08:温度差
中央広場にやってきたダオスとミーシャだが、『メイデン』の血盟主であるミーシャが居る事から必然的に注目が集まる。これはダオスの読み通りである。女性のみで構成されている血盟のトップが仮面を付けた怪しい男と会談をしているとなれば注目が集まらないはずが無い。
「それで、話とは何でしょうかミーシャ殿」
「先ほど、到着が遅れていた仲間が死体で届いた。一人は、ナイフで自害していた。一人は、モンスターに喰われて見るも無惨な姿になっていた。一人は、モンスターの腸から溶解されて、骨になっていた。後一人は行方不明だ」
ミーシャが、仲間の死因を上げているがダオスにとっては何ら興味の無い話題だ。赤の他人の死因を初対面の女性からされては、ダオスとて対応に困る。
「私は、『メイデン』の血盟主にお悔やみ申し上げます……と、言えばいいのですか? 縁も縁も無いのに」
「縁も縁も無いか、確かにそうであろう。まぁ、もう少し付き合え」
「仕方ありませんね」
ミーシャが更にエース金貨一枚がダオスに投げた。世間話に付き合うだけで、金が貰えるならば悪くは無いとダオスは、しばらく付き合うことにした。
「でだ。仲間が死んだ場所に彼女達に持たせていた抗魔クリスタルの残骸があった。『メイデン』では、構成員の身の安全を考えて良質な抗魔クリスタルを持たせている。『ダメージ反射』の状況下でこれが砕かれる要因は、少ない」
抗魔クリスタルが砕かれる要因は、バッドステータスに限られる。
魔法を使うモンスターは、2級以上で存在するが絶対数は極めて少ない。死んだ彼女達の側にあるモンスターの死体は、該当しない。それに、自害していた死体が綺麗な状態であった事から、モンスター以外の第三者が居た可能性となるのだ。
「戦闘で砕けた可能性もありますが、恐らくは、その場に居たであろう第三者の可能性でしょう」
ダオスは、平然と第三者の可能性を口にした。ミーシャの目が鋭くなる。
「参考までに伺いたいが、ダオス殿ならばコレと同じ抗魔クリスタルをどの程度で砕ける?」
ミーシャは、死んだ彼女達が持っていた同品質の抗魔クリスタルをダオスに見せた。当然、ダオスは一撃をもって粉砕する自信があるが、それを教える必要性を感じでいなかった。
「何を意味しているか、理解出来ませんね。探索者ならば、言うまでも無くご存じでしょう。個々の能力情報を他人に教えるなど、自殺行為だ。後、今の発言……『ゴスペラーズ』と血盟戦をしたいという事で構いませんな。タワーから出たら、法王庁に申請しましょう」
血盟主自ら、個人の能力情報を売れと言う事は戦端を切られたと言っても過言で無い行為だ。情報とは何処で漏れるか分からない。そして、ダオスのような一芸特化者は、本当に死活問題なのだ。
よって、ダオスは『メイデン』が『ゴスペラーズ』に対して血盟戦がご希望だと理解した。血盟同士の殺し合いは、法王庁に申請してから行う必要がある。そうする事で両者間の殺人行為は、全て許される。
「些か短絡的な思考だな。私は、世間話をしているに過ぎない認識であったが……何かやましい事でもあるのかな?ダオス殿」
「全くありませんな。ただ、ミーシャ殿が私の能力情報を公開しろと脅してくるので、血盟戦がしたいと解釈したまでですよ」
ミーシャは、ダオスの行動原理を計り損ねた。
現場の状況証拠から、彼女達を葬る事が可能であった人物を消去法で考えていた。この泉に来たタイミングからも状況証拠だけならば犯人であろうと確信をもっていた。だから、それが可能な人物か見極めてた上で対応をする予定でいたのだ。
だが、想像以上に頭のネジが飛んでいたのは、想定外だったのだ。
ミーシャ自身も、確かにそういう見方もあるかと思うところもあり強くは言い返せない。
血盟戦ともなれば『メイデン』の被害は、相当な物になるだろう。総勢150名を超える『メイデン』に対して、『ゴスペラーズ』は9名と超少数だ。
