閑話1:何時ものこと
本編の方も書いていますが、ちょっと息抜きがしたかったの><
ダオスが20歳を迎えた時、ミーミルも同じく20歳という節目の年であった。
ミーミルは母国である『ギャランドゥ』でその誕生日を祝う為、帰国していた。付き添いとして、ダオスも同行している。ダオスは、ミーミルからお呼ばれした事もあるが、実家の家業絡みで『ギャランドゥ』王族への挨拶という重要な役目も担っている。
ダオスの実家が営んでいる『ジェネシス』は、『ハイトロン法国』を拠点として近隣諸国にも手広く商売をしている。反政府組織の壊滅から要人の暗殺まで様々だ。そんな中で、お得意様の一つが『ギャランドゥ』である。
ダオスは、ミーミルが母国を案内してくれるという事でそこはかとなく期待していた。だが、現実は非情であった。露店でお菓子を買い、ショッピングをした所まではよかった。
だが、ミーミルが近道をしようとした結果……ダオスは、今現在『ギャランドゥ』首都にある凶悪犯罪者専用の刑務所に入れられていた。そこの取調室で、鍛え上げられた鉱山夫みたいなドワーフ刑務官と対面で座っている。
「儂には、孫がいてな……ちょうど、お前さんが連れていた子くらいの年齢で目に入れても痛くないほど可愛い子なんじゃわ。だが、昨今お前さん達みたいな国外からの着た変態達のおかげで不安で胸が張り裂けそうな思いをしとる」
ダオスの目の前に座る刑務官が怖い顔をして、ダオスを睨んでいる。
ドワーフは、小柄で長寿である。その為、合法ロリ万歳という一流の変態紳士達がホイホイ集まってきていたのだ。だが、一流の紳士は定職に就いており、お金も持っている。女性に対しても真摯に向き合う性格であり、性癖を除けばどこに出しても恥ずかしくない者達だ。
よって、国家としても悩みの種となっている。
公園で幼女を見守る紳士が増えたり……海開きの時期にボランティアでライフセイバーが増えたり……孤児院に多額の寄付や贈り物が増えたりと、良いことずくめである。ただ、種族を超えた国際結婚が増えている傾向が顕著にでている。
「で、私は何時釈放されるんですか」
「そりゃ、お前さんが罪を認めて、それを償ったらいつでも釈放してやる」
ダオスが問われている罪状は、未成年誘拐罪とその他諸々だ。
当然、未成年など居ない。仮に、ダオスとミーミルがホテルに入っても何の罪にもならない。尤も、『誓い』持ちの二人がホテルに入ったところで本当にご休憩にしかならない。
「精霊魔法でも何でも使って構わないので、私が無実である事を早く理解して頂きたい。此方は、まだ仕事があるんだ」
「精霊魔法を使える者は、他の者達の取り調べをしている。早くても、明後日だ。それにさ~、いい加減設定に無理があるだろう? 『ハイトロン法国』の『ゴスペラーズ』という血盟に所属している探索者……これはいいだろう。だけど、お前が連れていた少女がミーミル王女で、王女様自ら街を案内し、近道だからといってホテル街を通ろうとしたとか、大人だってもう少しマシな言い訳をするだろう」
「全部事実だ。後、私もミーミルも"誓い"持ちだから、同性が取り調べをしてくれ。命の危険が無い限り大人しくしておく」
「そう!! それだよ!! 『誓い』って、あの有名な契約魔法だろう。そんな代物を王女が使ったなんて話は、聞いた事無いぞ。長く生きてる俺だって初めて見たくらいだ」
「なら、王家に確認すればよい。隠匿している事実だとは聞いていない」
ダオスは、平然と王家に聞けと言うが……一介の刑務官であるドワーフには荷が重い。どういうルートで確認すべきか分からない。だが、ダオスの言葉が事実であるならば、早めに対応しなければ、不味いのも事実であった。
「王女が男性をホテル街に連れ込んだ」と「変質者が少女をホテル街に連れ込んだ」の両方があった場合、人はどちらを信じるだろうか。当然、前者など宝くじで一等が当たるより確率が低いのは明白だ。よって、人はより信じやすい方を信じる。
何が何でもこの変質者を自白させて牢にぶち込んで、仕事を終わらせる結論に至った。ダオスを牢屋にぶち込むネタは他にもあった。
刑務官が手元にあった書類を確認し始めた。そこには、ダオスの所持品の検査結果が載っていた。
「刃物、薬物、注射器を筆頭にその他にも色々と持ち歩いているな。随分と良い趣味をしている。どれも特注品らしいじゃないか。うちのドワーフ達に見て貰ったが、鍛冶の腕前は一流だと褒めていたぞ」
