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12話

「残念だけれど、あなたに『呪い』の気配はないわ」



 聖剣、聖鎧は『呪い』ではないとアナマリアは告げる。



「そもそも、『呪い』とは生物としてのランクが同じ相手にかけるもの。人から人へ、『魔なる者』から人へ、『魔なる者』から『魔なる者』へ……神から人へかけられたものは、どれほど呪いのような性質を持っていたとしても、もはや『呪い』とは呼べません」



 だから、聖剣、聖鎧をルシアンの魂から剥がすことはできないのだと。


 ……この答えを聞いてレベッカは残念そうな顔をしていた。

 けれどルシアンは特に反応を示さない。


 やっぱり、という感が強い。

 そして、続いてアナマリアが述べる言葉にも、おどろきは覚えなかった。



「神が授けたものであれば、神に還すことで解除できると思いますわ。……『聖剣』と『聖鎧』を最初に授かった場所からならば、きっと、それら武具を返還できるのではないかしら?」



 ルシアンは舌打ちをする。

 ……それは、唯一、レベッカに告げなかった『聖剣、聖鎧を外せる可能性』だったからだ。


 なぜ、告げなかったのか?


 理由は明白だ。

 聖剣、聖鎧を授かった場所は、大陸にある。


 つまり監獄島から出なければならなくって――





「ルシアンさん、監獄島を出ましょう!」



 ほら、来た。


 ねぐらにしている洞窟へ戻ったルシアンは、あまりにも予想通りの展開に眉をひそめる。


 夜のとばりが落ちていた。

 レベッカの前には、先ほどまで食事の盛られていた容器が転がっていて、食べた物のかすが彼女のほっぺたにはくっついている。


 ルシアンは洞窟の壁に背中をあずけ、壁に差した灯りを見ながら――



「……オレは、お前を七日間……『迎え』が来るまで保護する。お前が監獄島内で行きたい場所があれば、ついていって、守ってやる。目を離すとすぐ死にそうだからな」

「……ごめんなさい。私、実際に、ルシアンさんがいなければ、死んでいました。重ね重ね、助けてもらって、ありがとうございます」

「それはいい。……時代遅れの考えかも知れねぇが、オレは色々理由をつけて動かない連中よりも、弱さも愚かさもわかったうえで、死への道を舗装していくヤツの方が好きだ」

「私のこと、『好き』って?」

「……うるせぇ。調子に乗るな。懐くな。めんどくせぇ」

「ふえええ……ちょ、ちょっと甘えると容赦がない……」

「……だが、島の外に出るとなれば話は別だ。お前は今のところ罪人じゃねぇが、オレを連れ出せばその時点で本当の罪人だ」

「……その『罪人』についてなんですけど……」

「『あなたも冤罪で捕まっている』という話をオレにするなよ。それは『オレを語るな』という約束に反する」

「……それもありますけど……今は、『罪人』の意味が、あなたが外にいた時とはまた違うんです。えっと、世界の状況にかかわってくるんですけど……」

「じゃあ聞かせるな」

「なにもお話しできないじゃないですか!」

「……いいんだよ。情報なんぞ、いらねぇ。それはアナマリアの放つモノより強烈な毒だ。オレに情報をもたらすモノ、オレを無駄に生かすモノに、オレはなんであれ憎悪を持ってあたっている」

「憎悪って……」

「情報はストレスだ。平穏に生きてぇなら、あらゆる情報を遮断して生きるに限る。……そうだな、オレの心情とは別なところで、いかにオレをこの島から出すのが難しいか、お前に情報(どく)をくれてやろう」

「言い方が意地悪だ……」



 レベッカがいじけたように頬をふくらませる。

 ルシアンはため息をついて、



「この島には『触れるべきでない罪人(アンタッチャブル)』が三人いると言ったな?」

「はい。そのうち二人は、アナマリアさんと、ルシアンさんですよね?」

「三人目はこの島の監督官だ。……三人目っていうか入島順で言えば『一人目』だがな」

「……え? あ、そういえば――いるんですよね、そういう人が」

「まあ、存在感はねぇからな。たった二日過ごしただけでも、この島がいかに無秩序かわかったろう? 監獄の監督官が『規律』を司る存在なら、島の監督官は役目を果たせてねぇ」

「はい……」

「殺しを容認し、罪人がコミュニティを築いてナワバリを作るのを容認し、ナワバリ争いでたまに死人が出ることも――罪人同士の戦争と、それに伴う勢力拡大をも容認している」

「監督できてないじゃないですか!」

「そうだな。その監督官が罪人どもに守らせる規律はただ一つ。『刑期を終えるまで島からは出ないこと』。それは『こんな島でも刑期を終えれば出島(しゅっとう)できる』という意味でもあり――『脱獄は決してできない』という意味でもある」

「……でも、その人も罪人なんですよね?」

「そうだ。『無期懲役』だがな」

「……無期って」

「オレがいる前からすでにいて、オレが死んだあとも居続けると言われる――種族は、『魔なる者』」

「……え? そ、それって、ルシアンさんが戦争の時に戦った……?」

「そうだ。『存在』が罪とされ永遠にこの島の管理を任され、なぜかその決定に従い続ける『魔なる者』の、今となっては唯一の生き残りだろう『島の番人』。刑期を終えずに出るなら、そいつを倒さなきゃならねぇ。ただし――」

「……」

「――島の罪人が束になったって、そいつには敵わねぇだろうがな」

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