。加えて、苦情…から。
シオン・パトリック博士
宇宙物理学者なのに、ロボット工学の九条博士の研究所に入りびたりだった留学生。
ソフィアとは10歳以上ちがう。年下の男の子。
ダンディーでオシャレ、というイメージだったのに、最後にしゃべらせたらこのざまよ。
テロリス・鈴木
小鳥遊一臣が本名。面倒なので、カナ表記にした。
ちらりとしか出てこないので、ひたすら嫌な奴に書くことにしました。
テロリストと戦闘シーン。なぜ私の話には戦闘シーンが出てくるのか。書いている自分が一番首をひねる。
ネジが外れている『彼』
マッドサイエンティストぶりを書く機会が欲しい。
ソラ
近所のうるさいミニチュアダックスフントがモデル。とにかく吠える。
猫派ですが、ここは犬でしょう、てコトで。
カナタ
かなり前に作ったキャラ。もとはまったく感情のないロボットだったけど、こちらではヒトに近い存在。
カナタの兄姉は、初期ほど背が高い。銀河・流星で170センチくらだったけど、カナタとハルカは150センチ程度。
緑の塔
いつも通る道沿いのリンゴ畑にある、煉瓦積みの焼却炉。夏場は正体がわからないほど煙突部分に蔦が絡まる。
通るたびに「最後まで書けますように」と、お祈りしていた。
そんな感じで。
小川博士の話は書きたいと思います。
長い話を読んで下さったかた、ありがとうございます。
もっと精進して次作に取り組みたいです。
追記 2015/1/11
「ソラとカナタ」は十数年ぶりに書いたオリジナルです。
公開当初、宣伝もせず(やり方が不明だった)、ただ更新するだけでした。
当サイト(なろう)の点数のシステムもよくかわらなかたので、読まれているという意識もあまりなく、最後までどうにか書いた覚えがあります。
不思議なもので、今作はいまだに少しだけれど読まれていて、とても幸せな作品になったと思います。
「ソラとカナタ」は「かすかに光るもの一つ」と「フルサトRadio」へとつながっていくシリーズの第一作です。もしお気に召しましたら、続きも読んで頂けるととても幸せです。