「大枚叩いて作って貰ったからね。その製造者は、私と一緒に保護されたミーミルだ。確認を取って貰っても構わない。ちなみに、薬物は、違法薬物ではない。全てグレーゾーンの品物だ」
グレーゾーン……当然のことだが、違法薬物と認定されていなければ全てグレーなのだ。裏社会でしか流通していない様な品物も多くある。その為、表社会の住人にダオスが所持している薬物を特定する事はできない。
「チッ。まぁ、お前さんの言うとおりだ。うちの鑑識でも何の薬か分からなかったそうだ。だが、まだ終わりじゃ無いぞ。お前さん……いくら何でも、たかが引き留めようとした相手に全治二ヶ月の大怪我はやり過ぎだろう。肋骨二カ所、右腕の骨をへし折るだけに留まらず、前歯三本。しかも、男女問わず。女性には優しくしろと習わなかったのか?」
「正当防衛だ。私は、"誓い"持ちだ。異性が相手というだけで、絶命する可能性だってある。それを、殺さずに留めただけでも褒めて貰いたい。それに、男の方も同じだ。ミーミルに万が一にでも触れられたら、死んでしまう。守るためには、動けなくするほか無かった。その証拠に、後から着た警備の者達には素直に捕まっただろう」
ダオスは、留置所をぶっ飛ばして刑務所にまで送られた経緯を思い出した。
裏路地に入った際に、ドワーフ幼女が怪しい男に裏路地に連れ込まれていると勘違いし、善意から助けに来た男女二人組に重傷を負わせていた。
だが、ダオスとて言い訳したかった。突然、背後から肩に手を置かれて「あなた、その女の子をドコに連れて行くつもり」と女性に問われたのだ。そして、男性は、「お嬢ちゃん、もう安心していいぞ」といい、ミーミルを抱き上げようとしたのだ。
ダオスが、一瞬でも早く二人をボコボコにしていなければミーミルが二人を八つ裂きにしていただろう。
「特殊な事情があるのは多少なりとも理解できる。だが、過剰防衛だ。いいか!! 『ギャランドゥ』では、昨今変質者が右肩上がりで増えている。少女に声をかけて裏路地に連れ込むような不届き者が殆どだ……いいか、わかるよな?お前さんも同類だと」
「失礼な!! はぁ~、もういい加減、ミーミルを呼んできてくれ。そろそろ身元照会も出来ただろう?」
コンコンと取調室の扉が音を立てる。
扉が開き上等な服を着た刑務所長が入ってきた。刑務官は、すぐさま立ち上がり挨拶する。そして、刑務所長の後ろで手を振るミーミルを見て愕然とした。
「これは、アインザック所長!! おはようございます」
顔から脂汗が滲み……ダオスが言っていたことが真実であったのではと改めて思い始めた。所長自ら足を運ぶ事など普通ありえない。
「あぁ、おはよう。一般的な取り調べだったようで良かった。そうそう、彼は現時刻をもって無罪放免。怪我をした二人も訴えないとの事だ。彼の持ち物を含めて全てお返ししなさい。そして、全ての記録を抹消」
刑務官は、反論する事が出来なかった。
このような司法を無視したやり方を出来るのは、『ギャランドゥ』において王族以外いないからだ。よって、後ろにいる幼女が本当にミーミル王女である事を意味していたからだ。
「助かりました。アインザック親衛隊長……いいえ、今は刑務所長でしたか」
「全く、昔といい今といい。本当によく捕まりますね。いつも迎えに行く私の身にもなって欲しい」
「こういう時くらい働きなさいアインザック。何のために、ここの所長にポストを用意したと思っているの」
ここの所長は、ダオスとミーミルとは顔見知りである。元ミーミル王女の親衛隊長を務めていた者で、ダオスとも旧知の仲である。ミーミルが同盟国である『ハイトロン法国』で探索者をやる事を契機に親衛隊が解散した際、所長になったのだ。
「ミーミル王女とは知らずに、非礼申し訳ありませんでした!!」
刑務官がその場で頭を下げた。
「別に気にしないわよ。何時もの事だからね……まぁ、その中でも貴方は中々いい人よ。去年、捕まったときは刑務官がダオスの顔をボコボコに殴ってたからね」
ちなみに、この刑務官……前任者が謎の失踪をした為、ここに配属されたのだ。まさかと、刑務官は思ったが、何も聞くことが出来なかった。世の中、知らない方がいいこともあるのだ。
ダオスが席を立ち上がり、刑務官に別れの言葉を告げる。
「また、来たときはよろしくお願いしますね」
ダオスの背中を見て刑務官は、二度と来るなと叫びたくなった。