しかし、"誓い"持ちの能力は、常軌を逸している。
「――失礼した。先ほどの発言は撤回させて貰おう」
「頭を下げるだけなら猿でも出来る」
ダオスは、血盟主であるミーシャが頭を下げようが全く許す気は無い。
無礼な行いをしておいて、ごめんねと頭を下げて許されるのは子供までだ。大の大人……しかも、血盟主である存在が、頭を下げるだけで許して貰えるなんてお花畑の妄想は、抱いているはずが無いとダオスは確信している。
だからこそ、円満解決の催促を行っているのだ。言葉にせずとも、袖の下があるだろうと。
ミーシャは、顔をあげてダオスを睨む。「食えない奴だな」と小声で文句を言う。ミーシャが次の話題に切り替えようとしたとき、嫌な空気を感じ取りダオスが辺りを見回した。
「悪いが、話はここまでだな。此方を包囲する動き……気にくわない」
「勘が良いな。ダオス殿、単刀直入に言います。アール・メルシェルを返してさえ頂ければ、今回の一件何も無かったことにします。何所で、彼女の素性を知ったかは知りませんが、口外しないと契約魔法を結んで頂けるのでしたら、それなりの金額を渡しましょう」
ダオスは、こういう単刀直入の話は大好きだ。回りくどく時間が掛かるより何倍も良いと思っている。だが、まるで彼女を最初から狙った犯行に思われているのが、不愉快に感じていた。
「悪いが、この私にモンスターを擦り付けて、殺害しようとした愚か者など既に生きてはいない」
両者の間に沈黙が走る。
「――嘘では、ありませんね。では、アール・メルシェルの遺体が何所にあるのでしょうか」
ダオスは、その発言に疑問を感じた。
ミーシャが嘘ではないと確信をもった……両者の間に、信頼関係など皆無だ。お互いがお互いの言葉を信用などしていない。だが、ミーシャは、ダオスの言葉が真実であると確信する要因があった。
考えた末にダオスは、答えにたどり着いた。
ダオスは、使えもしない魔法知識を覚える必要性は、何処にあるだろう疑問を感じていた事があった。だが、『知識は身を助ける』という祖父の言葉を信じ、学ぶことを怠ったことは無かった。
――精霊魔法。
ミーシャは、精霊魔法でダオスの言葉の裏を取っている。精霊魔法の才能を捧げているダオスには、精霊の姿を見ることは出来ない。その精霊の中には、言葉の真偽を判別する存在もいる。裁判などで、よく使われる魔法の一つである。
「この迷宮の何処かだろう。タワーは、腹を空かせたモンスターがウロウロしているんだ。死体など、持って行かれても不思議では無い」
だが、精霊魔法は融通が利かない。その答えが真実であれば、問題ないのだ。それを知るダオスは、当たり障り無い真実のみを告げる。
「……そうか。時間を取らせて悪かった」
「えぇ、では急ぎの用事もあるのでコレで」
ダオスは、『メイデン』との血盟戦準備が必要だと計画を立てる。最後まで猿でも出来る謝罪しか行われなかった。本当に残念だとダオスは思っている。女性も安心してダンジョンに潜れる事を考えて結成された血盟の火が潰える事に心を痛めた。
その反面、ミーシャは、安堵のため息をついていた。ハーフという、アール・メルシェルの存在は、血盟の存亡に関わる可能性があったのだ。レイレナード家より、彼女が独断で救い出したので、事が露見すれば大事態なのだ。死人に口なしだ。血盟主として、立場で謝罪し頭を下げたこともあり、非礼は許されたと思っている。
双方の温度差がここに出ていた。
『ゴスペラーズ』の変態達が準備運動を開始する。
しかし、登場人物を増やすとゴチャゴチャするから、困ったぞ@@あれか、第一席とか番号と絡めたら整理しやすいとかも聞いたことがあるな。それとも、その他大勢みたいなやり方もありか・・・。
だれか、良いアイディア有ればご教授ください。
そ、そろそろ週次更新になるかもしれない。




