ソラ
それから。
カナタはよく笑い、よく泣くようになって……。
数えきれないくらいの年つきを過ごした。
いま、ドームにはわたしたちしかいない。
「カナタ……」
「なに?」
「今は朝よね。暗いわ。それに雨降りなのかしら。雨があたる」
ドームの天井はとうに破け落ち、樹海に沈んでだいぶ経つから。
「カナタ、わたしヒドイ格好でしょう? みんなが作ってくれたパーツも使い尽くして。体毛だってもうないし」
「そんなことないよ」
カナタは膝のうえのわたしをなでた。
「体も動かせない。それに……もうあなたの顔が見えないの」
ああ、また雨粒。
わかっている。
わたしの中の自律システムはもうすぐ止まる。
そうなったら、カナタ。
あなたを一人きりにしてしまう。
「八百年くらい?」
「うん」
一緒にいられたのは。
「あとどれくらい?」
「数万年……それまでもつかな」
胸の炎はまだ消えない。
それでもずいぶん微弱になった。施設の発電装置はドームのゲートを固く閉ざすことと、カナタへ電力を送るばかり。
「火星や月へだいぶ移住したから」
たぶんわざわざここを訪れる人も、襲い来るテロリストもいない。
そうしたら、カナタは自由になれるかしら。
「先に行くね。待ってる……」
体が冷えていく。
あたたかい雨粒が体にあたる。
「さよなら、カナタ。だいすき」
すべてが……止まる。




